アニメ映画『MEMORIES』の感想 – コロナ禍の今こそ見られるべき傑作

大友克洋『MEMORIES』(1995年)
出典:imdb
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作品データ

総監督:大友克洋
監督:大友克洋、森本晃司、岡村天斎
原作:大友克洋
脚本:大友克洋、今敏
出演:磯部勉、堀秀行、林勇
音楽:石野卓球、菅野よう子、三宅純、長嶌寛幸
制作:1995年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

作業員4人を乗せた宇宙ゴミ処理業者の宇宙船が救難信号を受信。
向かった先にはバラのつぼみの形をした遭難船があった。
遭難船に進入したハインツとミゲルは、かつてオペラ界で名を馳せていた女優エヴァの数々の思い出を発見する。
そして次第に不思議な現象が起きはじめ・・・・

 * * *

風邪をこじらせながらも研究所に出勤した研究員の田中信男は、所長室で風邪薬だと思って『青い瓶に入った赤いカプセル』を飲んでしまう。
そのまま応接室で昼寝をしていた信男が目を覚ますと、何故か所長を含めた研究所のメンバーが全員、悶絶して昏倒していた。
慌てた信男が本社に連絡を取ると、とりあえず極秘資料とサンプルを持ってくるように指示される。
資料を抱えて外に出た信男は、行く先々で、真冬なのにも関わらず花が咲き乱れている光景や、人々が次々と倒れてゆく光景を目の当たりにするのだった。

 * * *

大砲を撃つためだけに作られた街の、いつもと変わりない一日の物語。

 * * *

全3話構成のオムニバス。

『MEMORIES』の感想

公開当時に映画館に見に行って以来、26年ぶりに鑑賞。
かの大友克洋監修のオムニバスもの。

最近これと似たようなタイプのアニメのアンソロジーものをいくつか見たのだが、とんと面白いものが少ない。
その原因は、もう1995年の大昔にこれだけのクオリティの作品を見せられてるからだと気がついた。
そうなると、もう1回見たくなるのが人情というもの。

26年も前の作品ながら、今の時代の普通のアニメくらいは軽く蹴飛ばせるだけのインパクトがある。

しかし、それだけじゃない。

これは今こそ見られるべき内容の映画なのだということに気がついた。

というのも、この映画には現代のコロナ禍に通じるシンクロがいくつもあるのだ。

それでは順番にみていこう。

第1話『彼女の想いで』の感想

まず宇宙船の名前が「コロナ」というところで驚いた。

内容は、宇宙ステーションの廃墟で幽霊に化かされるお話し。

当時、映画館で見たときは、第1話だけはひどく凡庸な作品に思えて、「まあ、第1話はこんなもんかな」なんて感想をもったのだが、しかし今にして見ると、「宇宙を舞台にした怪談モノ」という点で、なかなか特異な個性をもった作品と言える。

霊の存在は一種のエネルギーで、性質としては電気に近いというから、怪談とSFは実は相性がいいのだ。
ホログラムと幽霊とを掛け合わせたところも、アイデアとしてはうまい。

化けて出る女の幽霊が「恋深き女のオペラ歌手」というところも、なんとなく好きだ。
ちなみにこの歌手、モデルはマリア・カラスだろうか。

大友克洋『MEMORIES』(1995年)第2話『最臭兵器』

第2話『最臭兵器』より(出典:imdb

第2話『最臭兵器』の感想

ダジャレで思いついたタイトルからよくここまで広げたという感じの作品。

しかしドンパチぬきの兵器ということで、新型コロナウイルスは生物兵器である可能性も捨てきれない現代にしてみると、笑っていいのかわからない内容ではある。

生き物は殺すのに、植物は活性化するというところも、コロナ禍で人間活動が抑制され、自然環境が改善に向かっている現状に通じるものがある。

後半はむちゃくちゃ。
軍隊がこぞって臭気の原因を武力で攻撃する。
感情の起伏が臭気を増幅させるというなら、下手なことはやらない方がいいと思うが、アブナイものはとりあえず攻撃という軍の単純バカっぷりが笑えてここはかなり楽しい。

これからの時代、生物兵器やら細菌兵器やら気象兵器やらサイバー兵器やら、どんどん戦争の形が変わってきて、武力の代わりに新たな兵器が台頭する時代になってくる。

旧来のドンパチ兵器の対極に置かれる新たな兵器との対比として、この構図は象徴的なものがあって、バカさ加減の裏にもちゃんと深さを感じた。

しかしここまで周囲の状況が明らかなのに、何も気がついていない主人公の鈍感ぶりがおかしい。
(同時にかなりイライラもするけど)。

オチがガチで最高!

大友克洋『MEMORIES』(1995年)第3話『大砲の街』

第3話『大砲の街』より(出典:imdb

第3話『大砲の街』の感想

この映画を初めて見たとき、「すごい映画を見たなあ」と見終わって金縛りあったような感激をおぼえたが、その最大の要因は最後のエピソードにドーンとこれがあったことが大きい。

ストーリーは無く、全体が大砲へのオブセッションで創造されたような街のポートレイト。
いわば大砲の街の、いつもと変わらぬ1日を描いたお話し。

家の壁紙までが工場みたいなパイプだらけ。
「いってきます」が「うってきます」になっている。
この世界観に漂う底知れぬユーモア。

例えばこんな会話がある。

「いったいお父さんたちって、どこと戦争しているの?」
「そんなことは大人になればわかる」

これは、子供がした質問は「生きる意味って何?」「人生とは?」と同じだということだ。

また、あえて無理やりコロナ禍の現代社会につなげるならば、何が本当の敵かもわからず、ただおためごかしに自粛とGOTOを繰り返し、経済をボロボロにしながら感染者の数をいたずらに上下させるだけで、実を伴わない愚かな政府の体制と同じようなものが、彼らの日常から見えてこないだろうか。

大友克洋の作品としては、後に発表された『スチームボーイ』よりはるかに面白い。

大友克洋『MEMORIES』(1995年)

出典:amazon

評価

私は『AKIRA』よりもこの映画の方が好きです。
★★★★★

Good Movie 認定


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