映画『鉄男』鉄屑はじけるバイオレンススリラー

鉄男
出典:imdb
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作品データ

監督:塚本晋也
脚本:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京
制作:1989年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

ある朝、男は自分の頬から金属片が出ているのに気づく。平凡なサラリーマンだった彼の日常はその日を境に徐々に鉄に蝕まれていく。通勤途中に眼鏡の女に襲われ、自分の体もみるみる鉄に変化してゆくのだった。

『鉄男』の感想

20年くらい前にこの映画を初めて見たときは、あまりにもグシャガシャうるさくわけわかんなくて、ほとんど頭に入ってこなかった。
改めて見てみると、89年でこのクオリティは超絶に早い。

てゆーか、今の時代のクオリティが低すぎるからそう思えるだけなのかな。
現代のインディーは下手くそなCG全盛期。
CGはヘタで当たり前、という感覚が作り手にも観客にも蔓延して麻痺状態に陥っている。
そんな現代の目にこの特撮が新鮮なものとして映るのもむべなるかな。

とにかくこんだけ無茶苦茶やって、もうただ目まぐるしくてうるさいだけの映画にはなっていないところがえらい。
それだけ1カット1カットにセンスが光っているのだといえる。
撮影の過程で絵作りにセンスを効かせて、それを編集でスクラップにしたという感じ。

途中ちょっとセクシーなショットやシーンがあるが、どうも全体の雰囲気からしたら邪魔っけというか、目障りな印象を持つのは私だけだろうか。
セクシーな部分がなかったら全体がガチッと同じ空気感にまとまった気がしてならない。

想像するに、そもそもこの映画は最初にちんこドリルの映像が最初に頭に浮かんで、そこから広げていったんじゃなかろうか。そんな気がする。

しかし、もしそうだとしても、後から盛っていった要素の方が大きい感じ。
だから完成品からしてみると、セクシーさが目障りな印象になっているのだと思う。
まさに映画そのものが鉄屑に侵食された感じだ。

こんな世界観をアタマに描いて実写で表現しきってしまうなんて、なんてスゴい才能の持ち主なんだ、塚本晋也って。

↓ここから先はネタバレあり↓

ストーリーは前半はワケがわからなかったが、途中の回想シーンでああ、最初に車で轢いた男がまだ生きてたってことなのね、と合点がいった。
そういうわけで、後半はすっかり対決もの。
そして殺しあったモノ同士が融合するという、どこかでちょくちょく見たようなモチーフでホッとする。
人は理解できないものに恐怖を感じ、理解できるものに安堵を感じるものなのだ。

最後は「さあヤリまくるぞ!」という耳に残る名台詞とともに、きっとこの後は世界が鉄に蹂躙され、その果てに世界そのものが鉄屑と融合してしまうんだな、と想像させるエンディング。
まあ解釈はどうでもいいが、とにかくスゴい映画だった。

これでおもしろかったら完璧だったのに。
そこが残念。

終始、鉄屑を尻の下に敷いて見ているような不快感が切れ目なく続く。
「ああ……とってもいい気分だ」なんて対照的なセリフが脳みそに食い込んだ。
しかし「嘘つけ!」と叫びたくなる反面、妙な説得力もあったりするから不思議だ。

おもしろいとかつまらないとか関係なく、とにかくなんだかスゴいものが見たい!
という人にオススメの映画。

評価

なんとなく、この『鉄男』をおもしろくしたら石井聰亙の『エレクトリック・ドラゴン 80000V』になるって気がした。
★★★★★

Good Movie 認定


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