映画『JUNK HEAD』の感想 – 日常がエイリアン

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作品データ

監督:堀貴秀
原案:堀貴秀
脚本:堀貴秀
出演:堀貴秀、杉山雄治、三宅敦子
音楽:堀貴秀
制作:2017年、日本(2021年劇場公開)

あらすじ(ネタバレなし)

遺伝子操作により永遠の命を得た人類は、その代償として生殖能力を失っていた。
そんな人類に新種のウイルスが襲いかかり、人口の30%が失われる。
滅亡の危機に瀕した人類は、地下で独自の進化を遂げていた人工生命体マリガンの調査を開始した。
地下調査員に志願したのは、生徒が激減したダンス講師のパートン。
今、広大な地下世界の迷路で、パートンの冒険がはじまる。

『JUNK HEAD』の感想

礼賛・堀貴秀氏

堀貴秀というクリエイターの方が原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形制作、セット、衣装、映像効果、声優など、すべてをひとりでこなして7年の歳月を費やし完成したという、狂気のストップモーションアニメ。

・・・というふれこみだが、堀貴秀氏のTwitterを読むと、実はひとりで作ったのは最初の30分だけで、残りはチームで作成したそうだ。
いや、それでも十分以上にスゴイ。

作品じたいも大きかった期待を上回る見事な出来で、堀貴秀とはどんな方なのかと興味津々でオフィシャルサイトを覗いてみたところ、本業は内装業とのこと。
しかし他にも美術塗装・壁画・店舗デザイン・絵画・操り人形・球体関節人形・漫画・木彫り・根付制作・タトゥー・アクセサリー制作など、いろいろ意欲的にやられてるようだ。
絵画展では多数の受賞歴があり、ご自身でデザイン施工したダイニングバーを経営されていたこともあるらしい。

そんなバイタリティあふれる氏がこの度ついに、映像業界にも殴り込みをかけてきた!
というのがこの『JUNK HEAD』というわけである。

これぞハイブリッド・ストップモーションアニメ

私が「ストップモーションアニメ」と聞いて即座にイメージする映像とはかなり違って、ストップモーションアニメ特有の動きの面白さが薄く、それと入れ違いに実写映画のような見応えがある。
その秘密はどこにあるのかとよくよく見ると、カメラワークや照明、そしてカット割りなどの編集が実写的なリズムとダイナミックさに満ちているのだ。

ガシャガシャした感じなど、ちょうど石井聰亙監督の『ELECTRIC DRAGON 80000V』や塚本晋也監督の『鉄男』みたいなノリに似ている。
それでいて実写では出ない、ストップモーションアニメならではの味わいも確かにあって、ハイブリッドな臨場感がこの映画のオリジナリティの秘密なのであった。

堀貴秀『JUNK HEAD』

実写映画のようなカッコいいカメラワーク(出典:映画『JUNK HEAD』公式サイト

プリ設定が最高な件

映像だけじゃなく、ストーリーも一級品。

プリ設定が最高で、オフィシャルサイトの説明によると、環境破壊による汚染が進み、新たな新天地を地底に求めた人類は、人工生命体マリガンを創造して地下開発にあたらせた。
ところが自我に目覚めたマリガンたちが人類に反乱、地下を乗っ取ってしまう。
それから1600年もの月日が経過して、やっと始まる物語がこの映画の本編というわけだ。

現在の人類は遺伝子操作によって永遠の生命を得ていたが、その代わり、生殖能力を失っていた。
そこに新種のウイルスが猛威を振るい、人口の三割が死滅。
このままでは絶滅かと危惧を抱いた人類は、マリガンの生殖システムの調査をはじめることにした。

調査員に志願したのは、ウイルスによって生徒が激減したダンス講師の主人公パートン。

こうして地下世界にやってきたパートンが経験するめくるめく地下世界のパノラマが、この映画のストーリーである。

冒険ものとしてもエキサイティングに楽しめるが、コメディとしてもなかなか笑える。

無限に広がる地下世界

地下には奇妙なマリガンたちや、マリガンの突然変異によって生まれたとおぼしきクリーチャーどもがうじゃうじゃと、怪しくもおぞましい世界を形成している。
世界観の説明がそのままストーリーであり、ストーリーがそのまま世界観の説明というスタイルで、われわれ観客はパートンの視点になって、この狂気に満ちた地下世界ツアーを体験してゆくのだ。

セットにもクリーチャーにもアイテムにも、隅々に至るまで破壊的で創造的なイマジネーションが凝縮されていて、見る前は地下世界なんて窮屈で息が詰まりそうなイメージがあったが、あまりのその想像力の壮大さに、逆にどこまでも広がってゆくようなクリエイティブな開放感を感じた。

メイキングを見ると、あの閉鎖的な一個のスタジオで、これほどのムゲンな地下世界が創造されたのかと感動さえおぼえる。

↓ここから先はネタバレあり↓

日常がエイリアン

私が好きなのは、主人公がバルブ村の筋肉ムキムキ女マリガン・マルギータに頼まれてクノコという人間のクローンボディを使って人口栽培されたきのこをとってくるくだり。
騙されたり食われそうになったりの、おぞましくも笑える異世界冒険ツアーの白眉がここであった。

しかしこいつら、よくこんな世界で生きてるよな。
普通に日常がエイリアンのクライマックス状態で、命がいくつあっても足りなそうだ。

永遠の命を得て繁殖能力を失った人類が、弱肉強食のデンジャラスな地下世界で新たな生命の源泉を探すという、対比的な符号が意味深い。

死に直面してこそ、生命は種の繁殖を真剣に願い、そのシステムを確率できるのである。

期待しかないラスト

最後は尻切れトンボのような終わりかただが、この映画はストーリー的に三部作の一作目らしく、予算さえ集まればあと2作、続編の予定があるそうな。
めちゃくちゃ続き見たい。

尻切れトンボとは言っても、物足りなさはない。
逆にこれからの展開に期待させるワクワク感だけで心が満たされる。

最後にエンドクレジットが流れてきて、そこに並ぶ名前のほとんどが堀貴秀である、その光景にハッとさせられた。

あまりにも緻密に構築された世界観に、私はこの映画を見ている間にいつのまにか、これがほとんどひとりのアーチストによって造られたものだという事実を感覚的に忘れてしまっていたのだ。

すでに知っていたはずの事実を、黒い画面に同じ文字の羅列というビジュアルによって改めて突きつけられ、目の覚めるような感動を覚えた。

しかも、そのバックに流れるこのエンディングテーマがまた最高なんだ。

これ以上の完璧な締めもなかなか無いものだ。

アテレコ版も見てみたいと思った件

最後に余談だが、この映画では登場人物がわけのわからない言語をしゃべっている。
これは、ほとんどのキャラクターの声優を監督の堀貴秀氏がやっている事実を誤魔化す工夫でもあるような気がするが、それが返ってこの奇妙な世界観の構築に大きく貢献している。

しかし私は個人的に、普通にプロの声優さんが日本語でアテレコしたバージョンも見てみたいと思った。

これはこれで最高に効果的だし、改善すべき面はまったくないんだけれども、ただ別物として、ちゃんとした声優さんが日本語でしゃべっているバージョンも見てみたいのだ。

『メトロポリス』のジョルジオ・モロダー版みたいな、他のアーチストとのコラボという形でいいから(いや、むしろその方が。堀貴秀氏はぜひこの続編と新作に集中してもろて)、いつかやってほしい。

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評価

最高点は三部作が完成した暁にということで、今後への期待を含めてこの評価。
★★★★

Good Movie 認定

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