中国ドラマ『永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)』の感想

永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)
出典:imdb
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作品データ

原題:三生三世十里桃花
演出:リン・ユーフェン
原作:唐七公子
脚本:ホン・フゥオ
出演:ヤン・ミー(楊冪)、マーク・チャオ(趙又廷)、ケン・チャン(張智堯)、ディリラバ、レン・イーミン(連奕名)、ガオ・ウェイグァン(高偉光)、チャン・ビンビン(張彬彬)、アラン・ユー(于朦朧)
制作:2017年、中国

ストーリー(ネタバレなし)

神々たちは天族、孤族、翼族など、いくつかの部族にわかれて世界を支配していた。
青丘を治める九尾狐族の娘・白浅(バイチェン)は、男装して司音(スーイン)と名乗り、天族の聖地・崑崙虚で、武神・墨淵(モーユェン)の17番目の弟子として修業をはじめる。
それから2万年後、天族と翼族との戦いが始まり、墨淵は翼族の王・擎蒼(チンツァン)を封じるために犠牲となって命を落とす。悲しむ司音は、ひそかに彼の亡骸を引き取り、青丘に帰る。
司音が白浅に戻って7万年が経った頃、擎蒼の封印が解かれそうになる。
擎蒼を再び封じようとした白浅は、反撃にあい、すべての力と記憶を奪われ人間界に落とされる。
白浅は人間界で、墨淵にそっくりの風貌をした夜華(イエホワ)と出会う。
夜華に素素(スースー)と名付けられた白浅は、彼と愛しあうようになるが、それは数百年にも亘る、数奇な恋物語の序章にすぎなかった。

『永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)』の感想

ひさしぶりに中国のドラマを見たのだが、もうとにかく、よかった。

毎回毎回、ずっと見ていたい気にさせられた。
エンディングテーマが流れはじめると、「ああ、もう終わっちゃった」と心から残念に思った。
でも1日1話だけしか見ないと決めていたから、続きが見たくても我慢した。
何度か我慢できなくて1日に2話見てしまったこともあったけど。

最終回が近づくにつれて、ああ、もうすぐ終わっちゃう、どうか永遠に続いてくれ……そんな気持ちは高まるばかり。
ここまでドラマにハマったの、何年ぶりだろうか。

しかし最後まで見てつくづくこのドラマ、オフィシャルに書いてある一口ストーリー紹介の文句「三世に渡る一途な愛と激動の運命」とか、キャッチ「何度生まれ変わっても、私は貴方とめぐり会う」の嘘っぷりが激しくて呆れる。
そういうお話しとは違う。
それからNetflixでの邦題『エターナル・ラブ』、これもメロドラマっぽくて好かん。

私は正直、このストーリー紹介とキャッチとNetflixの邦題をみて、「ちょっと眠たそうなお話しだな」と思った。
恋愛映画は好きなのだが、最近はこのジャンルから遠ざかっていたこともあり、少し見るのを躊躇した。
しかし中国の伝奇アクションものが大好きなので、予告編を見たらそれっぽいシーンがあったこともあり、見てみることにしたのだ。
もう、見て本当によかった。

そういうことだから、私と同じように、このストーリー紹介とキャッチとNetflixの邦題をみて萎えた方は、どうかその印象を信じずに、とにかくオススメなので見てほしい。

永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)

白浅(バイチェン)と夜華(イエホワ)(出典:imdb

このドラマの最高に斬新でおもしろい点は、古代中国の神仙思想に則った世界観で、現代的な恋愛ドラマを描いている、というところ。

例えば現代のスピリチュアルの感覚で言うと、生き物は死んだらカラダから魂が抜けて、天国なり地獄なり、死後の世界へと旅立ってゆくことになっている。
そして神様や妖精なども、基本的には魂と同じような存在、ということになっている。

ところが昔の中国では、神様や妖精も、われわれ人間と同じく肉体をもった存在で、刃物で刺したら死ぬし、寿命もある。
これは古代の日本も同じで、例えば『古事記』に出てくるイザナギなどは火傷で死んだりする。

それでは昔の中国人や日本人に魂の概念はないのかというと、そういうわけではない。
人間も神様も死んだらカラダから魂が抜けるところまでは現代の感覚と同じ。
ただ古代の中国や日本には死後の世界の概念というものがなく、カラダから抜けた魂は空気のように大気中に散らばり、大自然と一体化してしまうのである。

じゃっかん時代や作品間で微妙な違いはあるが、古代中国のスピリチュアルな概念というのはざっくりそういう感じなのだ。

これらの世界観を頭に入れておかないと、このドラマの数々のセリフがワケわからなくなる。
なんと言っても、登場人物は全員、神様だし、舞台の半分は天上界なのだ。

例えば神様が死んでその魂がどこかへ行ってしまった、みたいなセリフがあるが、われわれ現代の日本人の感覚だと「死んだ者の魂が行くその先がまさに天上界なんじゃないの?」とか、つい間違ったツッコミを入れてしまいたくなる。

あとそれから、古代中国の神仙思想の世界観で重要なのは、神様の1日は地上の人間の1年にあたる、という点(『西遊記』などでもお馴染みの設定だね)。
この神様と人間との時間感覚の違いもストーリー上のおもしろいポイントのひとつに使われていた。

もちろんストーリーそのものも良いのだが、それ以前に、ストーリーの過程で説明されてゆく世界観が実に興味深くておもしろかった。

とはいえ、このドラマ、実は私、最初はなかなかノレなかった。
というのも私は「男装のヒロイン」というモチーフが苦手なのだ。

第10話をすぎて、主役の白浅(バイチェン)が人間に堕とされるあたりからやっとおもしろくなってきた。

↓ここから先はネタバレあり↓

人間になった白浅を、夜華が天上界に連れてゆくあたりから、もうおもしろさは最高潮に。
お互いの正体を知らないで愛しあっているふたり、というよくある恋愛映画のシチュエーションが、神仙界まるごと巻き込んでもつれあうという、この独特なスケール感。

また、本筋の白浅と夜華の恋の行方も気になるが、並行して進む白鳳九(バイフンチウ)と東華(トンファ)帝君との伏線も興味深い。
本筋から独立しつつ、微妙に本筋と絡んでゆく構成が絶妙だった。

中盤あたりから、人間界がストーリーに大きく関わってくるのだが、このあたりの過程で、神々と人間との感覚の違いがところどころ浮き彫りになっていて、こういうところもおもしろい。

例えば、白浅は人間に転生しているあいだ何年も行方不明だったのだが、戻って来れば家族は「やあ、おかえり」なノリ。
人間界なら家族が何年も行方不明だったら大問題だが、何十万年も生きる神々にとっては、人間として生きた数年などちょっとそこらへんをぶらぶらしてきたくらいの感覚なのだろう。

帝君が人間に転生したときの天上界での神々たちの会話もおもしろい。
「帝君はどうしてる?」「今頃は人間界で殺されかかっているところです」「そうかそうか。それは大変だな」などと雑談しながらわっはっはっ、と笑い合っているのだ。

このドラマのこういうところを見ているとしみじみ思うが、われわれ人間は、神様からしてみたら苦行の場と言えるほど、苦しみと悲しみに満ちた世界に生きているのだな。
そんな世界に生きて、われわれは魂の研磨をしているのである。
ふと、ロドリゴ・ガルシア監督の『美しい人』という映画を思い出した。

とはいえ、神様たちも恋や嫉妬に苦しんだり、けっこう大変そうだけれども。

永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)

白鳳九(バイフンチウ)(出典:imdb

ストーリーや世界観だけじゃなく、神々たちの生活が細部まで丹念に描き込まれているところもよかった。
衣装や背景、小道具に至るまで端々に、そこで生きている神々たちの日々の生活が感じられるのだ。
神仙に感情移入しながら、彼らの日常を体感できるなんて、素晴らしいドラマではないか。

映像も美しく、このドラマ、物語を追う以外に楽しめる要素がいっぱいである。

さっきこのドラマは古代中国の神仙思想の世界観で、現代的な恋愛ドラマを描いている、と書いたが、実はこのドラマが描いている“現代”は恋愛の他に、もうひとつ重要なものがある。

このドラマでは、神仙の世界を天族・孤族・翼族、といった風に、部族に分類している点に注目したい。
これは多民族国家である現代の中国と重なるものがないだろうか。

登場人物が多くてキャラクター性が豊かなこのドラマにあって、孤族気質・天族気質・翼族気質みたいなものがちゃんと描き分けられてる。
ざっくり言うと、天族は厳格で真面目で尊大、孤族はおおらかで大雑把(しかし頑固で一途)、翼族は陰気で感情や欲望に流されるタイプ、といった感じだろうか。

この部族間での考え方や感覚のギャップのようなものが、物語をややこしくする役割を果たしているのだ。

例えば序盤で翼族の離鏡(リーチン)と孤族の白浅は恋に落ちるが、離鏡の浮気でふたりの恋はすぐ破局に追いやられる。
これなど一途な孤族に対して翼族は浮ついた性格すぎたことが原因の本質にある。

帝君と白鳳九の恋愛をこじらせたのも、天族が思うよりはるかに孤族は頑固で一途だったからだ。

こういう異民族どうしの摩擦みたいなものは、グローバル化の波が猛威をふるっている昨今、世界中の映画やドラマで最近とみに描かれている共通のモチーフだといえる。

これらの部族間の大ギャップを演出する大きな柱のひとつであるキャラクター・白鳳九を演じているのが、ウイグル自治区出身の女優・ディルラバという符号も興味深い。

永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)

素錦(スーチン)(出典:imdb

ちなみに夜華をとられた素錦(スーチン)が嫉妬のあまり、ネチネチと白浅に嫌がらせをするのだが、この部族間のギャップを意識しながら見ると、実におもしろいものがある。

九尾孤族は天族の人間が想像する以上に気性が荒く、根に持つタイプだ。
かつて翼族に墨淵(モーユェン)が殺されたとき、すでに翼族が降伏を申し入れているのにも関わらず、白浅は「皆殺しにしてやる!」といきり立っていたではないか。

つまり素錦は、そうと知らずに、自分の足元で爆発する地雷を自ら育てていることになるのだ。
途中でこのことに気がついてから、素錦が白浅に意地悪をするたびに、その末路を想像しておかしかった。

そして予想通り、素錦は最後の方で白浅にこっぴどく罰を受ける。
ここは溜飲が下がる面もあるが、この頃にはもうすっかり素錦というキャラクターに愛着がわいていたので、彼女が天上界を追放されるまでに至ったときは、ちょっと可哀想だと思ってしまった。

ほとんどすべてのキャラクターに愛着があると言っても過言ではないが、とくに印象に残ったのは、やはり声優さんのうまさも含めてこの素錦。

そう、話しが脇道にそれるが、中国のドラマを見ていて気になるのは、声がすべて別の声優さんによる吹き替えだということ。
こないだYouTubeでこのドラマのメイキングを見ていて、主役の白浅の役をやっている女優さん、ヤン・ミー(楊冪)の実際の声がぜんぜん違うのを知って衝撃を受けた。

(こちらがそのメイキング動画)

とはいえ、声優さんたちの演技にも中には素晴らしいものがあった。
司命(スーミン)なんて他に考えられないくらい板についてる。

閑話休題。

とにかく素錦の声をやっている声優さんが最高。
激昂してしゃべるときの名調子は悪いやつなのに思わず胸を打たれる。
声優さんの功績も含めて、私は素錦がキャラクターでは一番印象深かった。

最終回について。
最後は絵に描いたようなハッピーエンド。

それにしても、すっかり騙された。
夜華はてっきり本当に死んだと思っていた。
視聴者をがっかりさせて、なんちゃって、とばかりにハッピーエンドをもってくる。
そんな古典的な手口に見事にひっかかってしまった。

それにしても結末を読ませないようにするために、ずいぶん徹底して夜華が死んだ喪失感を描いたなあ。
こんなラストのドラマもたまにはいい。

しかし本筋よりも、白鳳九と帝君との恋の結末が素晴らしかった。

白鳳九は帝君に、「三生石から自分の名前を削除していなかったら、わたしを愛してくれましたか」と質問をする。
それに対して帝君は、何話にもわたる長い躊躇の末、「YES」と答え、さらに「人間に転生したのはそなたの想いに応えたかったからだが、それ以上に、自分の想いを遂げたかったからでもある」と、質問された以上の答えを返す。
その答えでやっと、白鳳九は青丘の女帝として生きてゆく踏ん切りをつけることができたのだ。

こういう形で、最終的には「結ばれなかった」けど、「過去にいっときだけ結ばれた記憶の昇華」という形で成就される、そんな恋の結末の描き方もあるんだな。
ある意味これは、ものすごく高度な次元のハッピーエンドだと言えるかもしれない。

永遠の桃花~三生三世~(エターナル・ラブ)

相関図(出典:imdb

臙脂(ヤンジャ)と子闌(シーラン)が結ばれなかったところもいい。

このストーリーの流れで、帝君と白鳳九、臙脂と子闌が結ばれていたら、少女漫画かライトノベルの軽さまで質が落ちていただろう。

このドラマは伝統的な古代中国の神仙思想の世界観で、現代的な恋愛ドラマを描いたもの、と最初に書いた。
そこでラストの焦点になるのは、

1)恋愛の結末を伝統的な世界観に則ったものにするのか
2)それとも現代的な恋愛ドラマの感性に従うのか

という選択肢である。

このドラマは(1)の選択肢をとったのだ。

そしてそれは大正解だったと思う。

3つの恋愛エピソードのうち、本筋のひとつだけウルトラCを発動させて、残り2つは折り目正しくまとめあげる。

つまり4人は色恋沙汰より、神様として、部族の一員としての天命に従う道を選ぶのだ。

これでラストがキリっとしまった印象になった。

そういえばこれも書いとかないと。
離鏡の最期がめちゃくちゃカッコよかった。
やられ方は呆気なかったが、擎蒼と対峙するシーンは全58話中この俳優の最大の見せ場だったといっていい。

いやあ、キメるもんだねえ。
こういうキメるべきところでしっかりキメてくれるやつは好きだ。
長嶋だって猪木だってそういう男だった。
さすがプロの俳優。

ラストシーンは夜華と白浅の桃林での会話で終わり。
最後は華やかな映像でふたりの結婚式&夜華の天帝就任まで見たかったけど、まあいい。
ヤボなことは言うまい。

 * * *

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出典:amazon

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評価

中国ドラマの最高傑作かも。
★★★★★

Good Movie 認定


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