映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の感想 – ドラマ版を先に見るべし

リップヴァンウィンクルの花嫁
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作品データ

監督:岩井俊二
原作:岩井俊二
脚本:岩井俊二
出演:黒木華、綾野剛、Cocco
音楽:桑原まこ
制作:2016年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

七海はSNSで知り合った鉄也と婚約する。しかし七海は結婚式に出席してくれる親戚や友人が少ないので、「何でも屋」の安室に出席者のサクラを依頼する。
無事に結婚式が終わった矢先、鉄也の浮気が発覚。しかし鉄也の母から、逆に浮気の疑いをかけられ、七海は家を追い出されて離婚させられる。
家と夫を失い、路頭に迷う七海に「何でも屋」の安室は他人の結婚式のサクラのバイトを紹介する。そこで七海は真白という女性と知り合う。
続けて安室は七海に新たにメイドのバイトを紹介するのだが……。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』の感想

前にドラマ版を先に見て感動して、映画版はまた違った編集だと聞いていたので、どんなものかと楽しみに見た。
これが驚き。

大昔、森田芳光監督の『家族ゲーム』という映画がテレビ放映されたとき、最も重要なシーンを森田監督みずからカットして放送するという、大胆な試みをしたことがある、あれを思い出した。

これはドラマ版を先に見ていて正解。

ドラマ版は映画版と比べると、淡い、ふわっとした、美しいお話しだった。

映画版はもっと醜く、残酷だったけど、何か強烈に心にくいこんでくるものがあったのだった。

実にドラマ版には、非常に重要なシーンがいくつも抜けていたのだ。

↓ここから先はネタバレあり↓

リップヴァンウィンクルの花嫁

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例えばウエディングドレスを着て楽しい夜を過ごした後、家のベッドで真白と七海が会話をするシーン。
「わたしにはね、幸せの限界があるの」と真白は悲しげに告白し、七海は無償の愛を誓う。

また、真白が七海を雇った本当の意味を、安室が明かすシーン。

そして七海と安室が真白の母の元に遺骨を届けるシーン。

これらのドラマ版になかったシーンが大きく物語るのは、七海と真白の真の愛の姿と、安室の仕事の罪深さである。

ふたりの愛も、何でも屋の贖罪も、ドラマ版にしっかり感じられたが、どちらもその意味合いの大きさは爆竹(ドラマ版)と爆弾(映画版)ほど違っていた。

私はドラマ版を見たとき、この作品は「寂しさにとりつかれていたひとりの女性が、その死を前に、限りなく最高の幸せを手にすることができた物語」と描写した。
つまりこの物語において七海は一見すると主役にみえるが、その実、七海の主観を通して描かれた真白の物語なのだと私は無意識に受け取っていたのだ。
(書いているときは気がつかなかった)

しかし映画版は違う。
映画版が紡いだ物語は、身よりもなく友達もなく仕事もない不器用な女性が、何でも屋の餌食にされようとしたところ、図らずも人の心が受け止められる幸せの限界にふれ、命を守られるお話し、なのだった。

そして「遺骨なんて川にでも捨ててくれ」と言っていた母親が、亡くしたひとり娘の気持ちに寄り添おうと全裸になって泣き崩れ、非道の何でも屋までが男泣き。
そこでなんだか吹っ切れたようになる七海。

ラストで七海は「オーライ、オーライ」と、安室の車のバック誘導をする。
そして、もっと大きな声で「ありがとうございました!」と去ってゆく車に声をかける。

そう、あるいはこれは「声が小さかった女の子が、大きな声を出せるようになるまでのお話し」と言い換えてもいいのかもしれない。

映画を見終わってやっぱり心に残るのは、ウエディングドレスを着ている七海と真白のツーショット。
このふたりのウエディングドレス姿を眺めているだけで無性に泣けてくる。
間違いなくこの画のためにこの映画はあったのだ。

評価

ウエディングドレスを着たふたりの少女の姿を通して、幸せの大きさの限界と、平凡な幸せの有り難さを描いてみせた岩井俊二監督の才能に最高点。
★★★★★

Good Movie 認定


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