タイドラマ『転校生ナノ』シーズン2の感想 – ナノとユリの攻防を分析

ドラマ『転校生ナノ』シーズン2
出典:imdb
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作品データ

原題:เด็กใหม่(転校生)
監督:Pairach Khumwan、Khomkrit Treewimol、他
脚本:Kongdej Jaturanrasamee
出演:チチャー・アマータヤクン、チャンヤ・マクローリー
制作:2012年、タイ

あらすじ(ネタバレなし)

ナノが毎回、どこかの高校に転校して、悪いやつらや偽善者を、サディスティックに懲らしめる。
しかし、そんなナノの活動を邪魔するユリという少女が現れた。

『転校生ナノ』シーズン2の感想

『転校生ナノ』シーズン2を見て感じた使命について

シーズン1の記事が無いのに、いきなりシーズン2の感想を書いてしまうわけは他でもない。

シーズン1を見はじめて、つまらなくてすぐに見るのをやめた。

しかし私は、例え見るのをやめると決めたドラマでも、一応、最終話まで全話をザーッとチェックする習慣がある。
万が一、途中から面白くなる可能性もあるからだ。

そんなわけで、1話につきだいたい5分くらいの時間をかけてチェックしていったら、シーズン2でユリが登場してからむちゃくちゃ面白くなったので、シーズン2はじっくり見ることにした。

最後まで見たら、これがシーズン2はすごい傑作だったのだ。

ところが、ネットでの皆の感想を読むと、「シーズン1は面白かったが、シーズン2でユリが登場してからダメになった」という感想が非常に多い。

これは至極当たり前のことで、シーズン2を見る人たちのほとんどは、シーズン1が面白かったから続けてシーズン2を見たのである。
そんな人たちにとって、内容に大きな変化があれば、不満を抱く者が出るのはごく自然なことだ。

だいたい、シーズン1の面白さとシーズン2の面白さはまったく別モノである。

シーズン1は毎回、主人公が不思議な事件に関わってゆく「世にも奇妙な物語」系のシリーズだった。

しかしシーズン2でユリが登場してからは、女子高生たちが血まみれになって闘いあう、映画『バトルロワイヤル』のような、日本のアニメや漫画でよくある「血まみれ女子高生バトル猟奇系」の面白さである。

おそらくシーズン1をつまらないと思った方は、その時点で見るのをやめている場合がほとんどだろう。
まさかその向こうの展開にこんな面白い美少女たちの血みどろの攻防が描かれているとは知らぬまま。

だからこのような記事を書いて、『転校生ナノ』シーズン2の素晴らしさを世に広めるのは私の使命だと思った次第である。

ドラマ『転校生ナノ』シーズン2のナノ

悪いやつをネチネチいたぶるのが好きなサディストのヒロイン・ナノ(出典:imdb

シーズン1の残念さについて

まずは、シーズン1について。
(本題であるシーズン2の感想をさっさと読みたい方は次の見出しまで飛ばしてください

とにかくシーズン1の問題は、その激しい既視感とストーリーのいちじるしい破綻ぶりにある。

ひとつひとつのエピソードがことごとく、私が子供の頃に読んだ日本の漫画『エコエコアザラク』や『笑ゥせぇるすまん』などの焼き直し。

とりわけ『エコエコアザラク』に似すぎ。
『エコエコアザラク』では毎回、高校生の黒井ミサが転校を繰り返し、行く先々で悪いやつをこらしめたり、奇妙な事件に関わったりしてゆく。
悪い奴のこらしめ方も、あからさまに攻撃するんじゃなくて、人の心の闇をあぶり出し、自ら自滅するような形でラストへ持ってゆく。
いわゆるこの『転校生ナノ』と同じなのだ。

それでも出来がよければこれはこれで楽しめるってこともあるのだろうが、この『転校生ナノ』は、脚本に問題があるのか知らないが、毎回ストーリーや設定にヒドい破綻がある。

中盤にオリジナリティのあるそこそこ面白いエピソードがいくつかあるにはあるが、まず、シーズン2のユリが現れてからの秀逸さと比較すると、私にはシーズン1は凡庸な出来に思えた。

前置きはこれくらいにして、シーズン2の素晴らしさを語っていこう。

ドラマ『転校生ナノ』シーズン2のユリ

ユリ – このキャラクターの登場でこのドラマはめざましく変わる(出典:imdb

いきなりシーズン2のすゝめ

シーズン2の第3話あたり、ユリが登場するようになってから、このドラマは嘘のように面白くなる。

『エコエコアザラク』の焼き直しみたいな設定も、ライバルとの攻防が描かれることで、かなりオリジナリティが出てきた。

ちょっとお話しが毎回、破綻しているところも、シーズン1ではほとんど欠点でしかなかったが、ユリが現れてからは、いい感じのシュールな味付けに印象が変わった。
それに映像表現はそれなりに凝っているから、余計シュールっぽいストーリーの妙が浮き立つ。

しかし何より面白いのは、ナノとユリの戦い。
毎回、どちらか、もしくは両方が、死んだり血だらけになったり。
華やかなドラマとはこういうものだ。

このドラマ、「ユリ」とか「ジュンコ」とか「ナナ」とか、キャラクターの名前をみれば、日本の猟奇的な映像メディアに影響を受けていることは明らか。
しかし日本でもなかなかこれくらいのクオリティのものは多くないほどすばらしい。

ちょっと歪なストーリー展開と、映像にちりばめられた美しい違和感。
それらの芸術性にまともに張り合っているナノの演技力がスゴい。
表情といい笑いかたといい、この子は本当に役者である。

特にシーズン2の第6話以降の3つのエピソードはすべて神回だった。
(その中でも私が一番好きなのが第6話)

もしこのドラマのシーズン1を見はじめて、あまり好きじゃなくて見るのをやめた方がいたら、ぜひ、シーズン2から見てみてほしい。
1話完結のお話しだから、シーズン2からいきなり見てもお話しはじゅうぶん通じる。

シーズン2はシーズン1とはまた違った良さがあるので。シーズン1が気に入らなかった方は、私のように、シーズン2は面白いと感じる方が結構いるのではないかと思う。

↓ここから先はネタバレあり↓

ドラマ『転校生ナノ』シーズン2の神回の第6話

最大の神回・第6話『解放』(出典:imdb

ユリは如何に誕生し、何故ナノのライバルになったのか

どうしてユリは誕生し、ナノのライバルになったのか。

私はてっきり第5話のユリの「わたしを生き返らせてくれてありがとう」というセリフから、ナノが気まぐれでユリを生き返らせたのだと思っていた。
しかし最終回まで見ると、実はユリが生き返ったのは、水の中でユリが殺される直前、ナノの血を飲んだからなのだ。

ナノの血を飲んでナノと同じ能力を授かったユリは、第二のナノになろうと、ナノにつきまとってそのノウハウを学ぼうとする。

ユリがナノに付き纏いはじめたのは、最初はナノの活動への興味だったと思うのだが、ユリはすぐにナノのやり方は自分には合わないことに気がついてしまう(次項で解説)。

そこでユリはすぐに、ナノの立場に自分がとってかわることを考えはじめるのだ。

そして最後、ユリはナノを死に至らしめ、自らの血をジュンコに与えることで、自分の下位を設けてナノの立ち位置になる。

しかしナノは屋上からそんなふたりを見下ろしていて……。

美しく紡がれたラストだった。

ナノとユリの攻防を分析

最後に、ナノとユリの勝敗成績も含めて、ふたりの攻防を順に追っていくことで、このドラマをさらに深く分析してみたい。

第5話:SOTUS – ユリの勝ち

ユリがナノのネチネチしたやり方にじれったくなり、勝手にターゲットのトドメを刺してしまう。
ナノはつまらなそうに去り、ユリはヘラヘラ笑ってターゲットの最期を見届ける。
ターゲットの最期の一撃に合わせてユリが舌をコン、と鳴らすラストがにくい。

これはナノが呆れて手を引いたため、とりあえずユリの勝ち。

第6話:解放 – ナノの勝ち

校則に厳しい学校の教師たちをこらしめようとしたナノ。
相変わらずナノのネチネチとしたやり口が見ちゃいられないユリは、教師側につくと見せかけ、学校の秘密を入手。
さっさと学校を裏切ってナノを殺させ、生徒たちを扇動し、暴動を起こして教師たちを窮地に追い込む。
しかし生き返ったナノは教師と生徒たちを手打ちにさせ、教師たちの怒りの矛先をユリひとりに向けさせることで、ユリを血祭りにあげることに成功。
これはユリの完敗。

とりわけシュールで好きなエピソード。
映画的な映像表現が非常に効果的で、音楽の使い方も素晴らしい。

第7話:ジェニーX – ユリの勝ち

ナノはいっけんターゲットの望みを叶えるとみせかけ、ターゲットの欺瞞を炙り出そうとする。
しかしユリの横やりが入って、ナノの計画は台無しに。
しかしそれを、ナノがターゲット本人に成り代わり、ターゲットの存在意義をこの世から抹殺する、というアクロバットな裏技で挽回する。
しかしその結果、ナノはターゲットを必要以上に潰してしまい、そこにフッと生まれた良心の呵責をすかさずユリにつけ込まれる。

直前までナノの勝利は確定かと思われたが、ここにきて意外なユリの逆転劇。
最終話につながる人間・ナノの本性(?)が露呈してしまう。

第8話(最終話):審判 – 最終結果は・・・?

人間・ナノはまだ傷が治らず、ターゲットを見誤る判断ミスまで。
その隙間にユリが入り込んできて、「人間」が善悪を裁く難しさを糾弾する。
前話から続くユリの誘導に見事ハマってしまったナノは、勝手に自分たちで争いはじめたターゲットのジュンコとその母を、土壇場でナイフをつかんで押し留める。
そこでいきなり「ふざけんなこうなったのはもとはといえばみんなてめえのせいじゃねえか」とばかりに、母はいきなりナノを惨殺。
続いてジュンコが母を殺し、ユリはジュンコに自らの血を与え、ナノのもとを去ってゆく。
それを見下ろすナノは、これからの時代、まだ世界はわたしを必要としているのかと自問する。

完璧なラスト。

そしてこれから・・・

最後はユリの勝利とも言えるし、ナノはもっと達観した立場で、ユリに立場を譲ったのだととらえれば、すべてナノの掌の上だったとも言える。

問題はジュンコだ。

3人の少女のキャラクターをひと言であらわしてみると、さしずめ

ナノはサディストのヒロイン

ユリは短気な裏切り者

しかし、ジュンコは好奇心旺盛な復讐者なのである。

自分を車椅子に押し込め、虐げてきた世界へ復讐する、という口実で、ジュンコが人間を次から次へと切り刻んで解体してゆく未来が見えてくる。

そんなジュンコをユリは持て余し、ナノはそれを達観した立場で笑って見下ろしている。

そんな展開が見えてこないだろうか。

シーズン3をぜひ作ってほしい。

ドラマ『転校生ナノ』シーズン2最終話のジュンコとその母

好奇心旺盛な復讐者・ジュンコとその母(出典:imdb

評価

ナノとユリとジュンコのこれからが見たい! そう心から思わせる素晴らしいドラマ。
ちなみにシーズン1の評価は★★★★★ってとこかな。
★★★★★

Good Movie 認定

コメント

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