映画『シン・ゴジラ』の感想 – “災害伝承碑”的 怪獣映画

シン・ゴジラ
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作品データ

総監督:庵野秀明
監督:樋口真嗣
脚本:庵野秀明
出演:長谷川博己、石原さとみ、竹野内豊、市川実日子、余貴美子、國村隼、柄本明、大杉漣、小野孝弘、塚本晋也、鶴見辰吾、ピエール瀧、前田敦子、古田新太、松尾スズキ、原一男、高橋一生、岡本喜八(写真のみ)
音楽:鷺巣詩郎、伊福部昭
制作:2016年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

東京に謎の巨大生物が現れた。
その巨大生物は進化し、さらに巨大になってゆく。
そして東京を破壊しはじめた。
前代未聞の事態にうまく対応できない日本政府。
その巨大生物は「ゴジラ」と名付けられ・・・。

『シン・ゴジラ』の感想

はじまってすぐにエヴァンゲリオンみたいな場面の連続にワクワクが止まらない。

風景などの空ショットを巧みに差し挟んだ緻密なカット割り。
最初の方の、モノレールの背景に水しぶきが上がるロングショットに続いて、トンネルの天井から血がダーッと流れてきて、すぐに東京の上空にカットが変わるところなんてもう鳥肌が立ちまくった。

ゴジラが現れてからも、カッコいいロングショットばかりでもう大興奮。
高層ビル街のど真ん中にゴジラが君臨し、少し離れた河川敷に戦車がズラリ並んで攻撃する俯瞰ショットなんて、あまりのカッコよさに「うおぉぉ〜っ!!!」と叫びたくなった。
俯瞰やあおり、ロングショットに、なめショット、あらゆるカメラワークを駆使し、ただゴジラが歩くだけのシーンをなんとまあ臨場感たっぷりに描くこと。

日本映画の約八割を占めるクソ監督ども!!!
その目をかっぽじってこれをよく見とけ!!!

ってなもんだ。

ゴジラのCGも素晴らしい。
リアルな質感を完璧に再現していて、CG感がまったくない。
ヘタクソなCGって、生物が動くときにヘンなところがへこんでたり、盛り上がったり、波打ってたり、硬かったり、曲がりかたが不自然だったりするものだが、今作のゴジラは第一形態からすべて、その肌の質感に合った動きがほぼ完全に表現されていた。

自衛隊のミサイルでも破壊できない表皮。
その硬さに見合った動き。
巨大さに反比例するスピード。
これらをしっかり考慮に入れた上でのリアリティが生きているCGであった。

このゴジラがチャチだと言う人がいるらしいけど、きっとこのハリボテ感を言ってるんだろう。
でも本当にこんな巨大なモノが東京をノシ歩いてたら、実際こんなもんだと思うよ。
スゴい光景って往々にして、「なんだか作りものみたい」って印象を醸すものだ。
これをチャチで片付ける感性って、ひょっとしたら逆に想像力が足りてないってこともあるかもしれない。

とにかく映像だけで、アドレナリンが耳から吹き出すほどおもしろい。

シン・ゴジラ

ヘリなめゴジラ(出典:imdb

もちろん、映像だけじゃない。
ストーリーラインでは、ゴジラが現れた日本国家の対応がリアルに描かれている。

「矢口の冗談が現実になれば受け入れるしかないか・・・」というセリフなど、深いものがある。
“現実”はまず思惑ありきでツクルもの、という、結論先行で政策を進める日本政府のバカな体質を皮肉っている。

他にも日本政府のボンクラな対応を皮肉った珠玉のセリフは枚挙にいとまがない。

「え、動くの?」
「そりゃ生き物だからな」

これなんか、未来は希望的観測のみ、言動はその場しのぎの対応ばかりで「生き物は動く」というその程度の想像力さえ働かせる気がない。
もちろん想像力そのものも欠落しているのだが、基本的に働かせる気がなく、そのメンタリティのまま凝固しているのが日本の政治家なのだ。
こんな政治家が芋を洗うように実在するのが永田町なのである。

私は昔、怪獣・パニックものの映画というとすぐに政府の対応とかが出てくるのを、発想の貧困だと思っていた。
そこをあえて政府の対応を中心にこれだけの導入部を作ってしまうとは。
こういう発想の逆転ができる人を天才っていうのだな。

このリアリティたっぷりの風刺はゴジラのスペックにも当てはまる。
おそらく今回のゴジラは歴代ゴジラの中で最強最大の破壊力じゃなかろうか。
確かにゴジラを核爆弾や東日本大震災で起きた津波なみの破壊力に設定しなくちゃ、この風刺性は出ないに違いない。

シン・ゴジラ

おびただしい出演者のなかで、なにげに一番うまかったのが高橋一生(左から3番目)(出典:imdb

庵野監督の作家性に焦点をあてると、この映画は『新世紀エヴァンゲリオン』を鍵として読み解くと理解しやすい。

「ヤシオリ作戦」はエヴァの「ヤシマ作戦」と語感が似ているし、ずっと無表情だった市川実日子演ずる環境省自然環境局野生生物課課長補佐が一度だけニッコリ笑うところは綾波レイを思い出す。
このあたりをみても、庵野監督が意図的にエヴァの既視感をぶっこんできているのは明らかだ。

しかもこれらはセルフ・パロディの域を超え、ちゃんとした意図があるのである。

そもそも『新世紀エヴァンゲリオン』とはどういうアニメであったか。
まず何億年も昔から続く長いストーリーを考え、そのベースとなるストーリーを、本編でほとんど具体的に語らず、ただそれを「踏まえた」世界観の中に、ひとりのどこにでもいる普通の少年(シンジくん)を投げ込み、その心の成長にスポットを当てて、まったく別のストーリーを組み立てていった。

『シン・ゴジラ』はこの、庵野監督が『エヴァ』で開発したフォームにゴジラを当てはめて作った映画だと言える。
なので、『シン・ゴジラ』はこのフォームを意識して読み解くと非常に理解しやすいのだ。

例えばこの『シン・ゴジラ』は、現代の日本という「世界観」に、ゴジラという「個」をポンと投げ込んだことで発生する虚構とリアルの遭遇を描いている。

「世界観」に「個」をポンと投げ込んだ物語、という図式で解釈すると、

ゴジラ=シンジくん

ということになるし、「虚構」と「リアル」の遭遇によって発生する成長物語、という図式で解釈すると、

シンジくん=現代の日本

ということにもなる。

はっ。

ここまで書いて気が付いたのだが、「シン・ゴジラ」のタイトルの中に「シンジ」という言葉が入っているではないか。

↓ここから先はネタバレあり↓

シン・ゴジラ

出典:amazon

確かにゴジラも成長段階があったが、ストーリーにおいて真の意味で成長したのは日本国家の方であった。

最後のヤシオリ作戦の名称は、検索してみたら、ヤマタノオロチを眠らせた八塩折(やしおり)の酒にかけているんだそうだ。

ヤマタノオロチの出典といえば、『古事記』である。

つまりこの『シン・ゴジラ』は『古事記』をモチーフにした物語であることがわかる。

ここで思い出していただきたいのは、『エヴァンゲリオン』は『聖書』をモチーフにした物語であったこと。

『聖書』の教えとは何か?

それは「心の救済」である。

まさに『エヴァンゲリオン』とは、シンジくんの心の成長を中心に、人類の心の救済を描いた物語だった。

それでは『古事記』がわれわれに思い出させてくれるものとは何か?

それはもちろん日本人の魂であり、「和の精神」である。

「和の精神」とは、聖徳太子が十七条の憲法の第一条で言ったこの言葉。

和の精神がいちばん大切なのです。
どんなことでも、みんなで話し合えば、おのずから道理にかない、成功するでしょう。

この『シン・ゴジラ』の前半、日本人の「和」の精神は、すべて悪い方へと傾いていた。
リーダー不在で、何か難題が持ち上がるとたらい回し。
だから対応が遅れ、アメリカのいいようにやられてはオロオロするばかり。

そういえば前半では石原さとみと長谷川博己がこんな会話をしていたっけ。

「米国はゴジラをどうする気だ?」
「それは大統領が決める。あなたの国は誰が決めるの?」

リーダーシップの不足がさもみっともないことのように語られていた。

ところが後半では、

「次のリーダーがすぐに決まるのが、この国の長所だ」

と、多少、皮肉まじりではあるが、それがちょっといいことみたいなニュアンスに変わってゆく。

そしてクライマックスで、とうとう日本人は驚くべきチームワークを発揮する。
つまり、日本人がみんなで話し合い、解決策を導き出し、力をあわせてゴジラを撃退することに成功するのだ。

シン・ゴジラ

戦車なめゴジラ(出典:imdb

『シン・ゴジラ』と『エヴァンゲリオン』の構造をまとめるとこうなる。

作品 モチーフ 成長する人 成長の対象
エヴァンゲリオン 聖書 碇シンジ
シン・ゴジラ 古事記 日本人 和の精神

ここでもし『シン・ゴジラ』のモチーフが『古事記』だとすると、この映画におけるゴジラの存在とは何か?

それはもちろん『古事記』における荒ぶる神である。

そういえば長谷川博己のセリフにこんなのがあった。

牧元教授はこの事態を予測していた気がする。
彼は荒ぶる神の力を解放させて、試したかったのかもしれない。
人間を、この国を、日本人を。

モチーフとして綺麗に辻褄が合っているではないか。

最後はそんなゴジラが、東京のど真ん中でモニュメント化するという、驚異のエンディング。

とりわけ尻尾のアップに無数の人型ミニゴジラみたいなのが群がっているラストカットは何だかわからないけどゾッとした。
あれ、検索してみたら、ゴジラの次なる進化段階である第5形態が出現するところだったってことなんだってね。
凍結があと一歩間に合わなかったらどうなっていたか、想像するだに恐ろしい。

人間も想像力働かせて進歩していかないとダメだということだ。

この“災害伝承碑”を東京のど真ん中に戴きつつ、日本人はもう二度と同じ過ちを繰り返さないよう心に誓うのであろう。

願わくば、この『シン・ゴジラ』が、来るべき現実の大災害から日本を救う災害伝承碑映画とならんことをここに願う。

 * * *

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評価

平成ガメラシリーズを超えたとは言わないが、横には並んだ傑作。
★★★★★

Good Movie 認定


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