ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン1の感想

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック シーズン1
出典:imdb
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作品データ

原題:Orange Is the New Black (season 1)
監督:マイケル・トリム、アンドリュー・マッカーシー、ジョディ・フォスター、他
原作:パイパー・カーマン
脚本:ジェンジ・コーハン、マルコ・ラミレス、シアン・ヘダー、ローレン・モレッリ、サラ・ヘス、他
出演:テイラー・シリング、ローラ・プレポン、ケイト・マルグルー、ナターシャ・リオン、タリン・マニング、ヤエル・ストーン、ウゾ・アドゥーバ、マイケル・J・ハーニー、ニック・サンドウ、アリシア・ライナー、パブロ・シュレイバー、ジェイソン・ビッグス
制作:2013年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

ニューヨークに住む平凡な30代の女性パイパー・チャップマンは、突然、女子刑務所に15か月も服役する羽目になる。というのも彼女は10年前、アレックスという麻薬密売業者を生業としている女性の恋人がいて、彼女の仕事をちょっとだけ手伝ったことがあったのだ。
家族や婚約者が戸惑う中、パイパーの刑務所生活がはじまる。
しかし刑務所でパイパーを待っていたものは、劣悪なアメリカの司法制度と複雑な刑務所内の環境、人間関係、そして二度と会いたくないあの人物だった・・・。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン1の感想

脚本のおもしろさが超人級。

平凡な女性が刑務所に入るという、これまでもよくあった設定のドラマが、LGBTとか、刑務所の中でのリアルな人間模様とか、シャバのシーンとのカットバックなど、ちょっと素材や描き方を変えるだけでこれだけ斬新でおもしろい作品になるとは驚き。

登場人物の個性が豊かで、それぞれの伏線が絡み合いながらひとつのテーマに結集してゆく構成が見事。

ストーリー展開も巧みで、びっくりする展開があったかと思えば、逆に波乱の幕開けと思わせておいて、「ちょっといい話」で片付いたり。
逆にさりげない伏線が後に怒涛の展開につながっていったり。
かと思えば、「ちょっといい話」で片付いたと思われていたエピソードが、後に絶妙のタイミングで別のエピソードに絡んできたり。
巧みに見る者の思考の死角を突いてきて素晴らしい。

とくにシーズン1のラスト2話では、これら大小無数の伏線が一気により集まり、衝撃のエンディングを華々しく飾る。

好きなキャラクターは数あれど、やはり主人公パイパー・チャップマンの生き様が魅力的。
人間的な弱さ、ブレ具合など、その凡人ぶりが妙にかわいい。
金持ちで世間知らずのワガママお嬢さんだったパイパーが、刑務所の劣悪な環境に揉まれながら、いい意味で成長してゆく、悪い意味でスレてゆく様は、たくましくもある。

パイパー・チャップマン

パイパー・チャップマン(出典:imdb

パイパーは金持ちのお嬢さんで学はあるのだが、その反面、英語でいうストリートワイズ(streetwise)、いわゆる路地裏での生きる知恵というか、世馴れた感性というものに欠けている。
逆にまわりにいる囚人たちは、学がないかわりに、ストリートワイズが揃っている。
だからパイパーは刑務所の人たちの中ではかなり浮いた存在なのだ。
そんなパイパーのどこか危なげな処世術が興味を引くのである。
こういう人間臭いやつって嫌いになれないんだよな。

パイパーは凡人だが、ひとつ特技があって、彼女は大学出で本をよく読むだけに、話術が巧み。
例えばシーズン1の第5話のニワトリ事件。ニワトリの噂が必要以上に広まってしまい、黒人やヒスパニック系の女たちが事態に首を突っ込んできてしまったことをレッドに咎められると、パイパーは見事な話術でレッドの闘志に火をつけ、まるめこんでしまう。
あるいは第10話のスケアード・ストレート(問題のある若者に怖い思いをさせて矯正すること)のエピソードで、黒人のプッセイたちでさえ歯が立たなかった車椅子の不良学生を、「本当に怖いのは自分自身だ。この異常な環境で本当のむきだしの自分と向き合わなければならないことだ」と見事な言説で怖がらせることに成功してしまう。
(私が一番好きなパイパーの演説はシーズン3のアレなのだが、それはまた別の記事に譲ろう)

しかしその反面、パイパーは第1話の食堂でのエピソードのように、余計なひとことを言ってしまい、自らを窮地に陥らせることも多い。

こういう決して一筋縄ではない、レイヤーのある人間像をリアルに創出しているところがこのドラマの脚本の巧さだと思う。

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック シーズン1

パイパーにびびらされた車椅子の非行少女(出典:imdb

さてそんなパイパーの目を通して描かれている刑務所内での人間模様に、まさにこのドラマのテーマ、アメリカが抱える重要な社会問題が浮かび上がってくる。

そのテーマは原作を読むとより明確だ。

私はこのドラマを見て、そのあまりのおもしろさに早速、Amazonで英語の原書を取り寄せ、読んでみた。

私のみたところ、原作のテーマは以下の通り3つあったように思う。

・アメリカの格差とドラッグの問題
・刑務所のシステムの問題
・人は助け合って生きている、ということ

この3つのテーマは根っこのところで関連しあっており、その体系をパイパーは刑務所に収監されることで目の当たりにしたのである。

ざっくり説明するとこういうことだ。

アメリカでは経済格差や人種差別の問題が蔓延しており、社会的弱者はドラッグ売買などをして身を立てるしか術がない。
(→アメリカが抱える格差とドラッグの問題)

アメリカの刑務所は劣悪な環境で、囚人を更生させて出所後にまっとうな社会生活を歩ませる手助けになっていない。
だから出所してもまた同じ犯罪に手を出すことになる。
アメリカが世界最多の刑務所人口をかかえる原因もここにある。
(→刑務所のシステムの問題)

これら劣悪なアメリカの社会環境、刑務所内での環境に、白人・黒人・ヒスパニック系それぞれ同じ人種同士で協力体制をとり、助け合って生きている。
(→人は助け合って生きてるということ)

この原作がもつ3つのテーマは、そのままドラマに生かされている。
しかも押し付けがましいものではなく、しっかりエンターテイメントとしておもしろくアレンジされているのだ。

基本的に原作は興味深い内容ではあるが、決しておもしろいと言えるようなものではなかった。
例えば原作では、パイパーが経験した最大のトラブルというのが、食堂で嫌いな野菜を避けてよそっていたときに、注意されて、ちょっと睨み合いになってしまった、ということだけ。

ドラマでは原作の各エピソードをつまみ食いするみたいに使っているのだが、どのエピソードもテーマを崩さない範囲で、2倍にも3倍にも膨らませておもしろくしている。
もともとよく出来た脚本だと思っていたが、原作と比べるとさらにその卓越ぶりがわかる。

かつての女囚ものの映画によくあったいじめだとか、派閥だとか、そういうものはほとんどない。
むしろその逆で、黒人は黒人同士、白人は白人同士、ヒスパニック系はヒスパニック系同士で力を合わせ、この人間らしさを失ってしまいそうな過酷な環境で必死に生きてゆく。
そんなたくましい人間の本能が描かれているのだ。

パイパーのことばかり書いたが、お気に入りキャラはほぼ全員と言っても過言ではない。
皆が皆、このドラマの訴えるテーマを様々な角度から身をもって表現している、愛すべきキャラクターたちである。

今日も私はヤツらに会いたくて、DVDを再生するのであった。

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック シーズン1

出典:amazon

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評価

リアルに興味深く、おもしろいヒューマンドラマが見たい方に絶対オススメ。
★★★★★

Good Movie 認定


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『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の原作本
オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月

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