ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン3 居心地のよい迷宮に取り残されたような後味

FARGO/ファーゴ シーズン3
出典:imdb
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作品データ

原題:Fargo Season 3
監督:ノア・ホーリー、他
脚本:ノア・ホーリー、他
出演:ユアン・マクレガー、キャリー・クーン、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、デヴィッド・シューリス
制作:2017年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

2010年、成功し富豪となったエミットとその双子の弟で保護司のレイは長いこと仲が悪い。レイは旧知の泥棒モリースに兄の家からの自分のものだと主張する切手を盗んでくるよう頼む。だがモリースは誤って同姓の別人宅に忍び込み、無関係の老人を殺してしまう。犠牲者の義理の娘である警察署長グロリアが事件を捜査する。モリースはレイを恐喝するが、レイの恋人のニッキーに逆に殺される。一方、エミットは会社をヴァーガ率いる犯罪組織に乗っ取られる。

『FARGO/ファーゴ』シーズン3の感想

 今シーズンもまた違った感じのお話し。
 このドラマはコーエン兄弟の作風をうまく取り入れて作ってあるとシーズン1の感想に書いたが、こうしてみるとシーズンごとにコーエン兄弟の異なる側面をピックアップして、そのシーズンの色合いにしている感じ。

 コーエン兄弟の映画は『ファーゴ』みたいに徹底したリアリティを追求しつつ、人間性の闇に潜む不条理さを浮き彫りにさせるみたいな映画があるかと思えば、『バートン・フィンク』みたいに人間を取り巻く世界観の不条理を描いたような映画もあり、このシーズン3はまさにそれ。

 しかし、ここで個人的な思い出が脳裏に蘇る。

FARGO/ファーゴ シーズン3

シーズン3は不条理な世界観が大きくクローズアップされた作り(出典:imdb

 私が初めて見たコーエン兄弟の映画は『ファーゴ』、そしてその次に見たのが『ミラーズ・クロッシング』なのだが、この2作を見た時点で私は「こんなスゴい映画を撮る監督がいたのか!」とその斬新な作風と天才的な人間洞察力に感服したものだった。

 ところが3番目に見た『バートン・フィンク』が私の理解を超えていて、確かにおもしろい映画ではあるが、これがカンヌ映画祭のパルムドールを受賞するほどの作品なのかと正直、疑問に思った。
 しかし、そんな『バートン・フィンク』も、DVDで2回3回、5回6回、10回20回と見返すうちに、今では大好きなコーエン兄弟映画のひとつになっている。

FARGO/ファーゴ シーズン3

Bad Guys も、いつにも増して個性的(出典:imdb

 つまり何が言いたいのかというと、私はこの経験を過去に経たことで、免疫ができている、ということなのだ。

 おそらく私がコーエン兄弟の映画のファンでなかったら、きっとこのシーズン3は、前2シーズンと比べて消化不良な要素が多く、モヤモヤする終わり方で、ちょっとクオリティが下がったな、と思ったのではなかろうか。

 なので、私はこのシーズン3も前2シーズンと同じく満点評価をつけたが、この評価は万人向けに参考になるところのものではなかもしれないことを、断っておきたい。

 さて、長い前置きはこれくらいにして、具体的な感想に移ろうか。

↓ここから先はネタバレあり↓

FARGO/ファーゴ シーズン3

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 相変わらずコーエン兄弟の映画のオマージュが目白押しで、3シーズン目ともなると「出た」が心のなかの口癖と化してしまっている。
 中でもおもしろかったのは、登場人物の会話にスタン・グロスマンの名前があったこと(映画版『ファーゴ』の会計士)。
 きっと映画『ファーゴ』の事件のあと、生き残ったスタン・グロスマンはあの駐車場の話しをこっちにもっていったんだな。

 あとキャスティングについて。
 シーズン1のキー&ピールとか、シーズン2のブルース・キャンベルとか、このドラマはマイナーなところでキャスティングのお遊びが楽しかったのだが、今シーズンにもありました。
 第3話でクリント・イーストウッドの娘、フランチェスカが出てきて「おおっ!」と思ったら、なんとその後で、フランチェスカの母親のフランシス・フィッシャーが、同じキャラクターの歳をとった役で出てきて二度ビックリ。(どうでもいいけど、フランチェスカ・イーストウッドって、くどいくらいにギラギラした顔してるよな)

FARGO/ファーゴ シーズン3

今回の探偵役はメインとサブのふたりいるのだが、コンビではないところがミソ
(出典:imdb

 もちろんマイナー・キャラだけでなく、今回もメイン・キャラクターが充実している。
 悪役が「そうきたか!」というような個性的な男だったり、一人二役があったり、探偵役の警官がメインとサブの2人(両方とも女性)もいたり、驚きの再登場!があったり。
 そんな中、興味深かったのは何と言ってもメアリー・エリザベス・ウィンステッド演ずるニッキー。

 このニッキーという女性、レイのような冴えない男とマジメにつきあうようなタマじゃないのに、曇りのない態度でレイを愛し、協力体制をとっているように見える。
 つかみどころがなく、何を考えてるかわからないだけに、ストーリーに惹きつけられた。
 キャラクターひとつで飽きさせないこのドラマ。憎い。

FARGO/ファーゴ シーズン3

ストーリーの8割がた「この子はいったい何を考えているんだろう?」と思わせられ続けた。これぞキャスティングの妙。
(出典:imdb

 このニッキーが後半、ボーリング場で猫を抱くシーンになり、初めてレイへの愛が本物だったことがわかるのだ。
 そこから先、ニッキーのパートはストレートなリベンジものと化す。
 この、ずっとひねっているかと思わせておいて最後は直球で攻めてくるさじ加減は素晴らしい。

 印象的だったのは彼女が死ぬシーン。
 自分があそこで死ぬとわかっていたら、ニッキーが最後に銃口を向けていたのはエミットだったんじゃなかろうか。(殺す前にまだブツクサ言いたかったんだろうな)
 一瞬の判断の誤り。
 ああ、とため息が出る。

FARGO/ファーゴ シーズン3

このシーンね。(出典:imdb

 そしてそのため息を解消するレンチの行動。
 しかしエミットは完全な悪人だったわけではないから、どこかモヤモヤとする印象は晴れきらない。

 そんな感じでストーリーは進んでいって、最後はやっぱり迷宮の入口なんだか出口なんだかわからないような、不可思議なラストが約束どおり待っていた。
 見終わって、居心地のよい迷宮に取り残されたみたいな後味にしばし浸った。

 おもしろい。

評価

この調子でシーズン4もいってみよう。
★★★★★

Good Movie 認定


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