映画『戦場のメリークリスマス』東洋と西洋が織りなす漢たちのドラマ

戦場のメリークリスマス
出典:imdb
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作品データ

英題:Merry Christmas, Mr. Lawrence
監督:大島渚
原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト
脚本:大島渚、ポール・メイヤーズバーグ
出演:デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし、トム・コンティ
音楽:坂本龍一
制作:1983年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

1942年、日本統治下にあるジャワ島レバクセンバタの日本軍捕虜収容所で、朝鮮人軍属カネモトがオランダの男性兵を犯す。日本語を解する捕虜の英国陸軍中佐ロレンスは、ともに事件処理にあたったハラ軍曹と奇妙な友情で結ばれていく。
一方、ハラの上官で所長のヨノイ大尉は、日本軍の背後に空挺降下し、輸送隊を襲撃した末に捕虜となった陸軍少佐ジャック・セリアズを預かることになり、その反抗的な態度に悩まされながらも彼に魅せられてゆく。
同時にカネモトとデ・ヨンの事件処理と捕虜たちの情報を巡り、プライドに拘る空軍大佐の捕虜長ヒックスリーと衝突する。
東洋と西洋の宗教観、道徳観、組織論が違う中、各人に運命から届けられたクリスマスの贈りものが待っていた。

『戦場のメリークリスマス』の感想

最初にちょっとした思い出をひとつ。

30年くらい前にアメリカに留学していたとき、18歳のトニーというアメリカ人の友だちがいて、デヴィッド・ボウイのファンだというので、この映画を勧めてみたことがある。
私はこの映画が好きで、中学・高校・大学を通して幾度となくビデオで繰り返しみてきたので、もちろんビデオソフトも所有していた。
それで彼の住処にこの映画のビデオを持っていき、一緒に見ることになったのだが、トニーはどうも興味をそそられなかったようで、最初は退屈そうに見はじめた。
日本兵が西洋人の捕虜たちを虐げるシーンではふざけて「Fuckin’ jap」などと吐き捨てたり、デヴィッド・ボウイが「I wish I could sing」と独り言をいうところでは「ここでデヴィッド・ボウイが Rebel Rebel でも歌い出してくれたらオレはこの映画を認めてやるぜ」などと冗談めかして呟いていたりした。
しかしラストシーンが終わり、坂本龍一のエンディング曲が流れはじめると、そんな彼の瞳からひと粒の涙が……。

18歳のロック好きで体育会系の脳みそ筋肉アイリッシュ系アメリカ青年が、日本人である私の勧めでしぶしぶ見はじめた、この戦争という異常な環境で和洋の男たちが奇妙な友情を育んでゆくドラマに涙するという。

「なんて胸につまされる映画なんだ」と涙をふくトニーの姿に、何かが重なるものを感じたのだった。

異なる文化圏同士の交流と対立。
そのカオスの中で生まれる歪な心のつながり。
そんな深いテーマが、私のリアルと繋がった瞬間だったといえる。

そういえば、同じ頃に知り合ったフランス人の女の子の友だちもこの映画が好きだと言っていたっけ。

戦場のメリークリスマス

デヴィッド・ボウイ 出典:imdb

私はこの映画は無類の美しさをもつ傑作だと思っているが、それはただ画面(えづら)だけの問題なのではない。
ストーリー・登場人物のセリフや小道具、装いから一挙一動に至るまで、東洋と西洋の文化がまるで紗のように美しく折り重なっているのだ。
それが精錬された映像に伴い、気持ちよく私たちの心に触れるのである。

同性愛を匂わせる演出はあまり好きじゃないが、しかしその味付けがこの映画のテーマの輪郭をクッキリさせてくれているような気もするので、まんざら無くてよかった要素でもない。
この映画におけるホモセクシャリティとは、ちょうどアクセサリー制作のレジンのような役割を果たしているといえる。
ホモセクシャリティという透明な樹脂のなかに、和洋彩り豊かな文化の宝石が輝いているのだ。
そう考えると、坂本龍一のメイクもそんな和洋文化の混沌を大島渚なりに表現した創意のひとつとして、とても独創的で効果的な演出だったのだな、と改めてしっくりくるものを感じた。

戦場のメリークリスマス

ヨノイ大尉(坂本龍一)出典:imdb

さて、今回この映画を見たのはほぼ30年ぶり。
この歳になって見てみると、会話や演出の素晴らしさに改めて感動した。

お互い譲らない男たちが、感情をぶつけ合いながら、それでも何かを理解してゆく様がよく描かれている。

↓ここから先はネタバレあり↓

戦場のメリークリスマス

出典:amazon

特に私が好きなのが、ストーリー前半にあるローレンスとハラ軍曹との会話だ。

「ローレンス、お前はなぜ死なないんだ。私はお前が死んだらもっとお前を好きになったのに。お前ほどの将校がなぜこんな恥に耐えることができるんだ。なぜ自決しない」
「我々は、“恥”とは呼ばない。捕虜になるのは時の運だ。我々も捕虜になったのを喜んでいるわけではない。逃げたいし、またあなたと戦いたい」
「嘘をつけ。屁理屈を言うな」
「いや。最後には勝ちたい。このキャンプが最後ではない。卑怯者の道はとりたくないから、自殺もしない」
「死ぬのが怖いだけだ。私は違うぞ。私はな、17歳で志願して、入営する前の晩に村の神社にお参りして以来、このハラゲンゴはな、ここに命を捧げているんだ」

なんとなくガンダムを思い出すな。
このシーンのトム・コンティの演技が本当にしびれる。
「またあなたと戦いたい」なんてベタなセリフをググッと聞かせてくれる。

また、ハラ軍曹が「村の神社にお参りして……」と言っているところも重要ポイントだ。
日本は神道の国であり、それに対して、クリスマスはキリスト教の行事。
日本文化と西洋文化の対立・混沌、そしてその融和へと至る過程の片鱗がここにも見受けられる。

この前半のハラ軍曹とロレンスの会話シーンは、後半のハラ軍曹が酔って「メリークリスマス!」と叫んでローレンスたちを釈放するシーンと対になっていることがわかるだろう。

戦場のメリークリスマス

ローレンス(トム・コンティ)とハラ軍曹(ビートたけし)出典:imdb

また、セリアズがヨノイ大尉にキスをするシーンにも注目してほしい。
仲間の命を救うため、西洋の文化である「キス」でヨノイ大尉に想いを伝えるセリアズ。
文化の違いはセリアズの処刑を選ぶが、ヨノイ大尉はセリアズの髪の毛を切って、「西洋のサムライ」としてそれを日本の靖国神社に奉納する。

“西洋と東洋の文化の混沌、それを背景に魂を研磨させてゆく男たちのドラマ”という作品全体のテーマが、ここにひときわまぶしく輝いているのがわかるだろうか。

日本の侍は「メリークリスマス」と叫び、西洋の軍人の魂はサムライとして日本の神様の元で天に召されるのだ。

なんという、美しく交差する東洋と西洋の文化、漢(おとこ)たちの魂、それら映像による絹模様であろうか。

評価

この映画は、他に類をみない異色の傑作だと思うのだ。
★★★★★

Good Movie 認定


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