作品データ
原題:이태원 클라쓰
演出:キム・ソンユン
原作:チョ・クァンジン
脚本:チョ・クァンジン
出演:パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョン、クォン・ナラ
制作:2020年、韓国
あらすじ(ネタバレなし)
国内最大外食企業・長家グループに勤める父親の転勤で、田舎に引っ越した高校3年生のパク・セロイ。
彼は転校先の学校で長家グループの御曹司チャン・グンウォンに出会う。
正義感の強いセロイはグンウォンの傍若無人な言動に我慢できず、一発殴ってしまい退学処分。
父親は20年間勤めていた会社を辞める羽目になる。
さらにグンウォンが起こした交通事故で父を亡くしたセロイは、グンウォンに暴力を振るい、刑務所行きとなる。
セロイは刑務所の中、ある決意を心に固めるのであった。
『梨泰院クラス』の感想
第3話にしてやっとわかったジャンルが深かった件
初めて見た韓国ドラマ『愛の不時着』がかなり気に入ったので、『愛の不時着』と並ぶ“神ドラマ”だと噂を耳にし、これをNetflixで再生。
第1話を見た限りでは、「よく出来てはいるが、あまり好みじゃないな」という印象。
「とりあえず第2話までは見てみるか・・・」と、第2話を見て、「やっぱりあまり好みじゃないな」と。
でも先が気になるので第3話を。
ここでやっとググッときたので、もう最後まで見ようと決めた。
内容をまったく知らずに見たので、タイトルからすっかり学園モノだと思っていた。
ところが第1話でいきなり退学。
それから2年後、7年後、と時間が飛びまくり・・・
第2話の最後を見たら「これはサクセスストーリーなのかな?」と。
そして第3話にして「そうか、これは復讐劇なのか!」と、やっとアウトラインが輪郭をあらわした。
しかし、これはただの復讐劇なのではない。
『パラサイト 半地下の家族』同様、格差社会で虐げられてきた下の人間たちが、上の人間たちに果たす復讐のドラマなのだ。
主役のセロイはその代表選手なのである。
虐げられてきた下の人間たちとは、もちろん経済格差ばかりではない。
LGBT(ヒョニ)
人種差別(トニー)
前科者(スングォン)
そしてメンヘラ(イソ)
各マイノリティの代表選手が揃い踏みの復讐劇なのだ。
スピーディーで先が読めない展開が素晴らしかった件
このドラマで特筆すべきは先が読めない展開の妙。
脚本家を目指す人は、1シーンごとにいちいち再生をストップして、自分がこの物語の脚本家だったらこの先をどんな展開にするのか、想像しながら見てゆくと、すごく勉強になるんじゃなかろうか。
例えば、オ・スアがセロイの店に未成年のチョ・イソがいることを警察にチクり、それがチョ・イソにバレて、自らセロイに告白するシーン。
ここなど、実にうまく逃げ道のない人間の苦悩をストーリーに組み込んで描いている。
つまり恋のライバルであるイソにバラされるよりは、この場で潔くセロイに自分から告白してしまえという、スアらしい判断なのだ。
しかしそれは、その状況でスアにとって唯一の突破口であったと同時に、逆にどこにも吹っ切れることの出来ない袋小路に自らを追い込んでしまったことでもある。
スアはその帰り、階段のところでまだ何もなかった頃のセロイとの思い出に浸りながら、それに気がつくのだ。
しかしその後、イソのことを警察にチクったのはまったく別の人物だったことがわかる。
ここで、スアがセロイに罪を告白するシーンの意味合いが180度逆転する。
つまりこれはセロイに向けた言葉だったのではなく、自らの心にわだかまる吹っ切れぬ思いとの訣別であり、同時にイソへと発せられた挑戦状でもあったのだ。
これらの、ドラマを盛り上げるために複雑に仕掛けが施された人間模様。
後半はかなり中だるみしてしまったが、まずまず上級レベルの脚本だったと思う。
イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ、イソ!
しかしこのドラマは兎にも角にも、イソである。
もう回を重ねるごとにイソを好きになってゆく。
私がこれまで見た数少ない韓国ドラマで、ダントツに最高のキャラクターだ。
見ていて、思わずイソばかり応援してしまう。
正直、イソが出てきてから、セロイの存在はかなり霞んだ。
それにセロイには、「こいつはいつかやってくれるだろう」という期待しかない。
「ガンバレ」はイソに捧げたい言葉。
↓見ている最中の私↓
「イソ、がんばれ」
「イソ、がんばれ」
「イソ、がんばれ」
「スアなんてダメだよセロイのバカ野郎!」
そんな感じ。
↓ここから先はネタバレあり↓
ダブルヒロインのマウントの取り合いが超絶
キャラの魅力としては断然イソだが、ストーリー的にはスアの微妙な立ち位置もいい。
セロイのライバルであり宿敵であり仇でもある長家に勤め(おまけにかなり忠実に)、それでいてセロイのことが好き。
それに加えて、その恋のライバルであるイソがセロイの下で働いている。
イソが出てきてからは私は断然、イソ推しで、スアには負けてほしいと思っていたが、第6話の最後で、セロイがスアに長家からの解放を誓うシーンで、セロイがそこまで言うならやっぱりスアも応援してやりたいな、という気持ちにさせられた。
それからまたイソ推しに戻ったのだが、第14話でスアが、セロイがイソを好きになりかけていることを知るシーンで、スアの気持ちに共感してしまい、思わず涙が出てしまった。
ここにきて再びスアを応援したい気持ちがわいてきた。
気がついたらこれは、傑作アニメ『ハイスコアガール』に匹敵するダブルヒロインのマウント合戦なのだった。
チャン親子について
その他に感心したのは、チャン・デヒを演ってる俳優さんの食べる演技のうまさ。
食う演技がうまい俳優さんはいい俳優さんだ。
しかし食べるシーンに言及するまでもなく、この俳優さんの演技がダントツで素晴らしい。
また、セロイが勝つか、長家が勝つか、息もつかせぬ攻防の中、グンウォンの存在だけが無性に滑稽で気を抜かせてくれる。
主役たちの戦いがどうなろうと、こいつだけは自滅決定という、最初から背中に滲み出ている道化師の役割が微笑ましい。
最後は予想外の展開で、バカまる出しのグンウォンも刑務所に入ってちょっとは変わったかと思っていたら、逆にバカさ加減が増しててガクッ。
もう、やってることがザルすぎて苦笑するしかない。
しかし結局、このグンウォンのバカっぷりが一時的とはいえ、チャン・デヒをセロイが土下座させられるほど優勢に導いたと思うと、抜け目ない脚本だなあ、と感心する。
なんだかんだ言ってチャン親子の推移を追っていくと、このドラマのうまさがよくわかる。
そして最終回〜まとめ
韓国ドラマを2〜3個見て気がついたのだが、後半のエピソードに必ずあるこの、韓国ドラマ特有の中だるみはなんとかならんものか。
『愛の不時着』のときもそうだったが、それにしてもこの『梨泰院クラス』の中盤から後半にかけては少したるみすぎ。
どうでもいいけど、ヒョニの髪型もヘンだし。
というわけで、後半はあまり好きじゃなかったが、最後はちゃんと盛り上がってくれて、うまく締めに向けてまとまった。
とにかく最初にセロイがデヒに「土下座させる」と言っていたのだから、土下座させるオチがくるのは誰でもわかる。
そこが思った通りすぎてスカッとするほどではなかったが、ラストはしっかりと胸の底に落ちた。
それにしても、見事に自然な流れでググッとそのシーンに持っていったなあ。
あとはとにかく、イソがセロイと幸せになれてよかった。
スアは・・・私があまり好きじゃない「次の人」オチ。
まあでも、幸せそうだからよかった。
評価
かなりよかったけど、私は『愛の不時着』の方がだいぶ好きだ。
★★★★★
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