映画『アノマリサ』の感想 – アニメなのに実写を超えるリアリティ

アノマリサ
出典:imdb
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作品データ

原題:Anomalisa
監督:チャーリー・カウフマン
原作:フランシス・フレゴリ
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:デヴィッド・シューリス、ジェニファー・ジェイソン・リー、トム・ヌーナン
音楽:カーター・バーウェル
制作:2015年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

マイケル・ストーンはカスタマーサービス業界で成功をおさめ、私生活でも妻子に恵まれていた。
しかし彼は全ての人間の声が同じに聞こえ、退屈な日常に不満を募らせている。

そんなある日、マイケルは講演会で訪れていたシンシナティーで、唯一、違う声をもつ女性、リサと知り合う。
マイケルはリサに惹かれて、近づいてゆくのだが・・・。

『アノマリサ』の感想

ストップモーションアニメにして実写を超えるリアリティ

人形を少しづつ動かして撮影して作る、いわゆるストップモーションアニメ作品なのだが、これがびっくりするほどのリアリティ。

かつてアメリカのアニメは、昔のディズニーのような、キャラクターがぐにゃぐにゃ伸びたり変形したりするスラップスティックな作風が主流だった。
その昔『アキラ』という日本のアニメがアメリカで劇場公開されたとき、あちらの記事に「日本のアニメは登場人物にちゃんと演技をさせている」と、半ば皮肉ともとれるような、アニメ作品におけるキャラ造形の概念の違いについて言及されていたのを読んだことがある。

しかしこの『アノマリサ』や現代のハリウッドCGアニメ映画などを見ると、現在のアニメの「演技」のクオリティはすっかりアメリカの方が日本の頭を飛び越え、高度な境地にいってしまったようだ。

アニメなのに、味のある俳優(人形)の演技が至極おもしろい。
ただ映像でストーリーを説明するだけのクソ映画では無駄でしかないシーンの連続が、なんとも味わい深く飽きさせない。

中盤の濡れ場など、私の知る限り、映画史上(もちろん実写も含め)最もリアリティのある男女の初ベッドインだと思う。
そして翌朝の朝食シーンは、映画史上もっともリアリティのある、初めてヤッたカップルの翌朝の朝食シーンである。
このあたりの演出を見るだけでもこの映画を見る価値はある。
アニメがアニメを超えた、珠玉のリアリティである。

しかしこれらの、実写に匹敵する、いや超えてさえいるリアリティにして、やはり人形アニメにしただけの必然性はストーリーにちゃんとあるのだ。

退屈な日常の正体

主人公の男は、自分以外のすべての人間が同じ顔、同じ声に見えている。
この状況は一見、日本の作品に昔からよくある「顔のない大衆」的文脈にちょっと似ているが、この映画が表現するところはまったく別ものだ。

男は最初から人生に何の光も見出せないかのように、つまらなそうな顔で、タクシーの運転手を鼻であしらい、シャワーのお湯の熱さに悪態をつく。
光を求めて昔の恋人に会ったりするが、乾いた心を潤すどころか、新たな鬱憤のきっかけにしかならない。
もうここらへんで、この男の心の有り様が、周囲の人々をみな同じ顔にしてしまっているんだと気がついてくる。

↓ここから先はネタバレあり↓

アノマリサ

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本当に価値のあるモノは自分の中にある

さてそんな彼の前に現れた、この世で唯一の違う顔、違う声をもった女性。
なんでこの女性だけが特別な存在として男の目にうつったのか?
最後まで見ると、それはこの女性にそれだけの資質があったんだとわかるし、その資質を無駄に腐らせた男の性根も見えてくる。

特別なもの、自分にとって、とっておきの価値のある素晴らしいもの、
それは、そう捉える心持ちがあって初めて手にすることができるんだと、しみじみ思わせられた。

そして男に残されたのは、不気味な芸者の人形一体。
ここで人形が桃太郎の童謡を歌い出すのは、なかなか深いものがある。

日本人にとってみればなんてことのない平凡な童謡だが、アメリカ人にとっては日本語というエキゾチックな言語である。
そしてその歌詞は、ヒーローが悪い鬼を倒して宝物を手にいれるお話しである。
ここに「特別なもの」と「平凡なもの」との多重構造と、それを認識する視点の違いといった図式が浮かびあがってこないだろうか。

アノマリサ

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男が手に入れ損なったモノとは

ラストの、まぶしい車に乗って男に手紙を書くリサの美しさ。

紡ぎ出される言葉に表れる屈託のない素直な心。

こんな素晴らしいものを、あの男は腐った心で失ったのだ。

自分にとっての特別な宝物を見出せることのできる人間は幸せだな。

とても悲しい気持ちで、ラストカットを見ながらそう思った。

評価

さすがチャーリー・カウフマン。期待を裏切らない大傑作。
★★★★★

Good Movie 認定


『アノマリサ(字幕版)』を見る
『アノマリサ(吹替版)』を見る

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