映画『運び屋』の感想 – イーストウッドと、男が運ぶ荷物について

クリント・イーストウッド『運び屋』
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作品データ

原題:The Mule
監督:クリント・イーストウッド
原案:サム・ドルニック
脚本:ニック・シェンク
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、タイッサ・ファーミガ、アリソン・イーストウッド
音楽:アルトゥロ・サンドバル
制作:2018年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

かつて園芸家として名を馳せたアール・ストーンは経済的に行き詰まり、孤独に暮らしていた。
しかし長年、仕事にあけくれて家族を顧みなかったツケで、家族には冷たく扱われていた。
そんな彼にある日メキシコ人の男が声をかけ、ただ荷物を車で運ぶだけで大金が儲かる商売があると持ちかける。
アールはその荷物の中身が何なのかも知らず「運び屋」の仕事を始めるが・・・。

『運び屋』の感想

インターネットの台頭で商売が成り立たなくなった園芸家のジイサンが、何十年も車で違反を犯したことが一度もない“特技”を買われ、ひょんなことから麻薬の運び人になる。
私は広告業界数十年の人間だけど、この状況は人ごとではない。
インターネットとパソコンの普及は様々な商売の形を大きく変えた。今はコロナか。

イーストウッド演ずるジイサンの心理描写が爽快で、例えば自分が運んでいるブツが麻薬だと初めて知るシーンも、「Holy shit」のひとことで片付けられ、彼はみるみるうちに凄腕の麻薬運び人へと成長してゆく。
めんどくさいドラマをくどくど描かず、大事な部分は観客の勝手な想像にまかせるところがイーストウッド演出の非凡なところだ。
またイーストウッドの演技が本当に素晴らしい。

イーストウッドは『グラン・トリノ』で映画出演はやめたと言っていたが、そんな発言など、いい映画を撮る重要さに比べたらなんでもない。
映画監督にとって、素晴らしい作品を残すことより大切なことはないはずだ。
そしてこの内容で、イーストウッドが主演する以外の最善の選択などあるはずがない。
それをイーストウッドはちゃんとわかっていたのだろう。
みんな当たり前の話しだ。

他のキャストでは、ジイサンの孫にちょっと気になっている女優さん、タイッサ・ファーミガが出ておった。

↓ここから先はネタバレあり↓

クリント・イーストウッド『運び屋』

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おもしろいのは、それまで仕事ひとすじで生きてきて、家族を顧みなかったジイサンが、麻薬の運び人などという不道徳な仕事をしている期間中に、家族への愛に目覚めるという、善悪の対比があるところ。

ただこのジイサン、けっこう人生を思い切り楽しんでいるタイプで、麻薬を運んでいる最中に泊まったモーテルに娼婦を呼んで3Pを楽しんでたり、グルメスポットに立ち寄って中西部で1番のポークサンドをパクついたりしていて、家族を顧みなかったのは仕事ばかりでもなく、どうしても家庭より外での生活が中心になってしまう男だったのだと想像できる。

そんな男のフラフラした態度はドラッグ・カルテルの監視役の男をやきもきさせる。
この監視役のメキシコ人の男たちの様子に、数十年前のジイサンの家族のフラストレーションを見るようで、またこの対比がおもしろい。

その監視役のフリオをジイサンは息子のように思っているらしいとわかるのが、パーティーでジイサンがフリオに「この仕事を辞めて自分の好きなことを思い切りやったらどうだ」と親心でアドバイスをするところ。
ところがそれに対してフリオは、カルテルのボスのラトンは自分の親のようなもので、組織は自分にとって家族のようなものだから、とアドバイスを拒絶する。
しかし後にラトンは暗殺され、ジイサンのアドバイスは正しかったとフリオは思い知る。
一見ズレたことを言っているようでも、親のアドバイスってのは後になって正しいとわかるものだ。

そして最後、ジイサンは逮捕され、裁判で弁護士が止めるのもふりきって自ら罪を認め、刑務所に入る。
またもやジイサンは家族を離れて、ひょっとしたら一生帰ることのできない“お勤め”にいってしまうのである。

しかし今度ばかりは家族はジイサンを非難することはない。
涙を流してジイサンの決断を称え、悲しみの感情を捧げるのだ。
ここで家族に余計な言葉を言わせないところもよかった。

そんな家族をよそに、ジイサンは刑務所の中で、彼の本業である園芸をやりながら、けっこう楽しくやっているところでこの映画は終わる。

こうしてお話しの筋をなぞってゆくと、この映画のテーマは「家族」と「仕事」と「男の生き甲斐」なんだとわかる。
しかしイーストウッドは答えを用意してはいない。
そんな押し付けがましいことはやらない。
ここからひとりひとりが自分なりの受け取り方をすればいい。
少なくともそういう風にこの映画はつくられている。

私はなんとなくこの映画を見て、肩にのっていた下らない荷がひとつおりて、そのかわりにもっと大切なモノがのっかった気がした。

そうか、運び屋か・・・。

評価

イーストウッドの言葉を超えたメッセージ、しかとこの横腹で受け止めました。
★★★★★

Good Movie 認定


『運び屋(字幕版)』を見る

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