映画『39 刑法第三十九条』森田芳光の斬新なスタイルが実を結んだ図式

39 刑法第三十九条
出典:imdb
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作品データ

監督:森田芳光
脚本:大森寿美男
出演:鈴木京香、堤真一、杉浦直樹、岸部一徳、樹木希林、江守徹
制作:1999年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

夫と妊娠中の妻が刃物で惨殺される殺人事件が発生。警察は現場に落ちていた舞台のチケットから犯人を劇団員の柴田真樹と断定し、逮捕する。柴田の国選弁護人に任命された弁護士の長村時雨は、おとなしかった柴田の表情が、突然人が変わったように凶悪に変貌するのを目撃する。長村は柴田の精神鑑定を請求する。精神鑑定人に選任されたのは精神科教授の藤代実行。藤代は教え子の小川香深に助手を依頼する。鑑定の結果、柴田は多重人格で、犯行時は心神喪失状態にあったと判定された。しかし助手の香深は藤代とは別の仮説を立てていた。

『39 刑法第三十九条』の感想

学生時代はもう新作が出ると飛びつくように見ていた森田監督だが、『そろばんずく』でちょっとテンションが下がって以来、数年に一度、思い出したように「そういえばあいつどうしているかな」みたいな、高校の同級生にひさしぶりに電話するみたいなノリで見る監督になった。

するとああ、もう昔の森田芳光は見る影もないな、と思うこともあれば、相変わらず森田芳光はいいな、と思うこともある。
この映画は後者。

とりわけ人間の演出と映像が森田芳光だぁ〜と唸らせてくれる。
樹木希林演ずるボソボソしゃべる弁護士に、江守徹演ずるぐだぐだした調子の検察、そして岸部一徳演ずるニヤニヤ顔の刑事(禁煙中なのか常にニコレットを噛み、それをニコチンまじりの唾ごとべっと吐き出す)。
妙にリアリティがあるようで、話しが進むにつれ、リアリティが暴走して不条理になってゆく。
それが不安な物語の行く末を暗示しているかのようにも見える。

前半は殺人事件が起きて、容疑者がつかまって、その人が多重人格で、みたいな、通りいっぺんの進行。
それでもスタイルを楽しみながら退屈せずに見ていける。
例えばふたりの登場人物が歩きながらしゃべっている場面とかでも、流れてゆく背景の絵面を眺めているだけでなんとなく気持ちがよくて、ちっともたるむことがない。

ストーリーがおもしろくなってくるのは後半から。

↓ここから先はネタバレあり↓

とくに興味深いのは、弁護側の証人として登場した司法精神科医の助手、香深(「カフカ」と読む)が、容疑者の詐病を疑うことで、ストーリーの中盤から検察側につき、上役である精神医学者と対立関係になるという展開。

この香深の働きがあるからこそ、最後、法廷で容疑者の本当の目論見が破られるシーンで、強烈にこの映画のメッセージ(刑法第三十九条に対する疑問)がドラマチックに表現されるのだ。
もしこの映画に香深の存在がなく、容疑者の目論見が成功する流れになっても、ちゃんとメッセージは伝わったであろうが、これよりはるかに弱い形になったんじゃないかと思う。

香深というキャラクターがベテランの司法精神科医ではなく、その「助手」であること、そして司法精神科医としては三流であることが、このメッセージを際立たせる大きなポイントになっている(ベテランで腕利きの司法精神科医が容疑者の詐病を見抜いてしまったら、司法制度の批判にならんもんな)。
またその名が不条理小説の第一人者“カフカ”を冠しているというところも興味深い。

最後、刑法第三十九条が法廷から消えると同時に香深が法廷から消滅する、という映像演出が「メッセージの道しるべ役=香深」の図式を明確にしていたような気がした。

評価

森田芳光の映像・演出スタイルがうまくテーマと合致した、なかなかの良作。
★★★★★

Good Movie 認定


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