Netflixドラマ『全裸監督』シーズン1の感想 – 最悪と最高(最悪より)でございます

Netflixドラマ『全裸監督』
出典:imdb
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作品データ

総監督:武正晴
監督:河合勇人、内田英治
原作:本橋信宏
脚本:山田能龍、内田英治、仁志光佑、山田佳奈
出演:山田孝之、満島真之介、森田望智、小雪、國村隼、玉山鉄二、リリー・フランキー、石橋凌
音楽:岩崎太整
制作:2019年、

あらすじ(ネタバレなし)

村西とおるは英語辞典の営業マンとして目覚ましい営業成績を誇っていたが、会社は倒産、おまけに妻には浮気され、どん底に。
起死回生を目論んでアダルト業界に飛び込んだ。
持ち前の話術とバイタリティで、またたくまにビニ本セールの帝王として君臨するが、商売敵の妨害に遭い、窮地に立たされる。
絶体絶命のピンチからの復活を目指して、アダルト・ビデオ制作にのりだすが・・・。

『全裸監督』シーズン1の感想

酷評するから、このドラマが好きな人は読まなくてもいいです。

80年代に一世を風靡したAV監督・村西とおるの伝記ドラマ。

そういや、このドラマの原作ではないけれど、村西とおるの伝記は前に他のやつを読んだことがあったっけ。

村西とおるも黒木香もぜんぜん似ていない件

第1話の最初の黒木香のカットを見て、もう一瞬にして、本気でリアリティ追求する気はないなこのドラマは、と思った。
第2カット目で村西とおるが出てきたが、これもなんだかいまいちすっきりしない。

黒木香や村西とおるをリアルタイムで見てきた私から見て、もう完璧なまでに、ぜんぜん似ていない。
表面的なしゃべり方や仕草はうまく真似てるけど、なんだか本質的なところが似ていない。
完全な別人といっていい。

村西とおるって、すごくおもしろい人だと思うんだよな。
見てるだけで興味をそそられて、その動向から目が離せなくなるような、そんな人物なのだ。
おもしろいことをしゃべるとか、そういう話しではなくて、存在にユーモアが漂っているのだ。
このドラマの村西の人物造形にはそれがまるでない。
実際の人物像を変えるにしろ、どうしてその方向に突出させないのだろう。
ありがちなステレオタイプのキャラクターに落とし込んでいるだけではないのかこれは。

また、本物の黒木香はもっとスマートでウィットに富んでいた。
エロいボキャブラリーを駆使しながら、少しもエロを感じさせず、政治や社会問題について語ることができる才女だった。
このドラマの黒木香は普通に冗談でしゃべっている人にしか見えない。

村西とおるも黒木香も、この世にふたりといない、個性的な人物なのだ。
とにかくこの主役2人をはじめ、ことごとく登場人物のキャラ設定のステレオっぷりが鼻につく。
現実を変えるのはいいんだけど、おもしろく、センスよく変えてほしい。

ちなみに、誤解されないよう書いておくが、演じた山田孝之さんや森田望智さんはとてもいい俳優さんだと思うので、彼らが悪いというつもりはない。
だからと言って、演出家の方がまるでダメだということでも無い。
どうしてもこういう安易なドラマ作りに落ち着いてしまわざるを得ない空気感が支配している日本の映像業界の体質に1番の問題があるのだと思う。

初っぱなからさんざん文句を言ったが、ここでいったん良いことも書いておこう。

『全裸監督』の村西とおると黒木香

村西とおると黒木香。(出典:imdb

キャストは豪華、脚本はまあまあ、編集はナイスですね

このドラマ、キャストがとにかく充実している。
俳優さんの演技はどの方も味わい深い名演ぞろい。
(ステレオタイプな人物造形には問題ありありだが)

第1話の後半でだんだん村西がカッコよく見えてきて、ちょっとおもしろくなってきた。

脚本もなかなかいい。
第1話の、公園で営業の先輩が村西に営業のコツを語るシーンなど、演出でクソになっているが、脚本の段階ではおもしろそうに思えただろうな、と想像できる会話。

そこそこ脚本はおもしろく出来てるだけに、「このシーンはこう演出したらおもしろいだろう」みたいに頭の中で補正しながら見てるって感じ。

また、脚本以上に素晴らしいのが編集。
編集は第二の脚本だとよく言われるが、このドラマ、俳優さんたちの名演以外では、編集でおもしろくなっている面がかなり大きい。

第3話の、村西のAVデビュー作の撮影シーン。
男がイッた後、女優が男を撃ち殺し、バスが爆発、拳銃を片手に血塗れの女優でエンド。
このシーンはとくに撮影と編集に力が入っていた。

村西が顔面シャワーで一世を風靡するまで、ストーリーものばかりを撮ってて鳴かず飛ばずだった、と私が読んだ伝記には書いてあったが、そのドラマ性の部分が誇張された、ググッとくるシーンだった。

音楽の使い方もよくて、スージー&バンシーズの『パッセンジャー』なんてナイスな選曲!

そんな感じで、いい俳優さんが揃ってて、みんなゴリゴリの渋い演技しているから、ドラマチックな編集や音楽がたまにハマっていいシーンがある。

それだけに、その間を埋めるベタなクソ演出とリアリティに欠けるつまらないシーンの連続が残念でしょうがない。

このドラマをひと言で言いあらわす言葉は決まった。

「最悪と最高」

かなり最悪よりだけれども。

リアリティはゼロというわけではございません

第1話の最後の方に、アダルト業界に足を踏み入れる村西が、「後戻りはできないぞ」と釘を刺されるシーンがあったが、そんなバカなことがあるか。

私は実際にアダルト業界に足を踏み入れて、まともな職業に戻っていった人をたくさん知っているし、そんな実例を持ち出すまでもなく、職種を変えるのは個人の自由に決まっている。

こういうリアリティ無視の、空っぽのドラマ性をベタベタ貼りつけてくるところが、日本のドラマがアメリカのドラマに百歩遅れをとっている原因ではなかろうか。

ライバル会社の描写とか、ベタな悪の巨大組織みたいで、最初は笑って見れてたけど、もう最後の方はひたすらアホらしくてしらけるばかりだった。

とはいえこのドラマ、まったくリアリティを欠いているというわけではない。

第2話で、サラ金で金を借りまくってビニ本を売りさばく村西をみていると、日本のアダルト業界も今や世界に誇る文化となったが、その背景にはこんな人たちの努力があったんだなあ、としみじみ思う。

その第2話の最後でついに手入れが入り、村西とおるは警察に追われる身となる。
場所は北海道だが、手入れの主導は警視庁。

こういう裏ビジネスは往々にして地元の警察とズブズブになるので、手入れが入る時は他の管轄からが多い、なんてことを聴いたことあるが、こういうことか、と納得。

最後に、噴飯ものの馬鹿シーンを紹介してこの記事を終わりにしよう。

レイプまがいの本番強要シーンで大感動!?

さっきも書いた、このドラマをひと言で言いあらわす最も的確な言葉「最悪と最高(最悪より)」。
この混沌が派手に炸裂していたシーンが、村西が初めて本番ビデオを撮影するシーン。

アダルトビデオの撮影中に、村西とおるが突然「女優に本番をやらせよう」と言い出す。

ここの描写がもうほとんど強姦。

衝撃的なシーンにするつもりで、女優やメイクさんやまわりのキャラクターたちの驚愕ぶりを強調したら、演出がヘタだから強要まがいの空気感が表現されてしまったという・・・笑えない。

確かに本番行為もアダルトビデオというメディア・エンターテイメントの立派な表現手法のひとつだけれども、これはそれ以前の問題で、嫌がっている女性に性行為を強要したらそれは立派なレイプなのだ。

しかしその後、本番シーンが始まってからは、持ち前のドラマチックな演出で、これが感動的なニュアンスになってゆくんだから、もう何が何だか・・・。

あまりのそのズレっぷりに、気持ちとしては爆笑したいのに、ひたすら苦笑しか出てこないというストレスがもの凄いシーンだった。

最悪の後に最高がくる。
最高の後に最悪がくる。
最高の中に最悪が紛れてる。
最悪の中に最高が紛れ込む。

最後はもうアホらしくなってきて、すべてが最悪にしか見えなくなった。

それがこのドラマの全貌であった。

評価

よかったところもありましたが、限りなく最悪に近いドラマだったと言っても過言ではございません。
★★★★★

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