アニメ『ゴジラ S.P. ＜シンギュラポイント＞』の感想 – ラドンより洗濯物

作品データ
あらすじ（ネタバレなし）
『ゴジラ S.P. ＜シンギュラポイント＞』の感想
評価

作品データ

英題：Godzilla Singular Point
監督：高橋敦史
脚本：円城塔
出演：宮本侑芽、久野美咲、石毛翔弥、釘宮理恵、木内太郎、高木渉、竹内絢子
音楽：沢田完
制作：2021年、日本

あらすじ（ネタバレなし）

町工場「オオタキファクトリー」のユンとハベルは、怪しい洋館の調査中に不可解な電波を観測する。
同じ頃、謎の信号を受信した旧嗣野地区管理局「ミサキオク」では、大学院生のメイが教授の代理で調査に訪れていた。
異なる場所にも拘わらず、ユンとメイはまったく同じ“曲”を耳にする。

一方、ミサキオクに赴任したばかりの佐藤は、そこに隠された怪しい資金の流れを探るが……。

『ゴジラ S.P. ＜シンギュラポイント＞』の感想

ゴジラのアニメなんて見る気なかったのだが、ちょっとあるきっかけがあって、Netflixで再生したら、これがなかなか。
第１話からやたら面白くて、初っぱなからすでに大傑作の予感。

↓ここから先はネタバレあり↓

科学と技術とキャラクター

こういったパニックものは、パニックの元凶（怪獣や怪物）が出てくるまでをどうひっぱるかがポイントだが、このアニメは科学力の使い方とそのストーリーへの絡ませ方が実に巧み。

例えば第３話でラドンの大群が街を襲ったとき、洗濯物を取り込み忘れたメイがペロ２に相談すると、AIの製造元であるオオタキファクトリーの作業用ロボットをインターネット経由で借り受けて洗濯物を見にいくことになる。
その道すがら、偶然にラドンに追われていたもうひとりの主人公ユンと出くわし、作業用ロボットでラドンを撃退してユンを助ける。

ここらへんのくだりなど、AIと並んでこれからの科学技術の２本柱のひとつであるIoT（Internet of Things）をうまくストーリーに取り入れている。

また同時に、このシーンはキャラクター的にも興味深いものがあって、ラドンの大群が街を襲っているというのに、この非常事態でメイは洗濯物を気にしているのだ。

そもそもメイの大学院での研究専攻はビオロギア・ファンタスティカ（空想生物研究）。
「それってどういう学問？」と思うが、彼女のセリフでの説明によると「存在しない物質で出来た存在しない生物を考える学問」だそうだ。

不思議な生物を研究する学問を専攻しているならラドンの飛来に対してもうちょっと興味を示してくれたっていいと思うのだが、あくまでもビオロギア・ファンタスティカは「存在しない生物を研究する」学問なので、この世に存在してしまった時点でもうメイの研究対象外、つまり興味の範囲外となるのである。
だからメイはラドンより家に干したままにしておいた洗濯物の方が気になるのだ。

スゴすぎて口をポカンと開けたまま見てしまったゴジラのシーン（出典：imdb）

映像とアクション

怪獣に関しては第１話の最後に早くもラドンが出てくる。
映像も素晴らしいし、アクションもめっちゃいい。

ゴジラが２度目に動き出すところ（第10話）はあまりの迫力に呆気にとられるほど。
「映画館で見たい」というより、「映画館で見ているみたい」という感じ。

それだけに、最終話はCG作成が間に合わなかったのか、それまでCGで描かれていた怪獣が一部、手描きアニメになっていたのは残念。
これはDVDでは修正されるのだろうか。

最高のクリフハンガー

さて最終回のラストには非常にワクワクさせるシーズン２への布石があった。
なんと行方不明であった葦原博士が生きていて、メカゴジラを開発しているのだ。

これまでのストーリーではラドン、アンギラスなど、見知った怪獣が綿密な科学考証に基づきひとつひとつ登場するのが醍醐味だった。
その中に大御所のキングギドラとモスラが出てこなかったところをみると、シーズン２以降まで取っておいてあるのだろう。
そんな予感を増大させる、素敵なシーズン２へのクリフハンガーであった。

そういえば蛾が出てくるシーンがあったが、あれはシーズン２以降のモスラ登場へのフラグに違いない。

とにかく怪獣たちの実在を説明するための前提となる学問に「存在しない生物（ビオロギア・ファンタスティカ）」「存在しない物質（アーキタイプ）」「時間の歪み（特異点）」この３つのアクロバティックな理論を打ち立てたおかげで、でかなり高い自由度を確保しているかにみえる。
もうこうなるとなんでもいけそうだ。

ひょっとしたらシーズン２以降では、「正義の怪獣ゴジラとその好敵手となる他の怪獣たちとの戦い」という昔懐かしい旧ゴジラ・シリーズ後半のような展開になる可能性もあるんじゃなかろうか。

続きが楽しみだ。