アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の感想 – なんだこりゃ異世界

王立宇宙軍 オネアミスの翼のポスター
出典:imdb
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作品データ

監督:山賀博之
脚本:山賀博之
出演:森本レオ、弥生みつき
音楽:坂本龍一
制作:1987年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

1950年代の地球に似ている、どこか他の世界の物語。
シロツグ・ラーダットはジェット戦闘機乗りにあこがれていたが、成績が足りず、仕方なく宇宙軍に所属し、はりあいのない日々を送っていた。
ある夜、歓楽街で、献身的に布教活動を行う少女、リイクニ・ノンデライコと知り合う。
リイクニに宇宙軍を「戦争をしない軍隊」だと褒められた彼は、思わず奮起し、人類初の宇宙飛行士に志願する。
しかし予算の問題や、開発責任者の事故死など、状況は厳しかった。
シロツグはリイクニや友人たちの存在に支えられ、頑張って宇宙を目指す。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の感想

おもしろかったかつまらなかったかって話しをすると、私はこの映画、ほんっとうに、つまらなかった。

最初に見たのは30年くらい前。
アメリカに住んでいたときに、知り合いからビデオが回ってきたのだ。
当時の率直な感想は「なんだこりゃ」

その後、ガイナックスという会社のことも、岡田斗司夫や庵野秀明や山賀博之などの名前も知って、この映画が作られた経緯もその後の影響もいろいろ知った。

そうした蓄積を経て、改めてこの歳になって見てみても、やっぱり私にはピンとこないのだ、この世界観。

もともとファンタジーは苦手なのだが、それにしてもこの映画はハードルが高い。

世界の構築ぶりが異世界を感じさせるというよりは、中途半端に地球と同じで、中途半端にちょこちょこ違う、という印象。
違いかたも横のモノが縦だったり、まるいモノが長かったり、なんとなく気持ちが悪いだけ。
ぜんぜん映画の中に入っていけない。

また登場人物たちの顔がことごとく嫌い。

これは大詰めまでに私がこの世界の住人になれるかどうかが鍵だな、と思ったが、よそよそしくさりげなく拒絶されているかのような気持ち悪さは最後まで続く。

ついでに、今にしてみると坂本龍一の音楽って妙に「ぽ」すぎて耳障りだな。
当時は音楽はいいと思った覚えがあるけれど、改めて見たら、なんだかやたら浮いてて映像に馴染んでいないように思える。
クライマックスのアラビアっぽい感じの音楽はよかったけど。

お話しはとても素晴らしいのだ。
まったく飽きさせないし、セリフもいい。

↓ここから先はネタバレあり↓

ロケットが宇宙に発射される直前から、主人公が地球の軌道にのってメッセージを伝えるところまでの11分間だけは、間違いなく私はこの映画の住人になれた。

またこのメッセージを伝える森本レオの声がいいんだ。
そうか、だから森本レオなんだ、とこのシーンで初めてこの起用が理解できた。

大いなる宇宙への第一歩を踏み出したと同時に、人類はまたひとつ、「開けてしまってよかったのかな?」な、パンドラの箱を開けちゃったのである。
主人公はそれを強く自覚しつつ、朝日にむかって祈るのだ。

しかしその祈りは「これが人類にとって素敵な一歩でありますように」なのではない。
「素敵な一歩じゃないのはわかっています。でも神様、許してください。罰を与えないでください」なのだ。

そう考えると人類の科学をペシミスティックにとらえた物語だという見方もできるが、私はこの映画は主人公の心の成長物語だと思う。
生きる希望を仕事に見出せなかった主人公が、口説こうとした女の影響でうまいこと自己顕示欲のはけ口を見つけ、流されていくうちに文明の本質に気付いてしまい、全人類のために祈りを捧げるまでに至るのだ。

ここまで書いて、ふと思った。
これに対して、「罰が当たってしまった世界」を描いた物語が、セカンドインパクト、つまり、『エヴァンゲリオン』なのかもしれない。
世界観は別だが、モチーフはなんとなく繋がっているような気がする。

人間は業の深い生き物なのだな。

とにかく素敵な、そして考えさせられるクライマックスの11分間だった。

しかし2時間もある映画で、そのなかの世界に連れてってくれたのが、そのうちのたった11分だけじゃあしょうがないよな。

宮崎駿の映画なんて、ファンタジーでも最初の数秒ですぐその映画の住人になれる。

ちなみに宮崎駿といえば、彼がこの映画をして、一番長きにわたってロケット開発に携わってきた大人たちが早々に発射を諦めて、若者たちだけが頑張るのは「オカシイ」と言ったそうだ。
見ているあいだは気がつかなかったが、言われてみれば確かにあそこはかなりおかしいね。
これは立派なミスと言ってもいいと思う。

私はどちらかというとロケットを開発していた大人たちの年齢に近いほうの人間だからわかるんだけど、何かモノを作り続けて大人になったジイサンは、本物の少年以上に少年のような心を持っているものだ。

しかし多少のミスはあっても、なんだかんだいって脚本は素晴らしかったし、アニメーションも丁寧で見ごたえがあった。
これを制作したガイナックス制作陣の当時の平均年齢が24歳って、どんだけ才能あふれた集団だったんだ。

こんなにいいのに、世界観のよそよそしさで途中が救いようのないほどつまらないって、不幸な映画だと思う。
でも評判いいみたいだから余計なお世話か。

評価

問題点はほぼ異世界の気持ち悪さだけなんだけれども。
★★★★★


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