作品データ
監督:上田慎一郎
原作:和田亮一、上田慎一郎
脚本:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子(どんぐり)、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき
音楽:鈴木伸宏&伊藤翔磨、永井カイル
制作:2017年、日本
あらすじ(ネタバレなし)
ゾンビ映画の撮影中に、ホンモノのゾンビが現れる。
逃げ惑うキャスト・スタッフたち。
監督は「カメラを止めるな! 撮影は続ける!」と叫び、撮影は続行される。
しかしゾンビが現れたその原因には、実は恐るべき監督の思惑が潜んでいたのであった。
『カメラを止めるな!』の感想
これは面白かった。
ゾンビになるほど笑った。
この映画は2回見た方がいい。
2回目の方が1回目よりはるかに笑えて面白いシーンがたくさんあるからだ。
1回の鑑賞だけで終わらせてしまうのは実にもったいない。
というわけで、この記事もこの映画のスタイルに則って、2幕構成で書きたいと思う。
1回目の感想:やられた! 思い切り意表をつかれた件
私がこの映画について聞いていた情報は、ゾンビ映画の撮影中にホンモノのゾンビが現れて、監督が「カメラを止めるな!」と叫んでそのまま撮影を続ける映画、とか何とか。それだけ。
あともうひとつ、これは「アイデア勝ち」の映画だと聞いていた。
しかし、このあらすじのどこがどう「アイデア勝ち」ってほどのことになるんだろう?
と、もうこの時点でどんな面白さをもった映画なのか想像もつかない。
まず映画を見はじめて、これはホラーというよりコメディなのかな・・・「アイデア勝ちの映画」だって聞いてたけど、大したことないな・・・などと思って見ていくと、本編を撮影しているカメラのレンズについた血を拭くあたりから、なんとなく面白くなってきた。
そして、目まぐるしく動くカメラワークが一瞬とらえたロングショットで「ポン!」のところで、もうこの映画は傑作だと確信するに至った。
↓ここから先はネタバレあり↓
日本がやっとこのクオリティのゾンビ映画を作った!と思って感心しだしたのも束の間、いきなり30分そこそこでこのゾンビ映画は終わってしまう。
あっけにとられていると、なんとそこからやっと、長い後半というか、本編がはじまる。
この映画が最高に面白いのは実はここからなのだった。
完全にやられた。
後半では、まるでバラバラになったパズルのピースみたいに、前半の要素が順番に登場してくる。
ゾンビ映画を監督するのは実際に映画で監督役をやっていた人だったり、
護身術を習っているのは監督の実の奥さんだったり、
本編でゲロをかぶったはずのアイドル女優さんはゲロまみれになるのを拒否していたり。
監督の娘さんや映画のスタッフ・プロデューサーなど、後半で新たに登場するメイン・キャラクターも出てくる。
これら中盤に出てくるバラバラのパズルのピースたちが、終盤の生放送のシーンで、登場人物たちのドラマにのせて、すべてがピタリと一致するのだ。
例えば、冒頭のゾンビ映画本編部分で、カメラマンが気絶して落としてしまったカメラを、そこらへんにいた女性スタッフが拾って引き継ぐ。
そしてその直後に、ゾンビと逃げる女優さんを交互に映すシュールなチェイス・シーンがある。
そのヘタウマなカメラワークを監督の娘がモニタで確認しながら「なにこれ! ダサかっけー! カメラマン変わった!?」と興奮して叫ぶ。
ここらへんのくだりなんて、もうセンスの塊。
涙ボロボロ流しながら笑った。
最後はゾンビと人間、俳優とスタッフ、そして父と子、みんなが力を合わせて組体操!
有終の美を飾る。
この感動。
振り返ってみれば、これは山田洋次の『キネマの天地』やトリフォーの『アメリカの夜』のような、数々の記憶に残る「映画制作の映画」の新たに生まれた名作ではないか!
「映画制作の映画」と言ったって、これは映画じゃなくてTVドラマだったじゃないか、などとヤボなことを言う輩はほっておけ。
私は個人的に「映画制作の映画」では、香港映画『夢翔る人/色情男女』が一番好きなのだが、あれだってポルノ映画だったじゃないか。
映画を愛する心がそこにあれば、それは「映画制作の映画」なのである。
2回目の感想:映画史に類い稀な3段構えのレイヤー構造
2回目を見ると、この映画を傑作たらしめている、巧みな3段構えのレイヤー構造がよくわかってきた。
よく「精密に出来た脚本」というものがある。
例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やインド映画『きっと、うまくいく』など、細かく伏線の張り巡らされた脚本の精密さで高い評価を受けた。
しかしこれらの映画はどれも一律に、時間軸に沿った横軸の一枚レイヤー構造の上に成り立っているものである。
そこにきてこの『カメラを止めるな!』は、これまでの映画史にあまり例のない、縦軸に積み重ねられた3段がまえのレイヤー構造が認められるのである。
どういうことか、説明していこう。
まず、この映画のすごいところは、冒頭37分の短編ゾンビ映像作品が、それ単独で極めて優れたホラー作品であるところ。
単純なゾンビ映画の定番のストーリーを、巧みなカメラワークや会話センス、ちょっとした表現の工夫で飽きさせずに最後まで一気に見せる出来になっている。
例えば登場人物たちが延々と「怪我がない」というセリフを連発する松尾スズキばりのシュールなダイヤローグ。
地面に落ちたカメラがたまたまヒロインとゾンビの格闘の一部始終を捉えた『食人族』ばりのドキュメンタリータッチ。
また、頭を斧でかち割られた女性キャラがいきなり立ち上がったり、監督がカメラ目線で叫んだり、カメラのレンズについた血を何者かが拭ったり、唐突に挿入される不思議な表現。
これらすべてが単純なゾンビものの定番の展開を非凡なものへと押し上げているのだ。
さらに、これらの秀逸な表現の数々が、後半1時間の本編で、ドタバタの大爆笑喜劇と共に、メイキング過程でのトラブルやアクシデントだったことがわかるという仕掛けになっているのである。
これがまさに2段目のレイヤーにあたる。
そしてさらにこの上に、アル中で孤独な俳優の悲哀や、父と娘・夫と妻の家族ドラマなど、ヒューマニズム喜劇が3段目のレイヤーとして重なってくるのだ。
こういう脚本の縦割りレイヤー構造というと、即座に思い出すのが『エヴァンゲリオン』である。
しかしあれは根底に潜む神話的な世界観がそれらレイヤー構造の1枚を担っているだけに、この『カメラを止めるな!』はまた違ったオリジナリティが感じられる傑作だと思うのである。
まとめ
脚本のことばかり書いたが、この映画の素晴らしさは脚本のことだけに止まらない。
何よりも、普通に映画としてクオリティが高い。
低予算ではあるが、監督の演出力・センス・脚本・映画制作のテクニックという点では超メジャー並み、というか、私は日本映画の水準はあまり高いとは思っていないから、こと日本映画に関してはメジャー以上だと断言したい。
またプロットに関しても、三谷幸喜的なコメディとゾンビ映画の融合という点で『少林サッカー』と並ぶくらいのオリジナリティがあった。
先ほど、これは「映画制作の映画」の新たな名作だと書いたけれども、同時に、やっと日本が世界に誇れる、日本を代表するゾンビ映画の誕生でもあるのだ。
・ロメロの『ゾンビ』(アメリカ)
・フルチの『サンゲリア』(イタリア)
・香港映画『霊幻道士』
・韓国の『新感染 ファイナルエクスプレス』
これらの各国を代表するゾンビ映画の傑作に、この度この『カメラを止めるな!』が新たに日本代表として横に並んだのである。
映画史の歴史的瞬間に立ち会えて、私は幸せだ。
評価
文句無しの最高傑作。
★★★★★
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