ドラマ『ザ・クラウン』シーズン3の感想 – 昭和天皇がミソ

『ザ・クラウン』シーズン3のポスター
出典:imdb
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作品データ

原題:The Crown Season 3
監督:ベンジャミン・キャロン、ジェシカ・ホッブズ、クリスティアン・シュヴォホー、他
原作:ピーター・モーガン
脚本:ピーター・モーガン
出演:オリヴィア・コールマン、トビアス・メンジーズ、ジョシュ・オコーナー、エリン・ドハティ、ヘレナ・ボナム=カーター、チャールズ・ダンス、他
制作:2019年、イギリス・アメリカ合作

あらすじ(ネタバレなし)

イギリスのエリザベス女王の半生を描くドラマシリーズ第3弾。
1964年、ハロルド・ウィルソン率いる労働党が政権をとってからの12年間に起こった様々な出来事が語られる。

『ザ・クラウン』シーズン3の感想

シーズン1と2に続いて、待ちに待ったシーズン3を鑑賞。

このドラマは2シーズン毎にメインのキャストを変えるというふれこみで、このシーズン3からエリザベス女王やマーガレット王女が違う女優さんになっている。

よく考えたらふたりともぜんぜん顔が違うし、雰囲気やキャラもだいぶ異なってしまったように思えるが、最終話を見終わるまで、まったく気にならずに見ていた自分に気がついた。

それだけ内容が充実していたということだね。

1話1話のクオリティが映画並みで、毎回、最後は涙が出る。

↓ここから先はネタバレあり↓

涙といえば、第3話だったっけ、エリザベス女王が涙を流すショットで終わるエピソードがあった。
よく思い直してみたらあれって深いな。
直前にエリザベス女王の後ろ姿の長いカットが入る。
私はてっきり女王の後ろ姿のままで終わるのかと思った。
「女王はここで初めての涙を流していたのかもしれない」と観客に想像させる終わり方にするのかと思ったのだ。
ところがカットが変わり、女王のアップになり、その瞳からじわっと涙が溢れてきて、ポロッとひとつぶこぼれ落ちる。
あれっ、泣くところを写しちゃうんだ、と最初は思った。
しかしよく考えたら、あの涙はウィルソン首相に「演じるのもリーダーの仕事です」と言われたことを受けて、女王が嘘の涙を流す練習をしていたのかもしれない、という解釈もできるのだ。
直前に賛美歌のレコードをかけるくだりが入って、どちらともとれるように、観客の想像に委ねる終わりかたになっている。
脚本の巧みさがうかがいしれる一コマだと思った。

シーズン3の白眉はなんといっても4話と5話。
この2つのエピソードはイギリス王家に深く関わったマウントバッテン家の姉弟の物語。
すべてのキャストが一級品のこのドラマだが、個人的にはとくに第5話のチャールズ・ダンス演ずるルイス・マウントバッテンがスゴいと思った。
彼が最後に、女王にクーデターを諫められてする、なんとも言えないあの表情。
さらにそのあとで、彼が姉のアリスと話をして、「私たちは雑種だから祖国はないのよ」と言われ、男の中の男が「ここが私の国だ」と微かに駄々をこねる子供みたいな表情を、少し哀しげつくってみせる。
私の背中が泣いた気がした。

『ザ・クラウン』シーズン3でチャールズ・ダンスが演じたルイス・マウントバッテン

シーズン3でよかったのは何と言ってもこの人。チャールズ・ダンス演ずるルイス・マウントバッテン(出典:imdb

第7話はフィリップの俗物ぶりが光る秀作。
フィリップは人類初の月面着陸を果たしたパイロットたちが、偉業を成し遂げた偉大な人物たちだと思っている。
ところが実際に会った彼らはどこにでもいるような平凡な人間たちだった。
「実際に会った彼らはつまらない俗物だったよ」とフィリップはガッカリする。
しかし宇宙飛行士といったって、普通の人間なのは当たり前のことだ。
社会の末端で働く肉体労働者と同じく、自分に与えられた任務を淡々とこなしただけ。
宇宙飛行士だって、名も無い労働者や一般市民だって、真面目に仕事をしている人たちは皆、立派なのである。
それがわからないフィリップは「宇宙人がいなくてよかった。あれが地球人代表だと思われたら、相手にされなくなる」などと呟く。
その「あれ」に当てはまるような俗物の典型が実はフィリップ自身だということに、自分で気がつかない。
深いエピソードだと思った。

第8話だったか。
昭和天皇が出てくるシーンがあって、あまりのお粗末さに開いた口がふさがらなかった。
「祖国を追われて生きながらえるくらいなら死んだほうがマシだよ」と50年ぶりに再会したウィンザー公爵のことを見下したようなことを言う。
昭和天皇はあんなこと言わない。
ここでちょっとドラマ全体のリアリティへの信頼がかなり薄らいだ。
昭和天皇をこんな風に描きやがって、という批判はない。
創作とは自由であるべきだからだ。
そうではなく、昭和天皇をこのように捉えたことでこのドラマの制作側の「視点」を感じてしまったのである。
「これまでもこのような“視点”でイギリス王室を描いてきたのかな?」という逆三段論法的な帰結プロセスが脳内で行われてしまったのだ。
出来で言ったらほぼ完璧なドラマなのに、ここにきて残念なミソをつけたもんだと思う。

またタイミング悪く、この第8話で私の脳内に発生した“昭和天皇効果”が全開で発動されたのが最終話。
最初マーガレット王女にヘレナ・ボナム=カーターがキャスティングされたときは喜んだのだが、最終話だけは、なんだかシーズン2までのきれいな女優さんを思い出すと、無性に物悲しさがこみあげてくる内容。
あの綺麗なマーガレットがここまでくたびれた中年女になってしまうとは思わなかった。
しかしヘレナはこの役をやるにあたり、霊能者を通じて本物のマーガレット王女の霊と役作りについて話をしたんだそうだ。
ヘレナが「あなたを演じていいかしら?」と聞いたらマーガレットの霊は「他の候補者よりはあなたがいいわ」と言ったんだって。
あとマーガレット王女を演じるにあたって「もっと痩せなさい」とか「タバコの吸い方はちゃんとしてね。わたしのタバコの吸い方はちょっと特徴的だから」などとアドバイスをもらったそうだ。
本編より裏話の方がおもしろかった最後のエピソードだった。

まあ、最後の方にへんなミソがついちゃったけど、このドラマがほぼ完璧に近い傑作ドラマである事実に依然として変わりはない。

評価

悪しき“昭和天皇効果”で星ひとつ減点だけど、とってもオススメの素晴らしいドラマ。
★★★★

Good Movie 認定

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