ロシア・ウクライナ戦争に関連する4つの映像作品を見て考えたこと

オリバー・ストーン オン プーチン
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ロシア・ウクライナ戦争に関する4つの映像作品

去年、私はロシア・ウクライナ戦争にまつわる映像作品を4つ立て続けに見た。

ひとつは『オリバー・ストーン オン プーチン』。
これはタイトル通り、映画監督のオリバー・ストーンが何年にも亘ってロシアのプーチン大統領をインタビューした映像集。
ただインタビューしているだけの映像だが、4時間にも及ぶ大作である。

もうひとつはオリバー・ストーンが制作総指揮をやったドキュメンタリー映画『ウクライナ・オン・ファイヤー』。
そしてその続編となる『乗っ取られたウクライナ』。

最後に『ウクライナ・オン・ファイヤー』と同じ題材を別の視点から描いた『ウィンター・オン・ファイヤー』。

この記事ではこの4つの映像作品の感想を中心に、ロシア・ウクライナ戦争について思うところを書いてみたい。

何が嘘で何が真実なのかについての私見

私はロシア・ウクライナ戦争の背景に興味があって、YouTubeでこの戦争についての言説を毎日何時間も見ては、情報を頭の中で精査している。
2022年の2月にウクライナ侵攻が始まってから今に至るまで、かれこれその総時間は数千時間を超える。
私みたいな素人でもさすがに数千時間ぶんもの情報に接すると、どう考えてもこれは辻褄が合わないな、と思われる情報と、それなりに考慮に入れておくべき情報との区別はついてくる。
そんな中で、最も辻褄が合わないおかしな情報が、まさにテレビなどのメジャーメディアが言う「プーチン大統領は悪いやつで、ウクライナを一方的に占領しようとしている」というあれ。

そもそも今回の戦争は数百年前から続くロシアとウクライナの2つの国の複雑怪奇な問題が下地にあって、さらに過去30年にもおよぶアメリカのロシアに対する挑発があって、その上に2014年からのアメリカのネオコンによる工作があって、それらの積み重ねの末に今回の戦争があるのだ。

だから、今回の戦争は2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことによっていきなり起こったと言われているが、正確には今回の戦争の始まりは2014年のマイダン革命だと言える。

マイダン革命はアメリカの国務省がウクライナの極右勢力をバックアップすることでクーデターを煽り、内政干渉をすることで、事実上アメリカがウクライナ政府を乗っ取った事件である。

そもそも今の時代、他国を占領しようと思ったら、軍事侵攻などする必要はなく、その国の政治家を賄賂や謀略で陥れ、傀儡政権を樹立させればいいのだ。
実際、アメリカがウクライナを乗っ取るまで、ウクライナにはヤヌコーヴィチという親ロシア派の大統領がいて、事実上ロシアの傀儡政権だと言われていた。

第一、ロシアのような広大な領土を持ち、しかもエネルギー自給率・食料自給率ともに約200%にも及ぶ資源豊富な国が、わざわざ世界の悪者になってまで、領土を拡張する必要が今さらあるのだろうか、まったく疑わしい。

そしてこれら一連のアメリカとロシアの攻防の裏にある思想を比べてみると、明らかに今回の戦争はロシアの方に正当性がある。

アメリカのネオコンの目的にはロシアやウクライナの天然資源の利権確保があり、また、彼らの世界戦略の最大の障壁であるロシア国家の解体がその先の目標として存在する。

一方、ロシア側の根底には強固なナショナリズムがあり、ロシアのナショナリズムとは中央集権国家の盤石な体制の確保であり、そのさきはゴルバチョフやエリツィンが手放した旧ソ連の勢力範囲の再興にも繋がっている。

オリバー・ストーンのインタビューでプーチンが言及したロシアのことわざ「絞首刑になる運命なら溺死はしない」これはプーチンの信念の強さと、ロシアという国のクセの強さを同時に表していて興味深い。

ロシアのナショナリズムも確かに厄介だし、プーチンもなかなか狡猾で油断のならない男だが、やり方も思想も明らかに汚いのはアメリカのネオコンの方なのだ。

それにプーチンの「伝統的なロシアを守りたい」という信念だけを切り取って考えれば、それはまっとうなことだし、海外の投資家向けに国内の資源や経済を切り売りする日本やアメリカの政治家たちと比べたら、あくまでも政治家は自国の守り手であるとするプーチンは、まあ現在の世界でもだいぶ立派な政治家の部類に入ると思う。

プーチン大統領の長時間インタビュー集『オリバー・ストーン オン プーチン』

オリバー・ストーン オン プーチン

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原題:The Putin Interviews
監督:オリバー・ストーン
脚本:オリバー・ストーン
出演:ウラジーミル・プーチン、オリバー・ストーン
音楽:ジェフ・ビール
制作:2017年、アメリカ


というわけで、だいぶ長々と国際情勢のウンチクに話しがそれたが、『オリバー・ストーン オン プーチン』という映像作品は、そんな興味深いプーチンという男の人間的な一面がじっくり観察できて、また彼の言い分がたっぷり聴ける4時間であった。

やっぱりロシアというクセの強い国家をまとめあげるためには、何から何まできれいごとで済ませられるものではない。
プーチンだって資本家のバックアップはあるだろうし、彼らの利益のために信念を曲げなければならないこともあるだろう。
この映像作品のインタビューからも、どこか言葉を濁して誤魔化しているなと思う点は多々ある。
しかしまあ、マスメディアが騒ぐほど悪い人物ではないし、興味深い人物であることは確かだと思う。

ちなみにオリバー・ストーンが敬愛するキューブリック監督の、私も大好きな傑作映画『博士の異常な愛情』をプーチンに見せるシーンは興味深かった。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』と『乗っ取られたウクライナ』

ウクライナ・オン・ファイヤー

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『ウクライナ・オン・ファイヤー』
原題:Ukraine on Fire
製作総指揮:オリバー・ストーン
監督:イゴール・ロパトノク
脚本:バネッサ・ディーン
出演:オリバー・ストーン、ウラジーミル・プーチン、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ
制作:2016年、アメリカ

『乗っ取られたウクライナ』
原題:Revealing Ukraine
製作総指揮:オリバー・ストーン
監督:イーゴリ・ロパトノク
脚本:ジェフ・ガトソン
出演:オリバー・ストーン、ヴィクトル・メドヴェドチュク、オクサナ・マルチェンコ、ウラジーミル・プーチン
音楽:ジョン・ベック・ホフマン
制作:2019年、アメリカ


『ウクライナ・オン・ファイヤー』は2014年のマイダン革命にスポットを当てたドキュメント。

最初は平和的なデモだったのに、一般市民の中にアメリカのネオコンが支援していた極右テロ組織ライトセプターのメンバーが潜んでいて、過激な武力闘争へと発展していった様子が映像資料や関係者のインタビューなどで語られている。
その続編である『乗っ取られたウクライナ』は、いかにして今回のロシア・ウクライナ戦争が起こったかがロシア側の視点から詳しく説明されている。

これらがロシア側のプロパガンダかどうかはわからないが、少なくとも中立の立場で今回の戦争を分析している伊藤貫氏(米ワシントン在住の国際政治アナリスト)の言説は、メジャーメディアの報道より、だいぶこちらのドキュメンタリー映画の内容に近い。

それに、私のように日頃から熱心に勉強している者からしてみると、メジャーメディアの報道は本当に呆れるほど嘘ばっかりで、偏っている。

これまで挙げた3つの映像作品は、ロシアのプロパガンダだと切り捨てるようなことはせず、テレビのニュースよりは事実に近い、もう一方の情報として仕入れておいた方がよいものだ。

そして最大の問題作『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』

ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い

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原題:Winter on Fire: Ukraine’s Fight for Freedom
監督:エフゲニー・アフィネフスキー
脚本:デン・トルモール
制作:2015年、イギリス・ウクライナ・アメリカ合作


さて最後に、Netflixで『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』というドキュメンタリー映画を見てみた。

これは最初に言及した2014年にウクライナで起きたマイダン革命を、ウクライナ国民側の視点から描いたドキュメンタリー。
ちょうど前項で紹介した『ウクライナ・オン・ファイヤー』と同じ事件を、別の視点から扱った映像作品だと言える。

制作されたのは2015年で、『ウクライナ・オン・ファイヤー』の前年にあたる。

これはいわゆる第二次世界大戦前、アメリカが『ロスチャイルド』という映画を作ったら、その正反対の内容でヒトラーが『ロスチャイルド家』という映画を作ったという、よくあるプロパガンダ合戦だ。

この2つの映像作品はまったく同じ事件を扱っているのにも関わらず、内容も作り方もまるで逆。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』は政治関係者たちの証言を元に、徹底的に革命が起きた経緯を説明しているのに対して、『ウィンター・オン・ファイヤー』は、政治の裏もわからずただ「ウクライナはヨーロッパの一員になるべきだ」という思いを胸に集まってきた一般人の若者たちの言葉をかき集めてエモーショナルに訴える作りになっている。

もう争いが起きた経緯もへったくれもない。
最初からロシアは悪い国だ、ウクライナの人たちは可哀想だ、ヨーロッパは自由の国々の集まりだ、という前提に立って話が進んでいるから始末に悪い。
『ウクライナ・オン・ファイヤー』と比べると、ひたすらあざとい演出が鼻につく。

デモを起こした人たちが「ロシアは若者の未来を台無しにした」「仲間や子供の未来を守りたい」「純粋な気持ちでウクライナの未来を信じていた若者たち」などと、やたらキラキラした言葉を使うが、EUを捨ててロシア側につくことが何故、未来が台無しということになるのか、悪いことなのか、まったく説明がない。

少なくともロシア側の視点で描かれた『ウクライナ・オン・ファイヤー』ではちゃんと説明があった(EU側が突きつけた条件とロシア側が突きつけた条件を比べて、どうしてもEU側が突きつけてきた条件は不利だったから、という説明がある)。

ウクライナは政治家の腐敗ぶりから汚職大国として知られるが、元ウクライナ大使だった馬渕睦夫氏も、ウクライナ政府で親ロシア派の政治家とEUよりの政治家を比べると、腐敗の度合いが少なかったのは明らかに親ロシア派の政治家の方だったと証言している。

『ウィンター・オン・ファイヤー』の映像が茶番に見える理由その1

そもそもウクライナという国は、「ウクライナはヨーロッパの一員だ」「いや、ウクライナはロシアと一緒にいるべきだ」と言った具合に、正反対のことを主張する人たちが同じ国に住んでいること自体に問題がある。

それに、ロシア・ウクライナ戦争が起きる前の世論調査では、「ロシアに好印象を持っている」と答えるウクライナ人の方が多かったのだ。

それがなんで、いきなり突然発生的に、「ロシアは悪い国だ」という前提から話が始まっているのか?
私には疑問しかない。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』の方では、マイダン革命が惨劇になってしまったことに関して、最初は和やかにデモをしていた若者たちの中を、極右勢力であるライトセプターが煽って過激なデモに発展させたからだ、と説明されている。

一方この『ウィンター・オン・ファイヤー』では、親ロシア派のウクライナ政府が若者たちを弾圧する口実づくりのために秘密警察を潜ませていたのだ、と説明している。

2つの映画を見る限りでは事実は闇の中だが、この後、実際にこの革命に参加した若者たちの望み通り、政権交代が行われ、新しい政権はロシア系住民を迫害し、その結果として、ロシアとアメリカとの代理戦争に巻き込まれている。

自由を勝ち得たはずのウクライナの人々が、その後どんな運命を辿ったか。それを考えると、この『ウィンター・オン・ファイヤー』の映像は何やら壮大な茶番にも見えてこないだろうか。

『ウィンター・オン・ファイヤー』の映像が茶番に見える理由その2

そう考えると、確かに茶番とも言える映像が目につく。

ある場面では、デモ隊のところに警察隊がなだれ込んでくる。
デモに参加していた無抵抗で倒れているだけの一般人を、取り押さえるでもなく、連れて行くでもなく、ただポカポカと棒で殴って通り過ぎてゆく。
ただ痛めつけているだけ。
まったく辻褄が合わないし、説明がつかない。
ヤヌコーヴィチ政府は悪い政府だった、ということで片付けるしかない。
しかしそんな説明で誰が納得するのか。

これをやらせている勢力は何なのか。
その本当の意図は何なのか。

こんな理不尽な映像が綺麗な画質でこうして残されドキュメンタリーの素材に使われていることそのものが意図なのではないか。
そんな穿った見方が一番しっくりくるほど、ひたすら視聴者の感情に訴え、ロシアへの敵意を煽るように作られている。

戦争や紛争というものは、だいたいその裏には経済的な利権がからんだ理由がある。
私は「彼らは悪いやつだからだ」以外の説明のつかない蛮行を一切信じない。
悪いやつが悪いことをするのは、何かしらのメリットがあるからだ。

そしてもしそういった利権構造が裏にあるなら、政府は表面的には善政をしくふりをする努力をするはずなのである。
政府に反対する無抵抗の一般人をこれ見よがしにただ棒でポカポカ殴ったり、銃で無差別に殺したりする光景を見せられて、「こいつらは悪い政府だからなんです」の一言で説明された映像を、信じる者はバカである。

広場でウクライナ国歌をまるで祈りのように歌う民衆たち。
ヨーロッパの一員になることがどうしてそんないいことなのか。
同じ国にロシアとずっと一緒にいたいと思っている人たちもいるというのに。

確かにロシアの方が言論統制は厳しい。
ヨーロッパの方が自由ではある。

この自由で伝統あるヨーロッパの一員でありたいという一部の民衆の思いを利用して、ロシアとの戦争のきっかけにしているのはアメリカなのだ。

この点だけ見ても、ロシアが悪い、ヤヌコーヴィチ政権が悪いという単純な問題で片付けられないということがわかるだろう。

われわれ日本人の取るべき姿勢とは

われわれ日本はこういった複雑な国際情勢の中、日本人としてこれからどうしてゆくのが得策なのか、戦略を立てないといけない。
誰だって戦いの際に戦略を立てる時、「敵はこういう攻撃をしてくるかもしれない」「こういう作戦を立ててくるかもしれない」といった可能性を考慮に入れて、こちらの戦略を立てるのが普通だろう。

そのために、敵がこれまで何を目的に、どういった戦法を駆使して戦ってきたかを分析する必要がある。

私はそのための可能性を考えているだけなのだ。

「ロシアは悪い国だ」
「プーチンは悪いやつだ」
「ウクライナが可哀想」
「ウクライナがんばれ」

これらの感情的な物言いは、意味がないどころか、むしろアメリカの戦略の都合のいいように思わされているだけなのだ。
事態はもっと複雑なのである。

現在の国際情勢で、日本がロシアと敵対するのは絶対に得策ではない。

ましてや、日本人同士で争っている暇はないのである。

最近はイスラエルで大変なことが起きているが、この出来事だって、ロシア・ウクライナと決して無関係ではない。

ネットではよく、親ロシア派と親ウクライナ派で罵声を浴びせあっている光景を目にする。

親ウクライナ派は親ロシア派を「陰謀論者」とバカにするし、親ロシア派は親ウクライナ派を「メディアのプロパガンダに洗脳されている」とバカにする。
この人たちは両方とも全員バカである。

専門家だって意見が分かれているのに、素人どうしで論争している場合ではないのだ。

こういう場合、お互いが情報共有をするべきなのだ。
その上で、常に自分なりの正解を更新してゆくべきなのである。

この4つのドキュメンタリー映画と、この解説記事がその一助になれば幸いだと思っている。

参考資料


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