アニメ映画『ホーホケキョ となりの山田くん』の感想 – 高畑勲の贅沢なお茶漬けアニメ

高畑勲脚本・監督『ホーホケキョ となりの山田くん』
出典:imdb
この記事は約3分で読めます。

作品データ

監督:高畑勲
原作:いしいひさいち
脚本:高畑勲
出演:朝丘雪路、益岡徹、五十畑迅人、宇野なおみ、矢野顕子、富田靖子、古田新太、上岡龍太郎、笑福亭鶴瓶、江川卓、ミヤコ蝶々、中村玉緒
音楽:矢野顕子
制作:1999年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

山田家とそれを取り巻く人々のほのぼのとした日常を描く。

『ホーホケキョ となりの山田くん』の感想

世紀末にメガヒットを飛ばした『もののけ姫』の後に制作・公開されて、そのギャップに大して注目せずに見ないでここまできてしまっていたが、近年の高畑勲マイブームにかこつけてやっと見てみる気になった。

直前の『もののけ姫』が大ヒットだっのと、この内容で『もののけ姫』以上の製作費をかけたという違和感、そして鈴木敏夫プロデューサーがその発言で「ヒットさせるつもりもなかった」と言うわけのわからない意思表示によって、ジブリでもかなりすべった映画という印象だったが、内容はバカにできたものではない。

かなりの傑作。

昔、これとおそらく同じ原作とおぼしきTVアニメがあったが、同じ原作でも監督が別だとこうも違うもんかと驚くべき、めざましい出来なのだこれが。

「ゆるいなあ」とは思いつつ、数分に一回は声をあげて笑ってしまう。
厳選されたユーモアが効いていて、じつは高度なギャグセンスに支えられている。
何気にずっと笑いっぱなしレベルで面白い。

この、ゆるゆるほのぼの系に思えて、何気に爆笑できる作品というと、同じ高畑勲監督の『じゃりン子チエ』もそうだったが、高畑監督はこういうのがうまいのだな。

しかも、いしいひさいちの原作の毒を抜き切ってこの笑いのボルテージをキープするとは、もうわけがわからないレベルの神業ではないか。

しかしこの映画が『じゃりン子チエ』と違うのは、その超ハイレベルな映像である。

高畑勲脚本・監督『ホーホケキョ となりの山田くん』

この超絶ハイレベルな映像を見よ(出典:imdb

シンプルな手書き風の絵柄にして、細かいところまで丁寧に描かれていて、動きも豊かで繊細。
普通のアニメみたいに画面をぴっちり絵で埋めるんじゃなくて、常に大きな空白があって、趣が超絶。
絵を見ているだけで飽きない。

いわゆる、キャビアとかフォワグラが入った贅沢なお茶漬けみたいな映画。

「お茶漬けをこんな高級料理にしちゃうなんて!」と文句を言うより、「わあ、贅沢」と素直に楽しみたい。

なんせ、BGMにマーラーなんて使っるもんな。
マーラー・ファンとして、映画『バードマン』で「マーラーをこんな風に使いやがって」と不満たらたらだった私でさえ、この映画の使い方は素直に「よかった」と思えたくらいだ。

声優さんの演技もよくて、よく実写のコメディホームドラマで味のある演技の年配の俳優さんが出ていて、その人の演技を見ているだけで笑える、みたいなのがよくあるが、その種の笑いをアニメ演出で実現しているところがすごい。
おばあちゃんのすっとぼけた演技とか、出張に遅れて息を切らしながら電話で謝るお父さんの演技なんて、もうおかしくて笑いっぱなしだった。
アニメでこういう笑わせかたさせられたのは初めてかも。

声優もそれに相応しい人が揃っている。
朝丘雪路、益岡徹、荒木雅子、ミヤコ蝶々、中村玉緒、笑福亭鶴瓶。

あぶないギャグもあって、交通事故でお亡くなりになった人に捧げた花を見て「花が可哀想」「ガードレールが可哀想」みたいな笑っていいのかわからないネタもある。
しかし先にも書いたように、こういう、いしいひさいちならではの毒のある笑いはかなり少なくなっている。

暴走族を注意するシーンで一部だけいきなり人物の頭身が劇画調になるところも好きだ。

とにかく想像を超えてかなりよかった。

評価

ゆるゆるネタを、ここまで高度で丁寧な作りに仕上げた、その贅沢な喜びを素直に楽しみたい映画。
★★★★

Good Movie 認定

コメント

タイトルとURLをコピーしました