数回に分けてクエンティン・タランティーノの処女作『マイ・ベスト・フレンズ・バースデー』の内容を、36分の未完成映像を中心に、脚本で補完しながら徹底解説するシリーズ。
今回はその第2回目です。
前回はこちら。
初めての方はこちらの解説文をお読みください。
【本編シーン】ミッキーが帰宅すると元カノがいた 09:17
ミッキーが家に帰ってくると、2ヶ月前に別れた元カノのパンドラがいます。
ミッキーはパンドラが自分の元に帰ってきてくれたのかと思い、大喜びで抱きしめてキスをします。
ミッキーが「俺のところに戻ってきてくれたのか?」と聞くと、パンドラは「そうよ」と答えます。
実はパンドラは忘れ物をとりにきただけなので、ここの「そうよ」は「一時的に戻ってきたのよ」という意味の「そうよ」なのですが、ずいぶんと紛らわしい返答をするものです。
しかもパンドラはミッキーにキスをされて抵抗しません。
パンドラはミッキーをわざと誤解させて、その心をもてあそんでいるようです。
ミッキーに「あれからどれくらい経つ?」と聞かれ、パンドラは「そうね。1月・・・2月・・・2ヶ月かな」と、ちょっと小バカにした口調で答えます。
もう態度からパンドラが悪女なのはミエミエなのですが、彼女が戻ってきてくれた嬉しさで盲目になっているミッキーは気がつかず、「もう二度と君を離さないよ」なんて言っています。
そしてミッキーが「どうして戻ってくる気になったんだい?」と聞くと、やっとパンドラは今日やってきた理由を説明しはじめます。
パンドラ「昨日、ヨランダ・ワックスマンと話してて……ヨランダのこと、覚えてるわよね? ヨランダと話してて、ロッド・スチュワートの失恋ソングの話題が出たの。それで、持ってるアルバム探したんだけど、見つからなくて、それで思い出したの。……アルバムじゃなくてカセットテープで持ってたんだっけ……確かカセットテープは……ぜんぶこの家に置いてきちゃってたんだわ! とりにいかなくちゃ! というわけでほら、見つけちゃった」
そう言ってパンドラは嬉しそうにロッド・スチュワートのテープをかざして見せます。
すべてを理解したミッキーはガッカリ。
ちなみにここのパンドラのセリフに「ヨランダ」という名前が見えます。
『パルプ・フィクション』の冒頭とラストに出てくるキャラクターの名前と同じなので、もし世界観がつながっているのだとしたら、2人は友達どうしなのかもしれません。
【本編シーン】トイレから男が出てくる 12:47
ミッキーがガッカリしていると、トイレから水を流す音が聞こえてきます。
驚いたミッキーは「なんだあれは?」と尋ねます。
ミッキーは「誰がトイレに入っているんだ?」という意味で聞いたのですが、パンドラはしらじらしく「トイレを流す音よ」と答えます。
どこまでも人を小バカにした女ですね。
トイレのドアが開き、オリバーと名乗る男が出てきます。
パンドラはミッキーにオリバーを紹介し、オリバーにミッキーを紹介します。
パンドラ「オリバー、紹介するわ、わたしの古〜いオトモダチのミッキーよ。ミッキー、わたしの最新のオトモダチ、オリバー・ブランドンよ」
そして、パンドラとオリバーはミッキーの気持ちなどお構いなしに、ふたりでイチャつきながら、去っていきます。
ミッキーは不貞腐れた様子でひとり部屋に取り残されます。
【欠落シーン】クラレンスがヤケ酒を飲みながらやってくる
ミッキーがひとり残され呆然としているところに、いきなりクラレンスがビール瓶を片手にやってきます。
クラレンスは酔っ払いながら、「俺たち、ラジオ局をクビになっちまったよ!」と叫んでいます。
ラジオ局の社長に生放送中にコカインをやっていると思われたわけですから、当然ですね。
ミッキーはまだ放心状態で、クラレンスに意識が向きません。
クラレンスはもってきたビールを飲み干し、勝手にミッキーの家の冷蔵庫から新しいビールを取り出してきて、さらに飲み続けます。
「なあ、ミッキー。こうなったら、俺たちだけで新しくラジオ局を始めようぜ! 俺たちには固定ファンがついてるんだ。あのいまいましいラジオ局の社長を後悔させてやるぜ! しっかし、どこの世界にイッチング・パウダーを吸引してクビになるやつがいるんだ!? あの社長を訴えてやる! 賠償金をたんまりふんだくって、俺たちのラジオ局の軍資金にしてやるぜ!」
と、クラレンスはいきりたっていますが、ミッキーは無言のまま。
ようやく、ミッキーの様子がおかしいことに気が付いたクラレンス、「どうした、ミッキー?」と声をかけます。
ミッキーは「さっきパンドラが今彼とやってきた」と報告し、「パンドラに二度もふられちまったよ」と嘆きます。
クラレンスは言葉を失いますが、ミッキーを慰めるために、自分の話をし始めます。
実はクラレンスはセシリアという女に二股をかけられていて、そのセシリアのもうひとりの彼氏が超バカで、なかなかセシリアと別れてくれず、悩んでいるんですね。
そこでクラレンスは、「女難」と「失業」という、同じ問題をダブルで抱えている者同士、憂さ晴らしにパーッと飲みに行って女を引っ掛けて、ミッキーの誕生日を祝おうぜ! と提案します。
「今夜はきっと最高の夜にになるぜ!」とクラレンスは勝手にノリ気ですが、あまりにも落ち込んでいて、そんな気分じゃないミッキーは、「今夜はさっさとシャワーを浴びて寝るよ。第一、俺の誕生日は明日だ」と言って、クラレンスを追い出します。
You can’t fight fate!(運命には逆らえないぜ!)
と、ドアの向こうからクラレンスの叫ぶ声が聞こえますが、ミッキーは無視してソファーに腰をおろし、ため息をつきます。
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