作品データ
監督:湯浅政明
原作:森見登美彦
脚本:上田誠
出演:星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人
音楽:大島ミチル
制作:2017年、日本
あらすじ(ネタバレなし)
主人公の「私」は1年ほど前から同じクラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋心を抱いている。「私」は「黒髪の乙女」を追いかけ、なるべく目に止まるように行動する「ナカメ作戦(“なるべくカノジョの目に止まる作戦”の略)」を実行しているが、なかなか「黒髪の乙女」は「私」の気持ちに気がつかない。そんなある夜、先斗町での飲み会を皮切りに、奇妙な人物や奇抜な催しが入り乱れる超長い一夜が幕を開ける。
『夜は短し歩けよ乙女』の感想
『四畳半神話大系』と同じ森見登美彦原作で、同じ湯浅監督。
まず『四畳半神話大系』というアニメが私にとってどんな作品だったか、それから語ろう。
ある夜、テレビをつけたら、目に飛び込んできた斬新な映像。
それがアニメ『四畳半神話大系』との出会いであった。
そのときは途中からだったので最後まで見なかったが、いずれレンタルして見ようと心に留めておいた。
その後、先に原作と出会い、そのあまりの文章のおもしろさにすっかり虜になる。
そして満を持してレンタルして見たアニメ版『四畳半神話大系』。
これが驚いたことに、ぜんぜん楽しくなかったのだ。
原作のインパクトが強すぎちゃったのである。
これが何を意味するかわかるだろうか?
そう、湯浅監督は、『四畳半神話大系』で、見事に原作に敗北を期したのである。
単体のアニメとしてみれば悪い作品ではなかった。
ただ原作と比べたらやはり負けていたと言わざるを得ないのだ。
さて、そこにきてこの『夜は短し歩けよ乙女』。
こちらも、森見登美彦の原作は『四畳半〜』に比敵する傑作で、かなり手強い相手といえる。
まず最初の方を見て、「黒髪の乙女」が原作に出てくる女の子とかなり印象が違うことにびっくりした。
なんだこの解釈は?
そういえば『四畳半神話大系』も、明石さんのキャラ造形は決して満足いくものではなかったっけ。
(原作の明石さんはもっとシャープな魅力があった)
いや、しかし、それにしても、この「黒髪の乙女」は普通すぎるだろう。
そもそも原作の「黒髪の乙女」はどういうキャラクターだったのか。
これがかなり強引なまでにたくましい想像力と説得力によって描かれた、男が妄想する理想の乙女をそのまま具現化した女性像なのである。
表面的に、原作の「黒髪の乙女」のように見える女性は、だいたい計算してそういう態度をしている。
男が「あの子は良い子だ。じつに良い子だ」なぞとほめそやし、それを他の女が「男って本当にバカ。あんな女に騙されるなんて」と横目でしらじらと眺めている。
そんな構図にピッタリ当てはまるような女性像が、もし本当に天然でいい子だったら?
それを具現化したのが何を隠そう、原作の「黒髪の乙女」なのである。
それに比べて、アニメの「黒髪の乙女」は普通の良い子である。
考えてみたらアニメは小説みたいに「地の文」がないわけで、原作通りの「黒髪の乙女」を映像化するには、かなりのテクニックが必要とされる。
あのまま映像化したらどうしても「騙してる」感が出ちゃうから、こういう安易な「普通の良い子」にスライドせざるを得なかったのかな。
と、この文章を書きながら思い直した。
それとも、このアニメを作った監督だか脚本家だか、本当にわかってないのだろうか?
第一、湯浅監督は『デビルマン〜』『〜ルーのうた』と、近年2作品連続で大愚作を連発していて私の中で思いっきり評価が下がっている監督なのだ。
ああ、もう湯浅政明、終了ー。
そんな一文が私の頭の中にこだました。
しかし、最後まで見てみたら、これが大逆転ホームランだったのだ。
↓ここから先はネタバレあり↓
この映画の問題点は「黒髪の乙女」のキャラ造形と、それからもうひとつ、私のお気に入りキャラのひとり、須田紀子さんのポジションが違ったこと(ゾウのおしり展示会はどうした!?)くらいで、それ以外はかなり素敵なアイデア満載の、楽しい映画であった。
「黒髪の乙女」だって、見ていくうちにこれはこれで、と思えるようになったし。
ちなみに原作で私が一番好きなセリフは「須田紀子です!」
まあとにかく、湯浅作品としては、『MIND GAME』以来の傑作。
原作にはないアイデア満載で、例えば古本市の神様が『四畳半〜』の小津みたいだったり、それに、そもそも原作は1年間の出来事だったのに、それらをすべて一晩の出来事に押し込めてしまうというシュールな再構築っぷり。
最後のほうにある黒髪の乙女と李白さんの会話「あれからもう何十年になる?」「そんなにたっていません。数時間前、同じ夜のことです」この強引に突き抜けたセリフでもうこの映画は傑作だと確信した。
ゲリラ演劇『偏屈王』の完成度も高かった。
湯浅監督、今回ばかりは決して原作に負けてなかった。
(勝ったとは言わないけど)
しかしこうしてみると森見登美彦の奇想ぶりは天才的だ。
確かにあれを一晩の出来事にしてしまうことで、より原作の奇想天外な発想力がイキイキと花咲いていたように思えた。
そうすると、アニメ『四畳半〜』の問題点も次第にハッキリしてくる。
『四畳半〜』では逆に、4話の物語を、エピソードを付け加えたり分散したりすることで、11話の構成に引き伸ばしていたではないか。
森見の奇人変人奇想天外パノラマのような原作は、引き延ばすのではなく、ぎゅっと凝縮してこそ、アニメとしては生きるのである。
それに湯浅のカラフルでサイケデリックな作風も、そう使う方が特性に合っている。
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評価
森見と湯浅の黄金タッグがついに実を結んだ傑作。
★★★★★
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