映画『イエスタデイ』の感想 – DON’T LET ME DOWN

イエスタデイ
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作品データ

原題:Yesterday
監督:ダニー・ボイル
脚本:リチャード・カーティス
出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、エド・シーラン
音楽:ダニエル・ペンバートン
制作:2019年、イギリス・アメリカ合作

あらすじ(ネタバレなし)

ジャックはバイトで生計を立てつつ、シンガーソングライターとして活動していた。

ある日、全世界で12秒間の停電が発生。
その時、自転車に乗っていたジャックは、バスにはねられ昏睡状態に陥る。

目が覚めたジャックは、自分以外の世界中の人々の記憶からビートルズが消えていることに気がついた。

『イエスタデイ』の感想

この世界からビートルズとビートルズの音楽が消えてしまい、唯一ビートルズの音楽を記憶に残している主人公のジャックは、ビートルズの曲を自作の曲として発表。
天才的なソングライターとして世間の注目を集めてしまう。

という、アイデアは面白い映画。

私がこの映画をキライな理由

最初に結論を言ってしまうと、私はこの映画、キライだ。

何がキライかって、この映画を作った人は、ぜんぜんアーチストの気持ちをわかっていないのだ。

そりゃ、映画を作ってるくらいだから、この映画を作った人もアーチストなんだろうが……。
それならなんで、この題材をこんな風に料理したのかわからない。

優れたアート作品は、後世に残して然るべきである。
その気持ちは痛いほどよくわかる。

アーチストだからこそ、ビートルズの輝かしい功績が消えてしまった世界で、自分だけがその名曲の数々を記憶に残しているという状況に直面したのなら、それを復刻させたいと思うだろう。

そこまではいい。

しかしそれをなんで、自作の曲として発表するのか?

本当に彼は音楽を愛するアーチストなのだろうか?

私が主人公だったら、ビートルズの曲はあくまでもビートルズの曲として発表するだろう。

例えばこんな風に言って。

「俺のアタマに天から音楽が降りてきたんだ。きっとこれは、どこか別の世界で誰かが作った音楽が、俺を媒介にして、陽の目を浴びたくて、俺に啓示を与えてくれたんだと思う。この音楽を発表して世に広めることは、俺の使命だと思っている。これらの曲は、俺が作曲したんじゃない。俺は媒介になってるだけさ!」

……とか何とか言って、自分の功績になどしない。

例えその復刻の結果、金が儲かったとしても、自分の才能によるものではないのだから、音楽界に寄付するだろう。

だいたい、アーチストとしてずっと音楽活動をやってきて、自分でも作曲活動をやってきて、自分が作った曲でもないものを評価されて、嬉しいだろうか?

ビートルズの音楽を発表している最中にも、自作の曲が頭に浮かぶこともあるだろう。
そのはけ口はどうするのだろうか?

プロデューサーに曲名やアルバム名や歌詞を勝手に変更され、仕方なくその意向に従うところも腑に落ちない。
今はインターネットが発達しているから、ネットメディアで作品を発表することも出来るではないか。
金儲けは二の次で、ただ優れた作品を後世に残すことが目的なら、どうしてメジャーに媚を売る必要があるのか。

あくまでもビートルズの音楽という、消えてしまった文化を残すことを自分の使命としてして全うすればいいのではないか。

↓ここから先はネタバレあり↓

イエスタデイ

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唐突に訪れる正しい結末

そんな感じでモヤモヤしながらこの映画を鑑賞していって、クライマックスでいきなりジャックの前にビートルズの記憶を残している他の人たちが現れ、

ビートルズの素晴らしい音楽を復刻してくれてありがとう

と、お礼を言われる。

さらにジャックは、「これは自分が作曲した音楽じゃないから」と言って、ビートルズの音楽をフリー音源として世界に解放する。

そんな、ラストが訪れる。

な、なんだそりゃ!

間違いだらけのストーリー展開の果てに辿り着いた、この着地地点の正しさは何だ。

ジャック、お前も音楽を愛して、音楽の道を歩んできた者のはしくれなら、最初からその結論に達しろよ!

そんな感じで映画を見終わって、改めてストーリーを振り返ってみると、この映画の最大の問題点がわかってきた。

この映画の問題点を解明

この映画のストーリーのどこに最大の問題点があったのか。

それは最初の方で、ジャックがビートルズの『イエスタデイ』を歌い、それを友達がジャックの曲だと勘違いするところ。
この過程の書き込みがこの映画は圧倒的に足りないのだ。

自分が作った曲じゃないのに、まわりが勝手に誤解してしまい……ジャックの意志に反して社会がどんどんジャックを天才ソングライターとして持ち上げてしまう。

この過程をもっとしっかり描いてくれたら、あるいはジャックに共感できて、お話しも面白く追えたんじゃないかと思う。

あるいは、いっそ、ジャックをもっと悪いヤツに描いたらよかった。

音楽を愛する者にとって、ビートルズは“神”と同じである。

そんな“神”の音楽を悪用して金と名声を得るなんて、悪魔の所業に等しい。

純粋な気持ちで音楽の道を歩んできたジャックに、ふと魔がさしてしまった。

そして「ビートルズの素晴らしい音楽を復刻してくれてありがとう」とお礼を言われ、初めてジャックは自らの汚れた心に気がついて、雨にうたれながら号泣する。

うおおおおおおお!
俺は! 俺は!
ビートルズの音楽に……何てことを!

……みたいな。

こちらのパターンで題材を料理するなら、ジャックの苦悩の描き込みが圧倒的に足りなかった。

つまり話をまとめると、この映画のストーリーは、あくまでも結末先行型で進んでいるのである。

最初から着地地点が決まっていて、それに向かってお話しを進めていくから、こういう薄っぺらいストーリーになるのだ。

そういえば、ジャックと幼馴染の女性との恋愛エピソードも、とっくに恋愛関係になっていてもいいはずなのに、結末ありきで進んでいるから、わざとらしくそうならない。
やはり同じ問題点がここにも見受けられる。

ついでに、どうでもいいことだが、私の大好きな『バースデイ』がかからなかったこともこの映画の欠点のひとつと言える。

よかったところは、有名にならず、悲惨な末路を逃れたジョン・レノンとジャックが会うシーン。
あそこだけは胸に詰まるものがあった。

評価

結論だけ限りなく正しい、間違いだらけのストーリーに呆れたので低評価。
★★★★

Bad Movie


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