映画『ルーム』の感想。それは真の脱出のはじまりだった…

ルーム
出典:imdb
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作品データ

原題:Room
監督:レニー・エイブラハムソン
原作:エマ・ドナヒュー
脚本:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ
制作:2015年、カナダ・アイルランド・イギリス・アメリカ合作

あらすじ(ネタバレなし)

5歳の男の子、ジャックはママと一緒に「部屋」で暮らしていた。体操をして、TVを見て、ケーキを焼いて、楽しい時間が過ぎていく。この扉のない「部屋」が、ふたりの全世界だった。 ジャックが5歳になったとき、ママは何も知らないジャックに打ち明ける。「ママの名前はジョイ、この『部屋』の外には本当の世界があるの」と。混乱するジャックを説き伏せて、決死の脱出を図るふたりだったが……。

『ルーム』の感想

あらすじを読んで、おもしろそうだと思ったので見てみた。
そのあらすじとは、拉致・監禁された女性が、監禁部屋で子供を身ごもり出産、その息子が5歳になったとき、本当の外の世界を見せるため、脱出を試みる、というものだ。

最初の方はとくにおもろくもなんともなく、ハズしたかと思った。

↓ここから先はネタバレあり↓

いよいよ脱出というときになると、出てくる作戦はどれもザル。
計画段階から成功する気がぜんぜんしない。

これはますますハズしたかと思ったが、外に出た子供を保護する女警官の目覚ましい機転により、あっけなく脱出は成功。親子に普通の生活が戻ってくる。
これでまだ映画全体としては半分しかいっていない。
私はこの映画、あらすじからサスペンス映画だと思っていたので、拍子抜けした。

しかし外の世界に出た後の親子の生活は決して幸せとは言いがたく、なんだか常に微妙な危うさが漂っている。
しかしその“危うさ”の正体がよくわからない。
やはり別の意味でサスペンスな雰囲気が漂い、不穏な空気はまだ続く……といったところ。

それが見ていくうちに、次第にその危うさが形になってくる。
5年間も狭い部屋で生きてきた親子ふたりには、世界は広すぎたのだ。

そしてそんな危ういバランスが崩壊するきっかけになるのが、母がマスコミのインタビューを受けるシーン。

インタビュアーは母に、どうして監禁場所で子供を産んだ時点で、犯人に頼んで子供を外の施設の前かどこかに置いてきてもらわなかったのか、と尋ねた。
この言葉に母は悩むことになる。

インタビュアーの言っていることは欧米のスタンダードな考え方で、子供の将来を考えたら100%正しい。
日本では、家族はなんだかんだいって一緒にいるのが一番、という考え方が主流だが、欧米ではそれが子供の発育や将来に害を及ぼす可能性があるのであれば、決して第一の考え方にはならない。

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出典:imdb

いくら異常者でも、子供を外のどこか施設や教会の前に置いてきてもらうことくらいは頼める。
外で子供に変なことをしたり、殺したりすることの方がよほどリスクが高いし、難しいからだ。
それに犯人の興味は女であって、子供を監禁部屋に引き留めておく理由などない。むしろ余計なモノがひとつ加わったくらいの認識だったろう。
頼めばおそらく犯人はやってくれただろうし、かなりの低リスクで子供だけは助けることができる。

あのまま監禁場所に子供を留めていても、一生外に出られるかわからないし、例え何年かして出られたとしても、それまでの異常な環境が子供の社会性に大きなハンデになるかもしれない。
物心ついてからでは遅いのだ。

しかしこれが、お母さんの立場に立ったらどうだろう。
その選択をすれば、産んだばかりの子供と別れなくてはいけない。
運良く自分も脱出できたとして、子供と再会できるかわからない。
再会できたとしても、その子はお母さんを覚えていないだろうし、その頃にはもうかなりの確率で別の両親がいることになるのだ。

だいたい、欧米の多くの親が、ドラッグや精神疾患などの問題を抱え、子供と別々に暮らしているが、それらのほとんどが、イヤイヤ子供と引き離される形で行われているのだ。
子供のことを考えて、自ら進んで子供を他人に引き渡す親などいない。

お母さんの選択は間違っていたかもしれないが、お母さんの心情を思うと、お母さんを責めることは決してできないのだ。
唯一、責められる人物がいるとしたら、それはお母さん自身だけ。

だからお母さんは自分を責めた。
そして崩壊してしまった。

また一方で、古い価値観を持った祖父が、レイプ犯の息子を自分の孫と認められない、という葛藤も描かれている。

シンプルなストーリーながら、いろいろなものが詰まっている。
この映画を見ながら、人間って難しいな、としみじみ思った。

そして感動のラスト。
ひさしぶりに「部屋」に戻った親子ふたりが、部屋にあるすべてのモノにひとつひとつに「サヨウナラ」とお別れの挨拶をする。
母と息子がこの部屋から初めて、本当の意味で脱出できた瞬間が、やっとここで描かれるのだ。

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前半はサスペンスで、後半はドラマだったが、私の印象では9割方サスペンスで、最後の1割だけドラマという印象だった。
しかし最初から最後まで変わらないのは、この映画が一貫して“脱出劇”であるということだ。

前半は物理的な脱出。
後半は心の脱出。

このよくできた物語で、危うさと利発さを見事に表現した子役の演技が光っていた。

評価

拾い物、という褒め言葉があるが、この映画はとても大切なモノを拾った気分にさせてくれた拾い物。
★★★★

Good Movie 認定


映画『ルーム(字幕版)』を見る

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