作品データ
原題:大鬧天宮
監督:万籟鳴、唐澄
原作:呉承恩
脚本:李克弱、万籟鳴
出演:邱岳峰、畢克、富潤生、尚華
音楽:呉応炬
制作:1961、1964年、中国
あらすじ(ネタバレなし)
石から生まれた石の猿・孫悟空が、花果山で猿の子分たちを従え王様きどり。仙術を身につけ、龍宮に殴り込んだ。如意棒を奪って大暴れ。怒った東海龍王、天帝に悟空の征伐を頼むが、悟空は強すぎて、なかなか倒せない。仕方なく天界で仕事を与えて飼おうとするが、好き勝手は止まらず、西王母が管理する桃園の桃を食い散らかすわ、神仙たちが集う宴をめちゃくちゃにするわで天上界は大混乱。ついに孫悟空たちと天上界との大戦争がはじまった。
『大暴れ孫悟空(大鬧天宮)』の感想
中国が制作した『西遊記』のアニメ化。
前編(1961年)と後編(1964年)に分けて公開されたそうだ。
あつかっているのは孫悟空がお釈迦様に五行山に封印される前。
天上界をまたにかけ暴れ回っていた頃のエピソード。
岩波文庫の単行本(全10巻)でいうと第1巻、第7回の途中まで。
私は『西遊記』の原作というとこのあたりが好きで、三蔵法師たちとの道中の部分は1度しか読んでいないが、そこに至るまでの過程部分はもう何度も読み返した。
それほど大好きな小説の映画化というと、どうしてもハードルが上がってしまうもの。
ドラゴンボールやドリフくらい大胆にビジュアル化してしまうとそれはそれで別物として楽しめるのだが、このアニメはかなり原作を正確になぞっているのだ。
しかし、それを押してもこれは本当によかった。
京劇風の効果音とキャラクターデザイン。
カラフルで想像豊かな絵。
クライマックスの18分にもおよぶ大決戦は圧倒的な迫力。
途中に挿入される天女のミュージカルシーンの艶やかさもステキすぎた。
それから声優も個性的な役者が揃っている。
ほぼすべての要素が極上だと言っていい。
アニメを超えて、孫悟空を映像化した作品としても間違いなく最高傑作のひとつに数えられる名作だ。
アニメとしては、中国史上最高傑作といっても過言ではない。
それにしても、アニメは日本の文化と言われるほど有名だが、中国のアニメも決して負けちゃいない。
日本はかの『白蛇伝』が1958年。
手塚治虫の『鉄腕アトム』が1963年。
そしてこの『大暴れ孫悟空』が1964年(前編は1961年)。
劇場用アニメの大作という点では少し中国は遅れをとったが、影響力の大きさという点では、中国のこの『大暴れ孫悟空』は、かなり日本のアニメにこのあと重要な影響を与えてたんだそうだ。
近年また新たに孫悟空を主役にした中国のCGアニメが話題になっているが、どうしてもアメリカのCGアニメっぽさはぬぐいきれない。
また、『大暴れ孫悟空』と同じ万兄弟が制作した1941年の『西遊記 鉄扇公主の巻』は、ディズニーアニメの影響が濃厚だ。
その点、京劇風のアクションと色彩感覚を取り入れたこの『大暴れ孫悟空』は、中国ならではの感性に満ち溢れた純中国風オリジナルアニメとして、今こそ再評価されてしかるべき名作アニメの古典なのではないかと思う。
↓ここから先はネタバレあり↓
ひとつ残念なのは、最後にお釈迦様が孫悟空をやりこめて五行山に閉じ込めるところがぬけていること。
邦題通り、孫悟空がさんざん大暴れして、好き勝手やった挙句、花果山に戻って「斉天大聖」の旗をかかげ、仲間の猿たちと喜び合ってメデタシメデタシ。
それまでのストーリーが何も解消されず、あまりにもバランス悪すぎて気持ち悪い。
なんでもこのアニメは当時、その孫悟空の暴れっぷりが毛沢東の暴走と重なると評価され、けっきょく文化大革命により上映が禁止されたんだそうだ。
お釈迦様の仏罰がないのは制作者が映画の中で毛沢東を罰するみたいで腰が引けちゃったのかしらね。
評価
現代の日本のアニメにも匹敵する傑作。
★★★★★
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