作品データ
原題:Léon
監督:リュック・ベッソン
脚本:リュック・ベッソン
出演:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン
音楽:エリック・セラ
制作:1994年、フランス・アメリカ合作
あらすじ(ネタバレなし)
ニューヨークで孤独に生きるイタリア系移民のレオンはプロの殺し屋。
ある日、アパートの隣に住む少女マチルダと知り合う。
マチルダは弟とだけは仲が良かったが、父や異母姉からは虐待を受けており、辛い毎日を送っていた。
そんな矢先、麻薬密売組織を裏で牛耳っている刑事スタンスフィールドが、マチルダの家を襲撃する。
マチルダの父は麻薬組織の「商品」を横領していたのだった。
たまたまそのとき外出中だったマチルダは、帰ってきて異変に気がつき、レオンの部屋に逃げ込む。
大切な弟を殺されたマチルダは復讐を誓い、レオンに殺しのテクニックを教えてほしいと頼むのだった。
『レオン/完全版』の感想
学がなく、もっさりしてるけれども腕だけは確かなイタリア移民の殺し屋レオンが、ひょんなことから12歳の少女マチルダをかくまうことになり、少女を立派な殺し屋に育ててゆく、というのが中盤までのお話し。
いたいけな少女を殺し屋にするなんて、なんだかモラルがぶっ壊れているように思える。
がしかし、そこがこの映画の脚本の巧みなところ。
マチルダは家族を殺され、身よりもなく、そのうえ命を狙われている。
外にほっぽり出されたら、死ぬ以外にアテがない。
しかも、レオンが殺し屋であることがバレているので、秘密を知っている少女をこのまま生かして追い出すわけにもいかない。
レオンに残された選択肢は、少女を殺すか、殺し屋に育てて仲間にするかしかないのだ。
しかしレオンは殺し屋のわりには心が優しい男だから、少女を殺すなんて難しいだろうし、だからといって後者の選択肢はまず自分からは頭に浮かびそうもない。
そこにきてマチルダが自分から積極的に「弟を殺された復讐をしたいからわたしに殺しを教えて」と言ってきているのだ。
おまけになかなか素質があるときている。
こんな奇妙な渡りに船もあったもんじゃないが、マチルダを殺し屋に育てる確かな必然性はあるのだ。
それに、映画を気をつけて見ていればわかるが、レオンは本気でマチルダを殺し屋にする気はない。
レオンは最後の最後までマチルダに実際の殺しをやらせようとはしなかったし、だいたいあのレオンが「さあ、お前も一人前だ。そろそろ実際の殺しをやってみようか」なんて百年たっても言ったとは思えない。
レオンはマチルダを殺したり追い出したりしないで済むため、とりあえず殺しの技術を教える、という形をとることで、対処を保留していただけなのだ。
また、この極めて突拍子もないストーリーを説得力のあるものに押し上げているのが、これらの設定もさることながら、このマチルダを演じているナタリー・ポートマンの演技力であることも忘れてはならない。
12歳の少女が精いっぱい背伸びをして、大人の女を演じる様は、可愛くもあり、どこか頼もしくもある。
最高に好きなシーンがふたつあって、殺しの実技指導をするシーンで、銃を撃つ前に顔にかかった髪の毛を首をふって払うショット。
もうひとつは、レストランで酒に酔ってケラケラ笑うシーン。
とくに後者は本当に酔っているんじゃないかと思うほどの名演技。
カットの物理的な長さがこの演技の素晴らしさを図らずも証明している。
またナタリー・ポートマンと並ぶ名演を魅せてくれたのがゲイリー・オールドマン。
ジャン・レノは悪くなかったというか、もちろんよかったけれども、もっとよくなれたと思うので、その点では他2人と比べると力不足という感じ。
ちなみに私はこの完全版だけしか見ていないのだが、オリジナルと比べるとレオンとマチルダの中盤のやりとりが大幅に追加されたという。
だとしたら完全版の方がやはりオリジナルよりよいのではないかと想像する。
↓ここから先はネタバレあり↓
クライマックスのレオンとマチルダが最後のお別れをするシーンまではスゴくよかった。
しかし最後の17分はどーんと気持ちが落ち込んだ。
レオンには生きていてほしかったし、マチルダと幸せに暮らしてほしかった。
マチルダが殺し屋として練習してきた成果がまったく発揮されなかったことも少しひっかかる。
あれら途中のおもしろい練習シーンは何だったのかと拍子抜けした。
最後の復讐はマチルダが引き金をひいてもよかったんじゃないだろうか。
レオンの最後の言葉「This is from Mathilda」のセリフが光っているとしてもだ。
それに、復讐は果たされたかわりに、マチルダは新たに大切な人を失うはめになった。
マチルダは孤独を抱え、なんとなくこの先、殺し屋に成長してゆくんじゃないかという空気感もある。
そしてレオンは本気でマチルダを殺し屋に育てる気はなかったから、もしこの後マチルダが殺し屋に成長してゆくのだとしたら、それは死んだレオンの遺志に反しているのだ。
その点で、映画の中で12歳の少女に最後まで本当の殺しをさせなかったのは英断だったともいえる。
一方、レオンは職業とはいえ、これまで幾多の殺生を繰り返してきた。
少女を救い、自らが死ぬことは、彼の贖罪だったのかもしれない。
モヤモヤした気持ちをかかえて頭の中をぐるっとひとまわりしてみたら、やっぱりこの結末以外はなかったかなあ、という気もしてきた。
もしマチルダが自分の手で復讐を果たし、それを最後の殺しとして、その後はレオンと一緒に普通の女性として生きてゆけたとしたら、それはそれで理想のラストになったのかもしれないが、やっぱりモヤモヤは残るんだろう。
ちなみにレオンが生き延びて、マチルダと合流できたとしたら、ふたりにはどんな人生が待っていただろうか。
恋をほのめかすくだりもあったが、私にはどれだけ二人があのまま一緒にいたとしても、父と娘のような関係がずっと続いていたような、そんな想像しか働かない。
少なくともマチルダが立派な女に成長するまでは。
・・・と、ここまで書いて光景が重なって見えたのは、80年代にやっていたテレビドラマ『秘密のデカちゃん』の第1話であった。
評価
やっぱりこの結末でよかったと思うことにした。
★★★★★
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