『ダークナイト ライジング』ヒーローが最強じゃなくてもいい理由

ダークナイト ライジング
出典:imdb
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作品データ

原題:The Dark Knight Rises
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アン・ハサウェイ、トム・ハーディ、マリオン・コティヤール、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、モーガン・フリーマン
音楽:ハンス・ジマー
制作:2012年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

前作から8年、ブルース・ウェインはバットマンを引退し、ゴッサム・シティーには平和が訪れていた。
そんな彼の前に、猫のようにしなやかな、謎の女泥棒が現れる。
一方、覆面のテロリスト、ペインが出現し、ゴッサムは再び恐怖のどん底に。
ブルースはバットマンとして復活し、悪と戦うが、思わぬ邪魔が入り・・・。

『ダークナイト ライジング』の感想

実は私はアメリカのヒーローものの映画が苦手なのだ。
バットマンはティム・バートンまで、スパイダーマンはサム・ライミまではそれなりに楽しく見ていたが、もう最近はすっかりダメである。

私の中で、ハリウッドはヒーローものを「わかってないやつら」、という認識がある。
そりゃヒーローものの発祥は日本よりあちらが先なんだろうが、子供の頃からデビルマンやマジンガーZなどの日本のヒーローものに耽溺して育ってきた私にとって、アメリカの最近のヒーローものの映画はどうも違うのだ。

まず、ヒーローは強くなくちゃいけない。
初めてデビルマンやマジンガーZをテレビで見たときの衝撃は今でも忘れない。
「デビルマン強ぇ!」「マジンガーZ強ぇ!」と子供心に興奮したものだ。

最近のアメリカのヒーローものは、ヒーローのピンチや人間的な弱さを重点的に描きすぎるきらいがある。
『ダークナイト』なんてその最たるものだ。

何よりもまず、ヒーローは圧倒的に強くなくちゃいけないのである。
だからこそ悪役だって魅力的に輝くのだ。

強いヒーローが、中盤をすぎたあたりでやっとピンチに陥る。
思いっきりヒーローが強いところを魅せられた後だから、ヒーローがピンチに陥るところで、見ているわれわれはハラハラする。
そしてクライマックスで、また強いヒーローが蘇る。
それから最後に敵を倒す直前で、またちょっとだけピンチになる。
そして最後の最後に、悪いやつをスカッと倒す。
ヒーローものってのはこうでないといけない。

私はあんましヒーローもののハリウッド映画を見ないのだが、私が見た数少ないヒーローもので、私の満足のいくものというと、まあここ数年では『パシフィック・リム』くらいだ。
『パシフィック・リム』だけは、ヒーローものの理想の公式にギリギリ則って作ってあった。
それ以外は『トランスフォーマー』だとか、新しい『スパイダーマン』だとか、まったくなっちゃいない。
ヒーローものがわかってないよ、と言いたくなるものばかり。

とにかくアメリカのヒーロー映画は、ヒーローが優勢になったりピンチに陥ったり、攻防をごちゃごちゃと描きすぎる。
そして、どちらかというとピンチの比重が多い。
カタルシスを盛り上げるのはうまいが、ヒーローへの憧れを芽生えさせてくれる、素朴なサービス精神に恐ろしく乏しいのだ。

まあそういうわけで、私はこの映画、まったく期待していなかった。
ただアン・ハサウェイやマリオン・コティヤールが出ていたので、ちょっと見てみようかな、と思っただけだ。

見ていくと、へえ、ゲイリー・オールドマンやモーガン・フリーマンも出てるんだ、と思ったら、ウェインが地下に囚われるシーンに出てくる老人を見て、どこかでみたことある顔と声だなあと思ったら、なんと、戦メリのトム・コンティ!!!
すごい俳優が続々出てくる。

なんでこんな下らない映画に出てるんだ、と思った。

ダークナイト ライジング

モーガン・フリーマンとマリオン・コティヤール(出典:imdb

ところが、である。

最後まで見たら、この映画は私が予想していたものと大きく違っていたのである。

橋を爆破するシーンを見て、「なんだかパトレイバー2みたいだなあ」なんて思ったりしたのだが、このさりげなく頭に浮かんだ感想が実は、まさにこの映画の最大のポイントを暗に語っていたのだと気がついたのは、エンドクレジットも間際になってからだった。

日本にはガンダムあたりからはじまった、単純な勧善懲悪ものを脱したリアリティ・ヒューマニズム路線のアニメがあったことを失念していたのだ。

ロボットアニメに初めて戦記ものを導入し、補給線や主人公の成長などを描くことで、今までにないリアリティとヒューマニズムを描いたガンダム。
そこからパトレイバー、エヴァンゲリオンへと至る日本アニメのリアリティ・ヒューマニズム路線。

この『ダークナイト ライジング』は、それらリアリティ・ヒーローものの申し子だったのだ。

登場人物のアップを最大限に排除し、ロングショットが中心のカメラワーク。
特撮シーンも、CG感を一切出さないような画質を追求しているのがわかる。
バットポッドとかバットとか、質感だけでなく動きや音にも重厚感があってクソかっこいい。

ダークナイト ライジング

バット、クソがつくカッコよさ(出典:imdb

とくにカメラワークにロングショットが多く、アップが少ないことは重要。
戦争だとかテロだとか、社会的な事象を背景に、人間性の陰影を描くヒューマニズムと、感情に訴えかけるエモーショナリズムは違うのだ。
これでアップが多かったら後者になってしまう。

とくにアメリカの映画やドラマはそういうのが本当に多い。
何かとアップで人物の表情を強調して、喧嘩したり仲直りしたりする人間をひたすら描き続けるベタな感情表現にまみれた作品に私はいい加減、食傷気味なのだ。

絶望に屈しそうになっていた民衆が、バットマンが現れたと知るや、一気に士気をとりもどし、巨悪に向かってゆくシーン。
こういう形で大衆の「心」を描ける映画こそが真の社会派ヒューマニズムと言えるのだ。

そして歪んだ理想によってゴッサムを破壊するという敵の野望。
『逆襲のシャア』を思い出すな。

この映画は『パトレイバー2』や『逆襲のシャア』などの日本のアニメに影響を受けたアメリカ人による、バットマンの新解釈なのだ。

アン・ハサウェイやマリオン・コティヤールが演じる対照的なダブルヒロインの「悪玉→善玉」「善玉→悪玉」の構図。
RISEという言葉に象徴される統一されたコンセプト。

押井守的にがっちり地固めされた世界観と、ガンダム的なヒューマニズムをアメリカ人が清々しいまでに理解し、モノにした、その感性の賜物だったのだ。

ダークナイト ライジング

バットポッドを乗り回すキャットウーマン(アン・ハサウェイ)
クソにクソがつくカッコよさ。タイヤの仕様が画期的。
(出典:imdb

そういえば、今、思い出した。
最初の『バットマン ビギンズ』を見たときに私は、あまりおもしろいとは思わなかったけれども、同時にこんな感想をもったのだ。
「人間がそこそこうまく描けているなあ。これならもっと徹底的に押井守のパトレイバーみたいにしちゃえばいっそおもしろくなるのに」、と。

この『ライジング』はまさに、それをやってくれたのだ。

私は間違っていた。
『バットマン ビギンズ』はイマイチだったし、『ダークナイト』は私には何がおもしろいのかさっぱりわからなかったから、すっかりアメリカ映画を侮っていた。
(あれ、それにしても、あんまり最近のハリウッドのヒーロー映画は見ないとかいって、よく考えたら私、前2作見てやんの)

それにしてもこの映画、『インターステラー』と同じ監督だよね。
『インターステラー』は私にはダメだったなあ。
あちらはベタベタだった。
同じ監督とは思えない。

ダークナイト ライジング

出典:amazon

評価

ヒーローものじゃなくて、押井守やガンダムの富野みたいな社会派ヒューマニズムSFアクション・ドラマとして最高におもしろかった。
★★★★★

Good Movie 認定


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