作品データ
原題:Where to Invade Next
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア
制作:2015年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
どれだけ侵略戦争を繰り返しても、さっぱりよくならない国、アメリカ。
米国防総省の幹部らは悩んだ挙げ句、ある人物に相談する。それは、政府の天敵である映画監督マイケル・ムーア。そして、新たな侵略戦争がスタートした。それは国防総省に代わってムーア自らが“侵略者”となり、世界各国へ出撃するというものだった。
ムーアは星条旗を掲揚し、空母ロナルド・レーガンに搭乗。大西洋を渡り、ヨーロッパへと向かう。
……という設定のドキュメンタリー映画。
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』の感想
この映画を見ていて、ふと80年代に私の高校の英語の先生が授業で話していた雑談を思い出した。
その先生曰く……
「西洋人はバカだから、ネイティブアメリカンたちを蹂躙してアメリカ大陸を侵略して、次に日本に原爆を落として占領して、さらに西に進んでベトナム戦争をおっぱじめ、そこでやっと自分たちのバカさ加減に気がついて撤退した」
インターネットも無く、おおらかな言論が許された80年代だったからよかったものの、今の時代に学校の先生がこんなことを授業で発言したら問題だろうなあ、なんて思っていたが、アメリカ人でも同じ視点をもつ人物がいたのだな。
その人物とはほかでもない、マイケル・ムーア。
それはこの映画の原題『Where to Invade Next(次はどこを侵略しようかな)』からもうかがい知れる。
かの英語の先生の問題発言と現実を照らし合わせると、その後アメリカは懲りもせずまたさらに西に進んでイラク戦争をおっぱじめた、ということになるんだろう。
この『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』では、マイケル・ムーア自らがそんな侵略好きのアメリカ人を皮肉っぽく演じつつ、ヨーロッパの国々をまわって異なる文化や習慣を調査する名目で、アメリカに足りないモノを浮き彫りにさせてゆく、という構図になっている。
で、ムーアはあるオチにたどりつく。
(それはネタバレになるのでここには書かない)
けっこう笑えるし、勉強にもなる、おもしろい映画だった。
だがしかし、おもしろさに反して、私はこの映画をそれほど気に入ったわけではない。
なぜかというと、私のドキュメンタリー映画の美学に外れていたからだ。
内容はとてもいい。
私がこの記事で指摘したいのは、ドキュメンタリー映画としてのスタイルのほう。
この世にはいろんなタイプの映画があっていいと思うし、どんなスタイルの映画にもそれぞれその良さがあると思うのだが、ことドキュメンタリー映画に関しては、私は「素晴らしいドキュメンタリー映画はこうあるべき」、という確固たる方向性がある。
というのも、この映画のような、最初から結論を決めて取材を進めていったような作り方は、どうも心の底からおもしろいと思えないのだ。
ドキュメンタリー映画の真髄とは、いつ撮影が終わるか、映画になるかわからないままに制作を進めてゆくことにあるのではないか。
それがテレビのドキュメンタリーとの違いだと思うし、少なくとも私は、そういうドキュメンタリー映画を愛す。
例えば『ゆきゆきて、神軍』をはじめとする原一男氏の作品群。
彼の映画には「まだまだ映画にならない」「ひょっとしたらこれは映画にならないかもしれない」そんな作り手の緊張感が、そのままドキュメンタリーに生命を与えている。
「半年か1年くらいカメラを回してまとめよう」「オチはこう言う方向にもっていこう」そんな姿勢で撮られたドキュメンタリー映画はどうも気に入らないのだ。
最後はこんな結論にもっていきたいから、これとこれをこう撮って、なんて計画で、スリリングな展開など期待できようもないではないか。
もちろん、内容はとてもためになるものだ。
それは認める。
しかし別に同じことを著書で訴えたってよくね、といったところ。
デビュー作の『ロジャー&ミー』のような、いつになったら結末が見えてくるのか、どんな結末になるのかわからないまま何年もカメラを回し続けた、あの頃のマイケル・ムーアの衝撃には程遠い、良く言えばキレイに出来た良作だった。
キレイすぎて、トリミングの気配もぷんぷんしたりする。
しかし映画監督ってのも、キャリアを積んで慣れていっちゃうと、自然と着地地点を見通したみたいな作り方しか出来なくなっちゃうのかもしれないね。
余計なお世話かもしれないけど、マイケル・ムーア、何かしらぶっ壊していく必要あるかもですな。
評価
マイケル・ムーア、次の侵略先は自分自身でしょうか。
★★★★★
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