作品データ
原題:War of the Worlds
監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:H・G・ウェルズ
脚本:ジョシュ・フリードマン、デヴィッド・コープ
出演:トム・クルーズ、ダコタ・ファニング
制作:2005年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
レイ・フェリエは離婚して、一人暮らし。離婚した妻がボストンの実家を訪ねる間だけ、息子のロビーと娘のレイチェルを預かっていた。ある日の朝方、レイは奇妙な稲妻が数十回も町の同じ場所に落ちる光景を目にする。すると町が不気味な雲に覆われ、地割れが起こり、地響きと共に地中から巨大な三脚歩行機械「トライポッド」が出現。光線兵器で次々に人々を殺害し、町を破壊してゆく。なんとか逃げ延びたレイは、盗んだ車でレイチェルとロビーを連れて町を出る。しかしすでにトライポッドは世界各地に出現し、侵略を開始。人類は抵抗するも成す術なく、撃破されていくのだった。
『宇宙戦争』の感想
これは子供の頃に読んだかのH.G.ウェルズの小説の映画化である。
宇宙人が地球を征服しようと、攻めてくる、というシンプルなお話し。
あの小説を今のこの時代に映画化する場合、やはり焦点となるのはラストをどうするか、ということ。
『宇宙戦争』はとにかく「あの」ラストが印象的なのだ。
しかし、やはり百年以上前の物語だから、あのまま映画化しては、現在では機能しづらい。
どうしても同ジャンルの他の映画と比べてあっけない印象になってしまうリスクがあるからだ。
かといって、現代のハリウッド大作映画の定石通りに、激しい攻防の末に宇宙人を撃退する、なんてクライマックスにした日には、それでは『インデペンデンス・デイ』になっちゃうし、もはやウェルズの『宇宙戦争』ではなくなってしまう。
そんとこをスピルバーグはどうするのか?
興味深く見はじめた。
はじまって30分くらいで、スピルバーグは主人公の視点に完全固定したまま最後までストーリーを進める気なんだとわかった。
ウェルズの原作も私小説の形だし、どうやらスピルバーグは本気でウェルズの『宇宙戦争』を映画化するつもりらしい。
「それ、今風にしちゃったらもうウェルズの宇宙戦争じゃないでしょ」みたいなことは一切やっていない。
それでいて、はるか昔に地中に戦闘マシーンを埋めていた、みたいな斬新なアイデアは、リスペクトを損なわない範囲で、ところどころに盛り込んでいたりする。
こんな調子だから、ラストもきっと『インデペンデンス・デイ』にはしないだろうという思いは確信になった。
いわゆる人類vs宇宙人の攻防のアクション・パニックものにはせずに、徹底的に家族のドラマに焦点をしぼることで、「臨場感」で勝負する気なのだ。
だから最後はきっと、原作通りの結末でいくはずである。
この作り方で、わざわざラストを盛る必要があるとは思えない。
このひたすら臨場感だけにこだわって、観客に感情移入させるストレートなつくりは、あのオーソン・ウェルズの画期的なラジオドラマ化さえ姑息な手口に思わせてしまうほど、よく出来ている。
もう天空に暗雲がたちこめるシーンからドキドキしっぱなし。
しかもトム親父に視点を固定させつつ、ちゃんと軍と宇宙人との衝突シーンや、人々のパニックなど、「そこんとこ、どんな状況になってるの?」と疑問に思うところはちゃんと流れに組み込んで描いてくれている。
その過程で印象的なシーンもたくさんあって、燃えながら通り過ぎてゆく列車のカットとか、もはや恐怖を通り過ぎて美しい。
宇宙人の巨大マシンが街を襲うロングショット(トップ画像)なんて、もう子供の頃に読んだ本の挿絵そのもので、これだよこれ、ウェルズの宇宙戦争はこのショットがなかったら嘘だよ、なんつって感動しちゃう。
一方で、ストレートに原作のコンセプトをなぞっているかに見えて、巧みに広島の原爆や911のテロ被害などを想起させる描写を入れてくるところがいい。
「宇宙戦争」とはいっても、決して浮世離れしたSFの物語で終わらせないところにスピルバーグのメッセージ性が込められている気がした。
リアリティ面で言うと、トム・クルーズの下級労働者としての人間性の役作りが完璧。
一番最初のセリフから「スゲえ、成りきってる」と感動させてくれる。
ダコタ・ファニング演ずるその娘がまたいい。
子供にしてはとても大人びたしゃべり方をする、ちょっと精神年齢が高めの子で、それでいてヒステリー症みたいなのを患っている。
とても賢くて、自分の疾患に対して明確な自覚があり、症状と闘いながら、父兄の助言によく従い、冷静に対処する健気な姿が逞しく、可愛かった。
この子の描写を「ギャーギャーうるさい」と感じる人がいたら、少し読解力が無いか、実生活でも鬱病の人とかに「甘えるな」とか言ってるような人なんじゃなかろうか。
ところどころ宇宙人のやってることがわけわからないところもリアリティがある。
地球人を灰にしまくっていたかと思ったら、捕獲もしてるし、地球人の血を吸って、赤い蔓草みたいなモノを血管のように地面に張り巡らしたり。
宇宙人なんだから、イチ地球人の目から見てワケノワカラナイ行為が目につくのは当たり前のことである。
ここにもイチ地球人の視点に固定したスタイルによるディテールへのこだわりが見受けられる。
ちなみに「大阪では数機倒したらしい」と言うセリフがあったが、あれはデマとして描いたのだと思う。
こういうパニック状態では、いろんな虚実が尾ひれをつけて出回るものだ。
そんなリアリティを表現したのだと思う。
これもディテールへのこだわりのひとつだ。
細かいとこ雑な部分はあるけど、そんなことは目をつぶりたいくらいよかった。
評価
ヤボなことは言わない。いい映画だった。
★★★★★
コメント