作品データ
監督:内藤瑛亮
原作:押切蓮介
脚本:唯野未歩子
出演:山田杏奈、清水尋也、大谷凜香、森田亜紀、大塚れな
制作:2018年、日本
あらすじ(ネタバレなし)
半年前、父親の仕事の都合で東京から田舎の中学校に転校して来た野咲春花は、クラスメイトからの壮絶なイジメに遭っていた。
それを知った家族は、春花に学校に行かないようすすめる。
そんなある日、イジメっ子達が春花の家に放火し、春花の両親は焼死。
妹の祥子は辛うじて助かったが、全身に大火傷を負ってしまう。
事件の真相を知った春花は、家族を奪ったイジメっ子達に凄惨な復讐を開始する。
『ミスミソウ』の感想
いじめ問題についてシリアスに取り組んだ作品かと思ったら、ホラー映画だった。
いやでも、これはかなりよかった。
田舎の人たちの非道な本性について
ストーリーは、もうすぐ卒業、って時に田舎の中学校で起きた世にも残酷な悲劇。
いわゆるペキンパー監督の傑作『わらの犬』の現代いじめバージョンである。
田舎の人たちって素朴なようで、何かのきっかけで、例えばそこに異分子をポンと投げ込むだけで、残酷な本性を露呈する。
作家の坂口安吾も、田舎の人たちの裏に隠された非道な精神性をよくその文章で謳っていたっけ。
だから加害者たちも、自分たちのことをある意味、被害者だと思っているのだ。
それまで何の問題もなく皆んなで仲よくやっていた。
都会からの転校生・野咲春花の存在がそれまでのバランスを崩し、皆、陰惨になった。
そこからこの悲劇ははじまる。
ちなみに都会の人たちは都会の人たちで、別の残虐性があるがそれは別の話しである。
人間とはかくも多面的な精神性をもつ存在ということなのだ。
原作の方が良かったところ
映画を見終わって、すぐに原作を読んでみた。
映画と比べると、原作の方が人間が深く細かく描き込まれている。
印象的だったセリフの数々。
例えば「これ、さわらないほうがいいかな」とかも、原作にちゃんとある。
前項で言った、田舎の人たちが異分子の侵入によってバランスを崩壊させる前の日常の描き込みが、この実写映画化には圧倒的に足りないのだ。
この映画、たぶん原作を先に読んでいたらかなり評価が下がったかもしれないなあ。
それにも関わらず、この映画がなかなかの傑作に仕上がっているのは、撮り方とかキャスティングとか演出とか、ひとえにその表現の面白さである。
↓ここから先はネタバレあり↓
キャスティングと、アクション&ホラー演出について
どのシーンを切り取っても美しく残酷で、印象的なシーンは多いが、なかでもクライマックスの膝蹴りにはシビれた。
最高だったのは大塚れな演ずる佐山流美のキャラデザイン。
原作には無い不気味な味わいが出ている。
他にも血だらけのおばあちゃんや、焼け爛れた妹の描写はぎょっとさせられた。
主演の山田杏奈も素晴らしかった。
原作より良くなっているところ
内容的に原作より良くなっていると思うところは、相場が春花に電話で「卒業したら俺も東京に行くから、一緒に住もう」と言うシーン。
ここで原作では春花は「気持ちは嬉しいけど、わたしはおじいちゃんとしょーちゃんと3人で暮らすって決めたから……」と断る。
ところが映画では、春花は「わたしたたぶん東京には行けないと思う」と言い、その理由を聞かれ、「春になったらわかるよ」と答える。
「春になったらわかるよ」とは、春になったら、雪が溶けて、自分が殺した死体が見つかる。
そしたら自分は逮捕されるから、ということなのだろう。
これは「厳しい冬を耐え抜いた後、雪を割るようにして小さな花が咲く」ミスミソウを死体になぞらえているのだ。
そして最後は春花自身がその死体のひとつになり、相場はそれを見て「ミスミソウは野咲そのものだ」と言いながら、カメラのシャッターを押す。
最初は春になったら卒業して、厳しいいじめからも解放される、そんな希望の象徴だったミスミソウが、「死」という悲しい意味での解放の象徴へと転じたことが表現されているのだ。
そんなコンセプトをより残酷なものへと昇華する興味深いアレンジだと思った。
それだけに残念なところ
逆に原作との違いで気に食わないのは、最後に妙子が生き残ること。
残酷なイタリアのオペラみたいに、最後は登場人物全員が死ぬからこそこの物語はきれいに有終の美を飾るのではなかろうか。
ミスミソウが象徴する「苦境に耐えた末におとずれる解放」の意味合いの変化をこれほど見事にアレンジした脚本家が、どうしてこんなミスを犯すのか不思議だ。
(言葉通り本当に解放されちゃう人をひとり作ってどうする)
ひょっとしたら薄っぺらなプロデューサーか誰かに「ラストは少し救いがあった方がいいねえ」なんて言われちゃったのかもしれないね。
それにエンターテイメント的に、この物語はラスボスが3人いるところが面白いと思うんだよな。
評価
大塚れなのキャスティングと見事に決まったみぞおちへの膝蹴りに。
★★★★★
コメント