映画『夢と狂気の王国』宮崎駿とジブリに金、監督のマミちゃんに銀

夢と狂気の王国
出典:imdb
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作品データ

監督:砂田麻美
脚本:砂田麻美
出演:宮崎駿、鈴木敏夫、庵野秀明、高畑勲
音楽:高木正勝
制作:2013年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

『エンディングノート』で話題を呼んだドキュメンタリー映画監督・砂田麻美が、日本のアニメスタジオ「株式会社スタジオジブリ」に密着したドキュメンタリー。アニメ監督の宮崎駿、プロデューサーの鈴木敏夫を中心に、スタジオジブリにおける様々な人間模様を描く。

『夢と狂気の王国』の感想

この作品は『風立ちぬ』の制作期間中に宮崎駿とジブリを追ったもの。
宮崎駿のドキュメンタリーというと、NHKなどでこれまでもよく見てきた。
それらと比べてこの作品はどうなのか、ちゃんとテレビのドキュメンタリー番組のスケールを超えて、「映画」になっているのか、という点がどうしてもポイントになる。

夢と狂気の王国

出典:imdb

監督は砂田麻美さんという、日本のドキュメンタリー映画の新鋭。
さすが、これまでテレビ番組として制作されたものと比べると、映画っぽいまとまり、メッセージ性、高度な抽象性などは、かなり見応えがある。

私がこの映画で個人的に好きなのは、庵野秀明の存在感。
彼とジブリ勢との和やかな関係性がほほえましくて、庵野秀明の姿や名前が出てくるたびに心にやすらぎをおぼえた。
その庵野秀明が「宮さん、もう1本くらい撮りそうですね」と言っていたが、彼の予想通り2018年1月、宮崎駿は引退を撤回し、長編映画の制作発表をした。
さすが庵野さんの見通しは正確である。

庵野秀明が二郎の声をやることになった経緯も興味深かった。

私は演技・演出というものには「感情ベース」と「キャラクターベース」の2通りの着地地点があると思っていて、日本映画は概ね「感情ベース」、欧米の映画は「キャラクターベース」が基本になっていると感じてる。
そして演技・演出の発達レベルでいえば「感情ベース」より「キャラクターベース」の方が高度な境地といえる。
この点が、邦画が欧米の映画に遅れをとっているところのもののひとつであることは疑いがない。
観客も日本では「感情ベース」で演技や演出を評価する傾向があるから、庵野秀明の抑揚の少ないしゃべりかたをして「セリフ棒読み」だの「演技ヘタ」だの、愚にもつかない批評をする人が後を絶たない。
だからこそ、『風立ちぬ』の庵野秀明の声の良さがわからないやつは、この『夢と狂気の王国』をよく見るべきなのだ。
庵野秀明をキャスティングすることにより、プロの声優には出せないリアリティと人物造形が実現されていたことがわかるだろう。
ジブリのキャスティング・センスが邦画のレベルをはるかに超越している事象のひとつだと思う。

庵野秀明だけでなく、私が宮崎駿と同じくらい敬愛する高畑監督の存在にもしっかりスポットが当たっていたところもよかった。
彼の存在無くして「王国」の全貌は語れまい。

斯様に、この映画はとてもいい映画なのだが、ここで最初の疑問に立ち戻ろう。
この映画はテレビのドキュメンタリー番組と比べて、ちゃんと「映画」になっていたか。

率直にいうと、可もなく不可もなく、なのである。

この映画がこれだけ胸にググッとくるのは、やはりジブリという会社の創造性に満ちた社風と、宮崎駿の強烈な個性によるものが大きいのだ。
その核の部分に注目すると、これまでのテレビ番組として制作されたものとそれほど印象は変わらなかったりする。

夢と狂気の王国

出典:imdb

タイトルにある「夢と狂気の王国」とは言い得て妙で、まさにジブリって、宮崎駿の創造空間って、そんな感じのところだと思う。
この映画はそんなジブリの、宮崎駿の、「夢」と「狂気」をどこまで引き出して、フィルムに焼き付けたのか?
そうやって考えちゃうと、やっぱりこれまでのNHKドキュメンタリーも、この映画と同じくらいの「夢」と「狂気」はしっかり確認できたと思う。

宮崎駿のメイキングというと、私はやはりポニョのNHKドキュメンタリー『ポニョはこうして生まれた。~宮崎駿の思考過程~』の、12時間半もの長尺に渡って、荒川ディレクターが自らの未熟さやテーマの喪失にもがき苦しみながらひたすら喰らいつくように宮崎駿の後ろ姿を追った迷作のインパクトが強い。
あれと比べると、この『夢と狂気の王国』はどこかスマートでキレイに仕上がっているなあという印象。
そう考えると、ポニョのメイキングの方が「夢」はともかく、「狂気」という点でははるかに優っていたと言えないこともない。

私はこの『夢と狂気の王国』はかなり気に入ったけど、それはドキュメンタリー映画としてのクオリティというよりは、ジブリのおもしろさ、宮崎駿のおもしろさによっている。

まあ、監督の功績はジブリと宮崎駿の個性の前に霞んでしまってはいるものの、この映画がとても素晴らしい作品であることは疑いのない事実である。

私はまだ1回しか見ていないが、きっと何度も繰り返し見るほど味が出てくるドキュメンタリー映画だと思う。
その「味わい」の部分だけはものの見事に監督の力量によるものだ。

評価

誰の功績だろうと、いい映画はいい映画ということで。
★★★★

Good Movie 認定

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