作品データ
原題:Cast Away
監督:ロバート・ゼメキス
脚本:ウィリアム・ブロイルズ・ジュニア
出演:トム・ハンクス、ヘレン・ハント
制作:2000年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
フェデックスのシステムエンジニア、チャックは効率と生産性を上げるため、分刻みの時間にこだわり、世界中を飛び回っていた。親族とすごすクリスマスパーティーの最中、マレーシアでのトラブル解決のため呼び出され、チャックは恋人のケリーに「大晦日までには戻ってくる」と約束し、貨物機で出発する。ところがチャックの乗った機は悪天候で太平洋に墜落してしまう。なんとか救命ボートにしがみ付いて嵐に耐えたチャックは、とある島に漂着する。そこは動物すらもいない無人島であった。
『キャスト・アウェイ』の感想
無人島もので、運送会社のエンジニアが飛行機の墜落で無人島に流れつき、そこでサバイバル生活を送る、というお話し。
ちょうどこないだテレビドラマ『LOST』のファイナルシーズンを見終わったので、光景が重なってみえた。
私は映画を見ていて、好みの映画と好みじゃない映画との境目を示すひとつの道しるべとして、登場人物の「生活」いわゆる「衣食住」がしっかり描かれているか、という点がある。
つまり登場人物が単なるストーリーを前に進めるための駒でしかないのか、ちゃんとそこに生きた人間の生活(日常と言い換えてもいい)が書き込まれているのか。
それが引いては映画の世界観に没入できるかの重要な要素になってくるのだ。
これは言葉を変えると、ストーリーに関係ない無駄なシーンがどれだけ効果的に流れに組み込まれているか、ということとも言える。
私が宮崎駿やタランティーノの映画が好きなのはそういう登場人物の生活・日常・衣食住がしっかり描かれているからであり、そういうのがおざなりな映画は苦手で、よほど“物語”がいい場合は別として、ちょっと評価が下がる。
とくに無人島ものなんてのはまさにその部分がすべてだと思うから、どうしてもそこが映画の評価の分かれ道になりがちである。
さて、この『キャスト・アウェイ』はどうだったかというと、残念ながら「不合格」の烙印を押さざるを得ない不満足な出来であった。
主人公の島での生活・日常・衣食住の描き方が圧倒的に足りない。
ようするに無駄なシーンがひとつも見当たらないのだ。
それでいてストーリーはおもしろいかというと、それもイマイチ。
いわゆる無人島でのサバイバルが全体の骨子で、ひたすら無人島で生き抜いてゆく男の姿を描写している部分が大半なのである。
ストーリー部分はそんな島でのサバイバル生活の陰に隠れてぼやけてしまっている。
それでいて、島での生活描写はそのうすらボケたストーリーラインにこびりつくように断片的に描かれているだけ。
だから私にはポイントの定まらないモヤっとした映画に見えるのだ。
要するに、ストーリー主体の作りかたで、男の島での「生活」をひたすら描く内容だから、バランスが悪いのである。
伏線の部分をもうちょっと前面に出してくれたらおもしろくなったんじゃなかろうかと思う。
↓ここから先はネタバレあり↓
例えば主人公は運送会社の社員だから、無人島に流れ着いてまず最初にやることが、飛行機に積んであった積荷を拾い集めること。
そして島をあちこち探索したり、住居を組み立てたりしても、積荷だけは大事に封を開けずにとっておく。
運送会社で働く男のプライドである。
しかし日数が経ち、飢えと生活の基盤に苦しんで、ついに男は羽のロゴの入った積荷だけを残して、残りをすべて開封してしまう。
この開封した積荷の中身がその後、数年間にわたる男の無人島生活を助けることになる。
また、運送会社のエンジニアとしてのプライドを唯一繋ぎ止めてくれた、ただひとつだけ開封しなかった積荷が、さらにラストへの伏線へと成長してゆく。
このくだりなんか、日数を置いて積荷をひとつひとつ開けてゆき、最後のひとつはどうしても開けられなかった、みたいな流れにしてくれたらもっとよかったんじゃないだろうか。
なんでダイジェストみたいなカット割でその場でひとつだけ残して一気に開封するんだろう。
これらの伏線部分がもっと輪郭をはっきりさせているか、もしくは島での生活・日常をもっとじっくり描いてくれるかしたら、私の気にいる映画になったと思う。
一見ストーリーにまったく関係ないみたいなシーンを入れてゆくのも、映画制作のテクニックのひとつだと思う。
ゼメキス映画の脚本はいつも、黒澤明の映画みたいに、すべての要素が緻密に関連しあっていて、スキマの部分がないのだ。
それが「無人島映画」には致命的に働いてしまったような気がする。
あと、アメリカに帰ってからの下りはもう話しにならない。
帰ってきた男の前に現れたのは、恋人ではなくて現在の旦那。
「あなたの元恋人は混乱しているから、どうしても会えない」
とかなんとか言うのだが、なんてことない、「会わないほうがいい」と元恋人を止めているのはその現在の旦那本人なのだ。
その後に再会した元恋人が、「わたしは絶対にあなたは生きてると思っていたんだけど、彼は死んだんだ、もう諦めたほうがいい、ってみんなに言われたの」などと言っていたが、その「みんな」代表が現在の旦那だってことは明らかである。
恋人を失って心細くなっている女の気持ちにつけ入るようなクソ男のやりそうなことだ。
とにかく主人公がアメリカに帰ってからは元恋人の旦那がクソすぎて虚しい。
私はこの映画、ぜんぜん気に入らなかったが、当時はかなりのヒットだったみたいで、アメリカの人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』でこの映画のパロディ・コントがあった。
映画本編よりよっぽどこちらの方がおもしろかったので、ちょっと貼ってみよう。
バスケットボールのウイルソンがゲストで、「オレとカメとのセックスシーンがあったのに、トム・ハンクスの野郎がゼメキスに耳うちしてカットさせやがったんだ」とか言っていて笑える。
コントの後半ではサプライズですごいゲストが出てくる。
ちなみにこの映画にはバスケットボール・メーカーの「ウィルソン」とか、運送会社「フェデックス」などの、実際の企業名がちゃんと使われている。
映画にリアリティを持たせるためには架空の会社名より実在のものを使ったほうがいいのは当たり前だ。
各企業から名前を使う権利料を払ったのか、逆に宣伝料をもらったのかは知らないが、この間違いだらけの映画の中で、数少ない正しい判断だったと言える。
ゼメキス×ハンクス・コンビの映画としては、『フォレスト・ガンプ』などとは比べようもない凡作だった。
評価
引用したコントは★★★★★
映画本編は……
★★★★★
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