数回に分けてクエンティン・タランティーノの処女作『マイ・ベスト・フレンズ・バースデー』の内容を、36分の未完成映像を中心に、脚本で補完しながら徹底解説するシリーズ。
今回はその第1回目です。
初めての方はこちらの解説文をお読みください。
【欠落シーン】前口上
まずタランティーノの脚本の冒頭には前口上みたいな、こんな一文があります。
この物語の舞台はカリフォルニア州のトーランス。
トーランスでは、ほとんど事件らしい事件が起きたことがない。
ただ、たまに最悪の夜を過ごす奴がいるくらいだ。
簡潔に映画の内容を言い表したキャッチ文みたいですね。
『パルプ・フィクション』の冒頭にあった「pulp」の定義みたいに、映画の冒頭に表示するつもりだったのかもしれません。
【欠落シーン】クラレンスのラジオ
ミッキーは車を走らせながら、親友クラレンスのラジオを聴いています。
ラジオからはクラレンスのこんなメッセージが・・・
やあ、みんな。今日は俺の親友ミッキーの30歳の誕生日なんだ。だから今から30分ノンストップでミッキーに捧げるロックを流すぜ
これを聴いたミッキーは喜びながらも
俺の誕生日は明日だぜ。それから公共の電波で俺の年齢をバラすのはやめてくれよ
と苦笑い。
曲を聴かずにラジオを切っちゃいます。
【本編シーン】レニー・オーティスのインタビュー 00:00
ここが映画本編の冒頭です。
クラレンスのラジオにエディ・コクラン・ファンクラブの会長レニー・オーティスという人がゲストで登場します。
そこでの会話。
クラレンス「エディ・コクランが死んだ日を覚えているか?」
レニー「日にちのことか? それともその日の記憶があるって話しかい?」
クラレンス「その日のことを、って意味だ」
レニー「1歳だったから覚えてないな」
クラレンス「俺は3歳だったけど、昨日のことのように覚えているよ。あまりのことで、わけもわからず、落ち込んだ。黒い雲が頭の中にかかったみたいだった。マジで自殺しようと思った。風呂にお湯をはって、手首を切るところまでいったんだ。3歳の子供がそこまでやろうとするなんて、よっぽど最悪な気持ちだったんだな。なんで助かったかわかるかい? テレビドラマの『パートリッジ・ファミリー』だよ。『パートリッジ・ファミリー』が放送されるところだったんだ。どうしても続きが見たくてね。見た後で、自殺しようと思った。で、見たら、それが最高に面白いエピソードだったのさ。ダニーがモブの奥さんに絡まれる話しでね。そしたら死ぬ気がなくなっちまった。助かったよ。・・・えっと、何の話しだっけ?」
【本編シーン】ラジオ局の受付シーン 01:13
ここは脚本では、さっきまで車を運転していたミッキーがラジオ局に到着し、受付のメグという女の子に電話番を頼まれて、ミッキーが受付に座っている、ということになっています。
しかし本編では、このシーンにはミッキーは登場しません。
そのかわり、ラジオ局の受付にはナツメグという名前の別の男が座っています。
そこにやってきたのが、別のDJのクランシーという男。
クランシーはナツメグにイタズラでニンニク味のガムを渡します。
ナツメグは渡されたそのガムがニンニク味だと知らずに口に入れ、思わずグランマ・マミ(Grandma Mohmmi)という名前の重要クライアントと電話中だったのにも関わらず、叫び声を上げてガムを吐き出します。
それを見たクランシーは笑いながら、前の晩に友達のジェリーとドラッグでハイになって、ギフトショップ(Novelty shop)で150ドル分のジョーク・グッズを買ってきたこと、そのなかのイッチング・パウダー(触ると痒くなる粉)を使って後でクラレンスにイタズラしてやるつもりだということを話します。
【本編シーン】クラレンスのラジオ放送 04:09
ラジオの本番中、相変わらずゲストにしゃべらせない、クラレンス(タランティーノ)のトークが続いています。
ゲストにしゃべらせないだけでなく、番組にかかってきたリクエストの電話もこんな風にあしらいます。
クラレンス「悪い、ウチはリクエスト受け付けてないんだ。なんでかって? DJは俺だ。俺がかけたい曲をかけたい時にかけるんだ。いつかお前がDJになって、好きな曲をかければいいじゃねえかよ。お前が俺くらい耳が肥えてればの話しだけどな、ハハハハハッ! ああ!? アンルーリー・ジューリーが何かけてるかなんて俺の知ったこっちゃねえよ! じゃあアンルーリー・ジューリーを聴いてりゃいいじゃねえかよ、このマザコンのホモ野郎!」
【本編シーン】ラジオブースにクランシーがやってくる 05:50
曲がかかっている間に、ラジオブースにクランシーがやってきます。
タランティーノの脚本では、このシーンはクランシーからイッチング・パウダーを取り上げたミッキーがやってくるのですが、本編の映画では最初からミッキーはラジオ局に来ていないので、この役割はクランシーにふられています。
クランシーはクラレンスに「昨晩ハイになって遊んできた。そのお土産を持ってきたぜ」と言って、白い粉を渡します。
それを見たクラレンスは、当然、それがコカインだと思います。
受付から「女の子から電話がかかってきた」と連絡を受けて、クランシーが慌てて出ていきます。
クラレンスはクランシーからもらったイッチング・パウダーをコカインのようにテーブルの上に出して、ストローで鼻から吸います。
そして曲が終わり、再びラジオの本番が始まります。
ゲストのレニーがしゃべっている最中、クラレンスの様子が少しづつおかしくなってきます。
ここで一回、シーンはラジオ局の受付で女の子と電話でしゃべっているクランシーに変わります。
【本編シーン】クラレンスがおかしくなってくる 08:02
ラジオブースでは、相変わらずゲストのレニーがしゃべっています。
その横で、クラレンスが鼻をおさえながら、どんどんおかしくなっていきます。
コカインだと思って鼻からイッチング・パウダーを吸ってしまったんですから、当然ですね。
(『パルプ・フィクション』を思わせるシーンです)
ここでまたラジオ局の受付にカットが変わり、また電話で女の子としゃべっているクランシーが映し出されます。
電話に夢中のクランシーに、ナツメグがニンニク味のガムを渡します。さっきの復讐ですね。
復讐は成功し、クランシーは思わずガムを吐き出し、大事な女の子との電話中に、思わず下品な言葉を叫んでしまいます。
【本編シーン】クラレンスがパニックに 08:49
ついに我慢できなくなったクラレンスがラジオの本番中に絶叫しはじめます。
そこにクランシーがやってきて、悶え苦しんでいるクラレンスを見て「どうした?」と尋ねます。
それに対して、レニーはクランシーに、「お前がくれたコカインを吸って・・・」と説明をしはじめます。
ラジオの放送中なので、クランシーは慌ててマイクを押さえます。
時すでに遅し、「コカインを吸って・・・」発言は放送で流れてしまい、それを受付で聴いていたナツメグは思わずコーヒーを口から吹き出します。
タランティーノの脚本ではこのシーンにはラジオ局の社長もいて、クランシーとミッキーはその場でラジオのDJをクビになります。
クラレンスが水をかぶって鼻の穴を洗っているカットでこのシーンは終わりです。
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