作品データ
原題:The Irishman
監督:マーティン・スコセッシ
原作:チャールズ・ブラント
脚本:スティーヴン・ザイリアン
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、レイ・ロマーノ、ボビー・カナヴェイル、アンナ・パキン、スティーヴン・グレアム、ハーヴェイ・カイテル
音楽:ロビー・ロバートソン
制作:2019年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
今は老人ホームで過ごす車椅子の老人フランク・シーランが、マフィアの殺し屋として自身が関わった1950年代から80年代のアメリカの裏社会を回想する。
『アイリッシュマン』の感想
俳優の仕事とCG技術の発達について
実話を元にしたマフィア映画。
『グッドフェローズ』の内容に政治色を加え、メンツにアル・パチーノを加えた感じの内容。
トラック運転手からマフィアの殺し屋、そして当時は大統領に次ぐ人気者だったというアメリカの政治家ジミー・ホッファのボディーガードにまでのしあがった、フランク・シーランという実在の人物の半生を描いた超大作。
シーランをデ・ニーロが演じ、ホッファをパチーノが演じている。
この映画ですごいのは、老人になったロバート・デ・ニーロ(75歳)、アル・パチーノ(78歳)、ジョー・ペシ(75歳)が、CGの力を借りて、20歳くらいの若さから80歳の老齢までを演じ続けている点である。
前に見た岩井俊二の『花とアリス殺人事件』のような映画が、これからはCGのおかげで、アニメにするような工夫をしなくても実現できる時代になったということだ。
きっとこれからの映画はどんどんこういう技術が使われてゆくのだな。
デ・ニーロと言えばこれまでも、役柄に合わせて減量したり太ったり、ハゲになったり、ニューヨークのタクシーの運転手になったり、徹底したリアリティを追求する役者だった。
それがCGによってこれほどまでに高度な役作りが実現できるようになったとは、デ・ニーロのようなタイプの役者にとって、仕事がやりやすくなったと言える。
しかしその反面、こうして俳優の仕事は科学技術にとって代わられてゆくのだ。
果ては、その原型となる俳優そのものも、技術にとって代われれる時代がくるのかもしれない。
いつかは、そこらへんの平凡なオッサンが、技術の力でロバートデ・ニーロになれる時代になる。
果てはデ・ニーロが死んだ後の未来でも、ロバート・デ・ニーロの新作が作られるようになっているに違いない。
いや、今だって、やろうと思えばそれくらいの技術はもうあるのだ。
そんな禁断の扉を演技の達人であるデ・ニーロが率先して開いてみせる、それを画期的と言わずして何であろう。
アメリカ政治の腐敗とリアリティについて
そんな感じで、この映画の前半は、映画の内容そっちのけで、映像技術の発達にしみじみ感動していた。
しかしこの映画、内容もなかなか素晴らしい。
私は最近、アメリカの政治を勉強してゆくにつれ、まったくもって、あちらの政治家って、ほとんどマフィアと変わらんな、と思うようになっていた。
この映画の内容はまさしくそんな最近の私の頭を支配していた概念をまんま具現化するような内容である。
この映画に出てくるホッファなんてモロに裏社会とのつながりが取り沙汰されて、こうして映画になっているが、ホッファなんて氷山の一角でしかない。
その点で、この映画が描いたリアリティは覚醒前の一般市民にとってはいい勉強になるだろう。
シーランとホッファの友情と裏切りのドラマもよかったが、あれは所詮映画としての落としどころである。
心に焼きつけるべきはアメリカ社会が抱える腐敗構造なのだ。
そしてそんな腐敗を巧みなドラマ性で美化してオブラートに包むのが、このような映画のプロパガンダ的な役割なのだと言える。
リアリティと言えば、ストーリーの途中で「アンジェロ・ブルーノ 自宅前の車中で頭部を撃たれる 1980年」みたいな感じで、いちいちテロップが入るところが興味深い。
前に同じスコセッシ監督の『グッドフェローズ』にも名前が出てくる元マフィア幹部がリアルのインタビューで、「マフィアはほとんどが殺されるか刑務所に入って終身刑になるかで、長生きするマフィアは少ない」と言っていたが、その情報を地でいくテロップだと思った。
評価
映画の感想をほとんど書かなかったが、とにかく、とても面白くていい映画です。
★★★★★
原作本
アイリッシュマン 上巻(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
アイリッシュマン 下巻(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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