ドラマ『極悪女王』の感想 – ダンプ松本とクラッシュ・ギャルズのリアルな戦いを映像化

極悪女王
出典:imdb
この記事は約5分で読めます。

作品データ

総監督:白石和彌
監督:白石和彌、茂木克仁
脚本:鈴木おさむ、池上純哉
出演:ゆりやんレトリィバァ、剛力彩芽、唐田えりか、仙道敦子、斎藤工、村上淳
制作:2024年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

1980年代、日本中を熱狂させた女子プロレス界を舞台に、悪役レスラーとして伝説的な人気を誇ったダンプ松本の半生を描く。
いじめや挫折を経験しながらもプロレスの世界に飛び込んだ松本は、やがて観客から憎まれる「極悪レスラー」としてスターになっていく。
華やかな女子プロレスブームの裏側で繰り広げられる友情、競争、葛藤を通して、一人の女性が“悪役の女王”へと変貌していく姿を描く。

『極悪女王』の感想

リアリティは合格点

こういう伝記ドラマは現実のキャラクターたちの特徴をどれだけ捉えられてるか、本人に似ているか、それが作品の出来不出来に大きく問われる要素となる。
その点で、冒頭のジャッキー佐藤の存在はデカかった。
ジャッキー佐藤がなかなか似てるので、すぐドラマに入っていけた。
その後は多少なりともおかしな点があっても、まあいっか、と思えた。

ジャッキー佐藤だけじゃない。
ダンプ松本も長与千種も、顔や仕草だけでなく、後ろ姿からも伝わる空気感、佇まいまで本人を感じた。

俳優さんたちの役作りに加えて試合シーンの素晴らしさ。
このドラマで扱われている実際の試合をYouTubeで見ると、その再現性の高さに驚かされる。
プロレスファン歴40年以上、女子プロレスを見るようになって30年以上の私から見ても、かなり納得のいく出来栄えだと思った。

例えば、実際にプロレス観戦をするとわかるが、場外乱闘をしていた選手がリングに戻ると、観客は拍手をする。
ドラマで、長与千種とライオネス飛鳥が場外乱闘をして、リングに戻る場面がある。
私はドラマを見ながら「はい、そこで観客が拍手」と頭に思い浮かべると、このドラマのカメラは本当に客席を映して拍手をするショットを入れてくれる。
「わかってるじゃん」と頷く私。

極悪女王

出典:imdb

試合の迫力も合格点。
かつて月に5回くらい試合会場に足を運んでプロレスを観戦をしていた私から見ても、このドラマのプロレスシーンの迫力は遜色なかった。
もちろん女優さんたちにプロ並みの試合をさせることは不可能だが、カメラワークやカット割りなどのテクニックで、実際の試合の臨場感を再現することに成功しているのだ。
もちろん、痛い思いをして頑張った女優さんたちの並々ならぬ努力は忘れてはならない。

そう、このカメラワークやカット割りによる映像演出が、試合シーンの迫力をリアルに盛り上げてる点を私は特筆したい。

リアルとフェイクの間(はざま)で

プロレスは普通のスポーツや格闘技と違い、ショー的な要素が強く、時にはシナリオがあったり、過度な演出があったりする。
いわゆるプロレスとは、格闘技と演劇の両方の要素を兼ね備えたエンターテイメントである、という解釈が成立する。
この演劇的な演出の部分を「映像演出」に変換したのが、このドラマなのだ。

プロレスはショーでもあり、同時にリアルなドラマでもある。
ショーの中のリアルさ、リアルを盛り上げる演出要素。
それをこういう形でドラマとして見事に昇華した例は、考えてみたら今までなかったかもしれない。

ドラマの中では描かれていなかったことで、ブル中野さんが自身のYouTubeチャンネルで言っていたのだが、松永兄弟は戦う選手どうしを別々に呼び出し、「あいつがお前のことをぶっ飛ばすって言ってたぞ」「あいつがお前の顔を見るとムカつくって言ってたぞ」みたいにウソをついて煽って、本当にお互いの選手を憎み合わせてから、試合のカードを組んで戦わせる、という、とんでもないことをやっていたんだそうだ。

極悪女王

出典:imdb

ドラマでは父親の横暴についにキレて、松本香が「ダンプ松本」として覚醒し、先に人気が出た千種を血みどろにする、というドラマ演出がされていた。
しかしリアルは、フロントのエゴがからまった、もっとえげつない演出が裏にあったのだ。

どちらにしろ、リングの上でのダンプ松本と長与千種は、本当に憎み合い、潰し合っていたのである。

ダンプ松本が長与千種を血みどろにぶちのめした後、二人がまだ仲良かった練習生の頃を思い出す回想がフラッシュバックするのは、これは間違いなく演出が裏にあるプロレスのリアルであり、そのリアルが演出によって映像に昇華された瞬間なのだと思う。

この複雑な多重構造がこのドラマを傑作たらしめている所以と言えないだろうか。

『極悪女王』の“前作”『ビューティ・ペア 真赤な青春』

ビューティ・ペア 真赤な青春

出典:amazon

さて、このドラマを見終わった後、余韻もさめやらず、映画『ビューティ・ペア 真赤な青春』を見てみた。

なんとなく『極悪女王』にリンクするものを感じた。
女学生だった時のジャッキー佐藤が、男子と喧嘩しているところを当時ののスター女子プロレラーだった赤城マリ子に助けられ、女子プロレスラーを目指して家出をする。
そのジャッキー佐藤が努力してスターになり、それが後に『極悪女王』の主役たちの世代につながってゆく。

まさに『極悪女王ゼロ』とも言えるべき映画なのだった。

次回作に期待するもの

工藤めぐみ

邪道姫・工藤めぐみ
(出典:amazon

このドラマがかなり評判がいいので、次回作を熱望する声をちらほらネットで読んだ。
そのほとんどが、「次はブル中野を主人公で」と言っているのだが、いやいや、私はそれとは異なる意見を持つ者だ。

次回作はぜひ、同じ制作スタッフで、工藤めぐみの伝記ドラマを制作してもらいたい。

第3次女子プロレスブームのきっかけを作ったにも関わらず、惜しくもブームの中心は北斗晶やブル中野に譲り、女子でFMWのメインに立つことを目標にしつつ、あくまでも自分はプロレスの邪道を突き進み、女子で初めての電流爆破デスマッチを開催。
その特殊な経歴から「邪道姫」と謳われた。
こんなすごい経歴を持つ工藤めぐみなら、スゴいドラマが出来ること間違いなしだ。

〝極悪女王〟の次は〝邪道姫〟というのも、しっくりくる。

Netflixさん、お願いしますよ。

評価

演出とリアルの多重構造
★★★★★

Good Movie 認定

【関連記事】こちらの記事もぜひどうぞ。

『がむしゃら 完全版』の感想 - 終わらないプロレスラー・安川惡斗の、終わっていないドキュメンタリー映画
安川祐香、または女優・安川結花、あるいはプロレスラー・安川惡斗の半生を追った、ドキュメンタリー作品。もう言いたいことありすぎて、長い文章になっちゃった。映画の良し悪し関係なく、この映画には何とも言えない気持ちを捨てられない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました