映画『スカーフェイス』の感想 – 人生の学び舎

スカーフェイス
出典:imdb
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作品データ

原題:Scarface
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:オリバー・ストーン
出演:アル・パチーノ、ミシェル・ファイファー、F・マーリー・エイブラハム
音楽:ジョルジオ・モロダー
制作:1983年、アメリカ

あらすじ(ネタバレなし)

1980年、キューバ移民のトニー・モンタナは、マイアミの麻薬王フランク・ロペスの依頼で元キューバ政府職員レベンガを暗殺し、その報酬としてグリーンカードを得る。その後、コロンビア人のコカイン・ディーラーとの危ない駆け引きをうまく切り抜けたことでフランクに認められたトニーは、ボリビアの麻薬王ソーサとの取引を任される。そこでフランクの意向を無視して勝手に巨大な取引を進めたトニーは、憤慨するフランクから独立し、新たなマイアミの麻薬王として君臨してゆく。

『スカーフェイス』の感想

この映画がもう名作で傑作であるのは動かない事実として、この映画が素晴らしいのは、単におもしろいとか感動するとか、それだけのことじゃない。
この映画は人生の教科書のような映画でもあるのだ。

主人公のトニー・モンタナの生き様から学べるものははかりしれない。
とにに志を高くもつ若者がこの映画から得られる教訓は貴重である。

例えば、前半のトニーがどんどん偉くなってゆくところ。
トニーはマフィアのボスのロペスについて、「あんなやつ、大したことない。俺の方がスゴい」と思っている。
それに対してロペスは、トニーをして「あんなのは所詮ケチなチンピラだ。盾にでも使っておけ」と側近に言いはなつ。

つまり下は上を舐めてかかり、上は下を見くびっているのだ。
このくだりだけみても、上が下を見くびると命とりになるが、これからのし上がろうとする下っ端の人間にとって、多少の無鉄砲さや向こう見ずさは勢いになるということがよくわかる。
よく夢を実現するためには勘違いも大切、なんてことをよく聞くが、そのケースを地でいっているのがトニーの生き様なのだ。

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これから出世しようとする人、もしくは現在、上の立場で下を管理している人は、この人間模様をよく肝に命じておくといい。

そういえば私も過去に勤めていた会社でミスが発生して、社長に「どうせお前のせいだろ」みたいなことを言われ(もちろん謂れなき疑いだったわけだが)、速攻で顧客かかえて独立して自分で会社を立ち上げ反旗を翻したという経験がある(ちなみにそのバカ社長の会社は数年後、潰れた)。

もうひとつ。

トニーが暗殺されそうになり、命からがら逃げ出してロペスの事務所に復讐にやってくるところ。
このとき、ロペスの事務所にはロペス本人と、その側近のアーニー、そして刑事がいた。
ここでトニーが誰を殺して、誰を生かすのか、その驚くべき選択にも教訓があった。

↓ここから先はネタバレあり↓

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凡人はあそこで刑事を殺したりなんかしない。
「Fuck! You can’t shoot a cop!」と撃たれた刑事本人も驚きを隠せなかったではないか。
また、ロペスの側近のアーニーを生かすことにより、アーニーはいっぺんにトニーに心酔し、最後の最後までトニーを裏切ることはない。

ようするに、トニーは信頼と人情で動く人間で、世間的なモラルや打算で動いてはいないのだ。
だから彼はトップに立てたのだし、また同じ理由で、彼はトップから転がり落ちたのである。

トニーを見ていると、必ずしものし上がる才能と、トップを維持する才能は一致しないということがよくわかる。
織田信長の例を持ち出すまでもなく、私は実生活でも、トニーのような義理と人情で動く人間が、怒涛の勢いでトップまでのぼりつめ、その性格が災いして、トップから転がり落ちた例をいくつか知っている。
また、ころげ落ちた後でふたたびトップにのぼりつめ、少し性格が改善されてそのままトップを維持し続けることに成功した例も知っている。
高い志をもつ人間はいかにのし上がってゆけるのか、トップに立ったらどう身のふるまいを変えるべきなのか、それもこの映画から学べる教訓のひとつだといえる。

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ちなみに最後のほう、トニーはかなり性格が破綻してしまうが、あれは明らかにコカインのせいだろう。
コカインをやりすぎると、眠れなくなり、頭はいっけん冴えたようになるが、寝不足は脳の働きに大きな負担をあたえ、いやに怒りっぽくなったり、疑り深くなったり、しょっちゅう判断を間違えたりするようになる。
ドラッグの怖いところって、本人の健康を蝕むのはもちろんのこと、こんな感じに早い時期に人間性が壊れてきて、本人の気づかないうちに人が離れてゆく、というところにもあるよな。
これも教訓のひとつだ。

キャストも素晴らしい。

アル・パチーノといえばこの映画のキャラクターを思い浮かべる、という人も多いくらい、この映画の彼はトニーそのものに成りきっている。
ドラッグ売買で殿様商売やってるようなキャラに対して「アル・パチーノ気取ってんじゃねえよ」というのは映画の定番セリフだ。

また、紅一点のミッシェル・ファイファーの自然な演技がかなり高度。
この映画の前半、彼女はほとんどのカットで無表情なのに、なぜかとても感情豊かに見える。
ときおり見せるちょっとしたしぐさや、表情の微妙な変化によって、サングラスの向こうに隠された心の動きを、観客は無意識に想像で埋め合わせてしまうように演出されているのだ。
このミッシェル・ファイファーの演出ひとつとっても、デパルマが単にカメラをぶんぶん振り回しているだけの監督じゃないってことがよくわかる。

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評価

理屈ぬきにおもしろく、味わい深く、最後はもの悲しく、人生の学びにもなる、素晴らしい映画。
★★★★★

Good Movie 認定


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