映画『万引き家族』の感想 – 神の正義のアンチテーゼ – あくまでも日本的な

万引き家族
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作品データ

監督:是枝裕和
原案:是枝裕和
脚本:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
音楽:細野晴臣
制作:2018年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

東京の下町に暮らす柴田治と、その妻・信代は息子の祥太、信代の妹の亜紀、そして治の母の初枝と同居していた。

家族は治と信代の給料に加え、初枝の年金と、治と祥太が親子で手がける万引きで生計を立てていた。

5人は社会の底辺で暮らしながらも、いつも笑顔が絶えなかった。

ある冬の日、治は近所の団地の1階にあるバルコニー状の外廊下で、ひとりの幼い女の子が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰る。

『万引き家族』の感想

万引きの役割とは

疑似家族、つまり血のつながりのない人たちが家族としてつながり、助け合って生きている様子が描かれている。

ここに私は日本人ならではの精神性を見出す。

親から虐待されていた少女を街でひろい、家族として迎え入れるのも、助け合いの精神だと言える。

彼らの基準は、あくまでも日本的な、和の精神なのだ。

この世には神様がいて、そこには神様が定めた絶対的な正義と悪がある。
法律やモノゴトのルールはその神から与えられた善悪の基準に基づいて決められている。
それが西洋の基準。

しかるに日本の和の精神とは、何か問題があっても話し合って、その場にいる人たち全員がなんとなく納得できて、気持ちよく過ごせればそれが何よりだよね、という考え方。

いわゆる、和の精神と神の正義は時には相反するものとなりうるのである。
だから彼らは万引きをするかもしれない。

この映画において、万引きとは、「神の正義」のアンチテーゼなのである。

「お店に売っているものはまだ誰のものでもない」という理屈など、それがよく表れている。
子供の抜けた歯を屋根の上に投げるところなども、この映画が“日本的なもの”を意識して作られているのが伺える。

この映画を「犯罪を美化している」などと言って批判する人がいるようだが、それは芸術をわかっていない証拠だ。
すべてのモノゴトが善と悪の二元論でスッキリ割り切れて片付くと思っていたら大間違い。
世界は抽象性に満ちているものであり、それを学べるのが芸術の素晴らしいところなのである。

↓ここから先はネタバレあり↓

万引き家族

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寅さんとの共通点と、相違点

最後、子供は逮捕され、家族はバラバラになる。
嘘の家族が離ればなれになり、一部は本当の家族のもとに戻ろうとする。

この映画、よく韓国映画の『パラサイト』と比較されるが、実はコンセプトから構成まで、『男はつらいよ 寅次郎物語』とそっくりなのだ。

『男はつらいよ 寅次郎物語』では、死んだ友達の息子を連れて旅に出た寅さんが、旅先で秋吉久美子と出会い、子供の病気をきっかけに、擬似家族のような状態になる。
そして最後に子供は本当の家族の元へと収まってめでたしめでたし、となる。

この『男はつらいよ 寅次郎物語』のラストはしっかり腑に落ちるのに対して、この『万引き家族』の場合、最後に擬似家族がバラバラになるところは同じなんだけれども、決して腑に落ちるところに収まらない。

そこはちょっと現代社会のシステムの柔軟性の欠如というか、日本的なものが収まるべきところに収まりきらないもどかしさみたいなものを感じた。

まとめ

まあ、そんな感じで、この映画が描いているテーマ的なものはいいと思う。

しかしぶっちゃけ、私にはこの映画、全体的にじめじめして見ていて不快だったし、最後の30分以外はずっと退屈しっぱなしでつまらなかった。

韓国映画『パラサイト』や日本映画『男はつらいよ 寅次郎物語』の面白さとは比べようもない。

評価

ぜんぜん面白くなかったけど、描いているテーマの価値は認めるので、この評価。
★★★★★


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