アニメ『PLUTO』の感想 – 完全なロボットと理想のロボットは同じなのか

アニメ『PLUTO』の感想
出典:imdb
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作品データ

監督:河口俊夫
原作:浦沢直樹・手塚治虫
脚本:山下平祐、稲本達郎
出演:藤真秀、日笠陽子、安元洋貴、山寺宏一、木内秀信、小山力也、宮野真守、関俊彦、田中秀幸、古川登志夫、鈴木みのり、津田英三、朴璐美羽、佐間道夫
音楽:菅野祐悟
制作:2023年、日本

あらすじ(ネタバレなし)

人間とロボットが“共生”する時代。

強大なロボットが次々に破壊される事件が起きる。
調査を担当した刑事ロボット・ゲジヒトは犯人の標的が大量破壊兵器となりうる、自分を含めた「7人の世界最高水準のロボット」だと確信する。

時を同じくしてロボット法に関わる要人が次々と犠牲となる殺人事件が発生。
「ロボットは人間を傷つけることはできない」にも関わらず、殺人現場には人間の痕跡が全く残っていなかった。

2つの事件の謎を追うゲジヒトは、標的の1人であり、世界最高の人工知能を持つロボット・アトムのもとを訪れる。

「君を見ていると、人間かロボットか、識別システムが誤作動を起こしそうになる」
まるで本物の人間のように感情を表現するアトムと出会い、ゲジヒトにも変化が起きていく。

そして事件を追う2人は世界を破滅へと導く史上最悪の「憎しみの存在」にたどり着くのだった…。

『PLUTO』の感想

オリジナルを先に見るべし

浦沢直樹の原作は未読なので、アニメ化としての出来はわからないけれども、とても素晴らしいアニメだと思った。

このお話しは手塚治虫の『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」というエピソードをふくらませたものなので、手塚治虫の元のアニメか漫画を見ておいた方が10倍楽しめる。
私は第1話を見て、とても出来が良いので、あわててYouTubeを検索し『鉄腕アトム』の1965年のアニメ化の該当のエピソードを見直してから続きを見た。
「なるほど、ここをこんな風に膨らませて描いたのか」と感心したが、この感慨は回を追うごとに増していった。

↓ここから先はネタバレあり↓

アニメ『PLUTO』の感想

出典:imdb

例えばオリジナルにウランがプルートに単独で会いに行くシーンがあるが、あれに該当するシーンが第3話にあって、これなんかとりわけ「そうきたか!」的な面白いアレンジ。

また、原作と違って最後の方までプルートが登場せず、全体を見せないバトルアクションの臨場感が秀逸。

主役は、オリジナルでは後編になってやっと登場する刑事ロボット・ゲジヒト。
対してアトムは完全な脇役からスタートし、最後の最後はおいしいところをもっていく。

何から何まで見事な構成。

ロボット三原則の深掘り

手塚治虫のオリジナル『鉄腕アトム』には有名な“ロボット三原則”というのがあって、いわゆるロボットは人間を殺したり、人間に嘘をついたりすることができない、というプロテクトがかけられている。
オリジナルにはそのプロテクトを外したアトラスというロボットが悪事を働き、アトムと対決する、というエピソードなどもあった。
しかしそれと対照的に、アトムは高度に発達したロボットであるがゆえに、人間に「優しい嘘をつく」ことができるにまで至っている。

つまり、

1、ロボットは人間に嘘をついてはいけない、という原則がある。
2、ところがロボットが高度に発達すると、人間に近づいてゆく。
3、人間に近づくことにより、人の気持ちをおもんばかって、嘘をついたりすることができるようになる。

これはすなわち、ロボットが発達してゆくと、以下のような命題にぶち当たるということだ。

完全なロボットとは何か?
理想のロボットとは何か?

このオリジナルのアトムが抱えていた複雑な命題ををさらに深掘りしたのが、この『PLUTO』なのである。

人間以上に人間的な(出典:imdb

ロボットが魂を持った世界観

AIがどんどん高度になり、人間と変わらぬ感情を持つようになるのもそう遠くない未来のことだと言われている現在。

日本は八百万の神様の国だから、モノに魂が宿って感情を持つと言うのは受け入れられやすい概念だ。

ガンダムとかエヴァンゲリオンとか、日本のロボットアニメがとりわけ「人間を描く」ことを本意としてきたのも、この日本人気質が根本にあるからだと思う。

AIが高度に発達したあまり、人間のような複雑な思考が可能となり、自然とロボットにも魂が宿るようになって、ロボットが人間のような感情や死生観を持つに至った。

このアニメはそういう世界観ということで理解すると、スッと腑に落ちるものがある。

この見方を踏まえて最終回を見ると、このアニメの価値がよりクリアに伝わってきた。

先ほど言及した、本来、嘘をつけないはずのロボットが、高度に発達ししたあまりにつく「優しい嘘」。
このモチーフが、とても自然な形で、感動的に最終話で使われていたのだ。

どんな悲しい過去を思い出してしまうのだとしても、それを知りたい。
そう思ったヘレナに、アトムは優しい嘘をつく。
その嘘に気づいたヘレナは、アトムに「ありがとう」と何度も心の中で感謝する。

科学があたたかみのある人の心を宿した時、それは正しい発達を遂げるのである。

世間ではやれ「AIに規制をかけるべきだ」とか、「AIが人間の代わりをするようになって、人間は本来の判断力を失っていく」とか「AIが人間の仕事を奪ってしまう」とか、いろいろ言われているが、ロボットが高性能のAI(そして魂)を宿し、人間の良きパートナーとして共生する未来が来た日には、こんな懸念もAIが発展途上にあった過渡期の“ロボット差別”として、笑い話になる未来がいつかやってくるのかもしれない。

最後にどうでもいいこと2点

最後に、どうでもいいけど、このアニメのタイトル、登場人物のセリフを聞く限りでは「プルートゥ」と書いて「プルート」と読むらしい。
ちょうどオリバー・ストーン監督の映画『プラトーン』の逆パターンだね。
(あちらは「プラトーン」と書いて「プラトゥーン」と読む)

それまで戦争アクションの定番ジャンルだったベトナム戦争ものに初めてリアルな人間性を取り入れた映画『プラトーン』と、何か附合するものを感じないだろうか。

それから、もっとどうでもいいことだけど、見ていて終始、天馬博士が碇ゲンドウにしか見えなくて困った。

「ロボットアニメを通して人間を描く」モチーフの作品としてはこれも附合と言えないことも……ないか。

評価

5つ星評価は来るべき未来にとっておきたい。
★★★★

Good Movie 認定


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鉄腕アトム 第13巻「地上最大のロボットの巻」(手塚治虫)

漫画家・浦沢直樹インタビュー(『PLUTO』アニメ化について)

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