作品データ
監督:前田真宏
原案・キャラクターデザイン:本田雄
絵コンテ・演出:前田真宏
出演:山寺宏一、林原めぐみ
音楽:矢野博康
制作:2014年、日本
あらすじ(ネタバレなし)
ある朝、目が覚めたらゴキブリになっていた女の子。
彼氏に助けを求めるが・・・。
『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』の感想
庵野秀明監督が立ち上げた、若手クリエイターに自由に短編アニメを作らせるという企画『日本アニメ(ーター)見本市』。
全35作品を見終わって、面白い作品もあれば、まあまあな作品もあり、つまらない作品もあれば、見終わって一瞬で、たったいま自分が何を見たのか忘れてしまうような作品もあった。
そんな中、もう本当に感動して、心に残る、素晴らしい作品だと思えるアニメがひとつあった。
それがこの、『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』である。
(しかしこのタイトルだけは何とかならんものか)
たぶんこれ、私がこれまでの人生で見た短編(実写も含む)で一番好きな作品かもしれない。
内容はなんてことのないシンプルなもの。
ある朝、目が覚めたら、ゴキブリになっていた女の子。
焦って彼氏に助けを求めるが、彼氏は彼女の姿を見て驚き、ビビりながら、自分を潰そうと追いかけてくる。
ほとんどそれだけの作品なのだが、私はこのたった8分かそこらの作品を、見終わるたびに、涙がほろりと流れてしまうのである。
↓ここから先はネタバレあり↓
ゴキブリになった自分とそれに気がつかない彼氏とのすったもんだの末、ふと気がつくと、女の子はソファーベッドの側で目を覚ます。
いわゆる夢オチである。
そこに現れる一匹のゴキブリ。
ゴキブリは何かを訴えるように、女の子を見つめている。
何かを悟ったように、うっすら微笑む女の子。
パン!
と音がして、彼氏がそのゴキブリを潰して殺す。
女の子は驚いて、そして、涙を流す。
これがこの短い物語のラストシーンである。
つまり女の子は、目の前に現れたゴキブリを見て、
「ああ、彼氏がゴキブリになってしまったんだ・・・」
と思うのだ。
しかし女の子は、そんなトンデモない現実を、一瞬で受け入れてしまう。
笑顔さえ浮かべながら。
なぜなら彼女は夢の中で、愛する者に気づいてもらえず、虐げられる辛さを学んだからだ。
考えてもみよ。
ゴキブリになった彼氏とこれから一生、共に暮らしていかねばならないのだ。
なんという、過酷な運命だろうか。
その過酷な運命を、女の子は笑顔さえ浮かべ、自然に受け入れてしまうのだ。
しかし彼氏だと思ったそのゴキブリは、その次の瞬間、
パン!
という音とともに、潰れて死ぬ。
潰したのは等身大の彼氏。
そんなゴキブリを潰す彼氏を見て、女の子は涙を流して喜ぶ。
そこにあったのは、なんてことのない、いつもの日常。
目が覚めたらいつものように窓からは朝日が差しこみ、彼氏がいる。
女の子はそんな当たり前の日常に心から感謝するのだ。
このラストの素晴らしさがわかるであろうか。
つまりこれは、仏教の究極の悟りの境地なのである。
与えられた運命を受け入れ、当たり前の日常に心から感謝する。
そういえば、こんな逸話を思い出した。
昔ある仏教の偉いお坊さんが、悟りを開くために、山ごもりをした。
何年もの厳しい修行と苦学の末、なかなか悟れず、そのお坊さんは「もうやめた!」と山を降りた。
俗世に戻ってしばくして、ある日、庭の掃除をしていたら、ほうきが小石に当たって近くの竹にぶつかり、
カチン、
と音を立てた。
その「カチン」という音を聴いて、お坊さんはハッと悟りを開くに至ったという。
この映画のラストの、パン!という、ゴキブリを潰す音はまさにそれなのだ。
私はこの「パン!」という音を聴くたびに清々しい気持ちになり、
女の子の涙を見るたび、ほろりと私も涙を流す。
そうして、自分に与えられた運命を受け入れ、当たり前の日常に感謝する心を一新するのだ。
評価
エンターテイメントとして面白く出来ているし、表現されているもののはかり知れない価値の大きさも尊い。
★★★★★
日本アニメ(ーター)見本市資料集Vol.0 「西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可 のぱらぱら本」
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