作品データ
原題:In a Valley of Violence
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト
出演:イーサン・ホーク、ジョン・トラボルタ、タイッサ・ファーミガ
制作:2016年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
心に傷を抱え、愛犬と共に荒野を旅する男ポール。「暴力の谷」と呼ばれる町デントンに流れ着いた彼は、些細なことから悪徳保安官補佐ギリーとトラブルになり、町を出る。ところがギリーは根にもつ男だった。寝込みを襲われ、愛犬を殺されポールは、復讐を果たすべく、暴力の谷へと再び舞い戻る。
『バレー・オブ・バイオレンス』の感想
タイッサ・ファーミガが出ていると知って、あの透明感のある美少女が埃くさい西部劇に出ている光景というのもオツなものじゃないかと思って見てみることにした。
西部劇は好きなのだが、見たい西部劇は他にもたくさんあるからな。
最初のタイトルクレジットとか、昔ながらの西部劇風。
しかしそれより先に、いい感じに汚された犬の足を見ただけで、「ああこれは私の好きなタイプの映画だ」とわかった。
こういう大昔を舞台にした映画で、人の顔や足、地面を汚していない映画にロクなものはないと相場が決まっている。
最近の映画はここら辺の大切さがわかっていなものが多く、時代劇なのに人の顔がつるっとしていたり、足が汚れてなかったり、地面が平らできれいだったりすると、もう世界に入っていけず、いくらストーリーがよく出来ていてもおもしろく見ることができない。
そういえば最近、役所広司が侍の姿でCMに出ていたが、あれはいい感じに顔を汚していたな。
CMは制作費の秒単価が最も高い映像作品だというが、それにしてもこの点でアートとして映画がCMに負けていたらしょうがない。
とにかくこの『バレー・オブ・バイオレンス』、モノの演出も人の演出も最高。
西部劇っぽい雰囲気も最高。
そう、人の演出の素晴らしさといったら。
イーサン・ホークやジョン・トラボルタは言うまでもないことだが、それにしてもタイッサ・ファーミガまでがここまで見事な演技をするとは思わなかった。
最初に登場するシーンの長台詞は完璧にキャラクターを表現していて素晴らしい。
ストーリーもよくて、西部劇はやはりこういうシンプルにしてディテールで唸らせる映画こそ王道だな、と思った。
斯様に半分まで見たらこれはもう間違いなく5つ星の傑作だと思ったのだが、なんとこの映画、後半がヘンになっちゃうのだ。
前半はあれほど完璧な映画だったのに、後半なんでこんなおかしな映画になるんだろう。
↓ここから先はネタバレあり↓
おかしなところはいっぱいあるが、例えば最後の復讐シーン。
主人公が危機一髪のところで、ヒロインが敵を撃ち殺し、彼を助けるのだが、仮にも復讐劇なんだから、最後のトドメを女の手に手伝ってもらってよかったのだろうか。
女は敵の肩だけとか、急所を外して撃って、主人公の手にそっと銃を渡す、なんてシーンが見たかった。
その後、あれほどストイックに女の誘いを断っていた主人公が、復讐が終わるや否や、なぜかあっさりヒロインと抱き合うのだ。
途中で主人公がヒロインに心を許そうとしないのは、失った妻と子供への想いを捨てきれずにいるからだ、という表現があっただけに、たかが復讐を手伝ってくれただけでどうしてそこまで心に変化がおとずれるのか疑問だった。
妻と子供を失った主人公にとって、犬はたった一匹の心の友だった、というのはわかる。
しかしその敵討ちが終わってスグに、犬に代わる新たな心の拠り所を得るなんて、ひどく安易な気がして、ラストはどうも締まりが悪く感じた。
まあそんな感じでいろいろおかしなところはあるが、やはり一番ヘンなのは、クライマックスの一連の銃撃シーンにカタルシスがまったくなかったことだ。
タランティーノの『ジャンゴ』みたいに、クライマックスでいきなり主人公が目覚ましい最強ぶりを発揮する、みたいな演出を、少しは取り入れてほしかった。
前半のリアリティで後半そんな展開を自然に魅せるだけの貯金は溜まっていたはずだ。
映画にとってのリアリティが何のためにあるのか、「わかってない」と言わざるを得ない。
まあでも、前半であれほど見事な演出力を発揮したくらいの監督だから、そこは何かこだわりがあったのかもしれない。
評価としては、前半は星5つ。後半は星2つ。
まんなかとって全体としては星3つといったところかな。
私はタランティーノの『フロム・ダスク・ティル・ドーン』という映画が好きで、かれこれDVDで何十回も繰り返し見ているのだが、見るのはいつも前半だけで、後半は早送りしている。
そんな見方をする映画が新たに私の繰り返し鑑賞リストに加わった、という感じ。
評価
前半だけなら星5つ。前半だけでも十分オススメの傑作!
★★★★★
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