作品データ
原題:Carnage Park
監督:ミッキー・キーティング
脚本:ミッキー・キーティング
出演:アシュリー・ベル、パット・ヒーリー
制作:2016年、アメリカ
あらすじ(ネタバレなし)
ビビアンは銀行で強盗事件に遭遇。犯人のジョーに人質に取られ、車で人里離れた山奥へと拉致される。すると、そこで突然、何者かの狙撃を受けジョーは射殺され、ビビアンは何者かに薬を嗅がされて気を失ってしまう。目を覚ましたビビアンは、自分が鉄柵で囲まれた広大な敷地の中に閉じ込められていることに気づいた。そこは、殺人鬼ワイアットが様々な殺人トラップを駆使して“人間狩り”を楽しむ、恐怖のハンティング・パークなのだった。
『ハンティング・パーク』の感想
初っぱなからもろ『レザボア・ドッグス』や『フロム・ダスク・ティル・ドーン』みたいなシーン。
続いて時系列のシャッフル。
雰囲気は『悪魔のいけにえ』なんだけど、作風はタランティーノに影響受けすぎ、というか、いくらなんでもタランティーノの映画に似すぎじゃないかと思えるほどタランティーノ映画している。
これは意図的なのかな?
自分の作風をわきに置いて、今度の作品はタランティーノっぽくいこう、ってのならいいんだけど、天然だったら少しヤバいんじゃないかってほどそっくりだ。
昔ヒッチコックに影響を受けた映画を指す言葉で“ヒッチコッキアン(Hitchcockian)”という造語があったが、最近はタランティーノに影響を受けた映画を“タランティニアン(Tarantinian)”というそうだ。
これは典型的なタランティニアン映画ね。
私は常々、似ている映画にはインスパイア系とニセモノ系の区別があると思っている。
インスパイアを受けただけで独自の創意が光っている作品はインスパイア系、単なる猿マネはニセモノ系に定義される。
猿マネに見えるものでも、実際はオマージュというケースもあり、その場合は似すぎていてもあるいはインスパイア系に区別してあげられる。
この『ハンティング・パーク』はどうか?
セリフ回しなんかはニセモノくさい。
最初の方でケチな犯罪者がヒロインの女性に拳銃を突きつけ、「怖がるな。これがお前の聖書だ。そしてその聖書にはたった1行しか書いてない。“逃げるんじゃねえ”(Fear not, this is your Bible and it’s only got one verse. “Do not run from me”)」とか、ああやっちゃったなって感じで、かなりニセモノ臭が漂っている。
ただ日本映画の『鮫肌男と桃尻女』みたいな、セリフだけじゃなくキャラ造形から演出まで全編タランティーノと北野武のニセモノみたいな映画とは違って、決して無理してる感じはしないから、まあ愛嬌の範疇。
それにこの映画にはいくつかタランティーノの受け売りではない、この映画ならではの美点がある。
そのひとつがヒロイン。
叫び声をあげ、怖がって叫ぶだけな凡百のスクリーム・クイーンと違い、ヘンに気が強いところが魅力的で、ジタバタする様に滑稽な臨場感が出ている。
それから音楽のセンスが超絶に良い。
70年代アメリカ南部の雰囲気に合った、センスの良いカントリーやオールディーが流れるかと思ったら、ところどころエキゾチックなアジア音楽がかかったりして、それがまたなぜかこの赤茶けた、古いフィルムの色合いを再現した映像にぴったりフィットしている。
例えばこの曲。
こんなアジアな音色がテキサスの荒野によくなじんでいること。
あまりにも自然に流れているので、かかって暫くしてから「あれ、これ、よく聴いたらアジアの曲じゃん」と気がついたくらいだ。
タランティーノの『キルビル』に梶芽衣子の演歌が流れるチグハグさとは一線を画する趣がある。
エンディング・テーマ曲がまた最高!
ストーリーも、シンプルなホラー映画かと思ったら、わりと軽くだけれども二転三転したりする。
舞台は70年代のアメリカなのだが、フィルムの質感もほぼその頃に作られた映像を再現している。
残念なのはいいところでヘタクソな演出が目につくことで、例えばヒロインが警官と遭遇するシーンとか、ラストカットとか、今からでも撮り直してほしいくらいドヘタ。
あとラスト20分は超ぐだぐだ。
でも最初の1時間だけでも見てよかったと心から思う。
ラスト20分は積極的に無かったことにしてやりたいくらい、音楽のセンスとヒロインの存在感は捨て難い。
人には勧めないけど、私は好きだ、この映画。
評価
立派なインスパイア系の冠を贈呈したい。
★★★★★
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